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    なつのおれんじ

    @orangesummer723

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    なつのおれんじ

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    ヴリトラ×光の戦士♀
    ⚠6.1までのネタバレあり
    ⚠自機の名前が出る
    ⚠『ヴリトラ』とのCPです

    #ヴリ光♀

    ヴリ光♀ / 恋愛初心者の一翼と一人の話 ヴリトラさま、と己の名を呼ぶ声がする。人形に向けていた意識を本体に戻すと、上半身が隠れるほど大きな壺を抱えた人間が、太守の執務室である大広間へと入ってきた。姿は見えずとも、その独特な気配のおかげで正体はすぐに分かる。
    「ユゥイか。このような夜更けに私の元を訪れるとは、珍しいこともあるものだ」
     この星を救った英雄である少女・ユゥイが、急ぎ足でこちらへと近づいてきた。彼女は壺をゴトリと床に置くと、穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。
    「突然ごめんなさい。今はお仕事中ですか?」
    「いや、今日の執務は概ね終わっているが、一体どうしたのだ?」
     ユゥイがおもむろに壺の蓋を開くと、その中に乳液のようなものがたっぷりと入っている様子が見えた。
    「鱗を剥がした部分の炎症に効く薬を作ってみたんです。良かったらヴリトラさまに使って貰いたいなと思って」
     予想外の贈り物に、私は思わず目を見開いた。
    「それは有難い。まさか、これは全て君が作ったのか?」
    「はい! 以前ソーム・アルの山麓で、ドラゴン族にも効く傷薬の作り方を調べたことがあったんです。それをヴリトラさまの症状に合わせて調整してみました。上手く効くと良いんだけど……」
    「驚いたな、君は錬金術師の才もあったのか。イシュガルド産の素材は、ラザハンではなかなか手に入れることができない。きっと今まで使っていた薬よりも、効果を発揮するだろう。しかし、これだけの量を作るのは大変だったのではないか?」
    「いえいえ。私、何かを作るといつも量が多くなっちゃうんです。だからこれくらい朝飯前です!」
     彼女は細い腕で力こぶを作ってみせると、満開の花のように笑ってみせた。その笑顔を見つめていると、不思議とこちらの心も安らいでいくような気がする。
     彼女と過ごしていると、今まで感じたことのない高揚感が全身を包み込む。太守としての責任も、人と竜のしがらみも、彼女と一緒にいる時だけは忘れることができた。それが何故なのか、未だに答えは見つけられていない。
     私は彼女の方へ顔を近づけると、深々と頭を下げた。
    「君の優しさに心より感謝を。ありがとう、ユゥイ」
     そうして顔を上げると、彼女は私を見つめながら、何故かその頬を赤く染めていた。
    「どうかしたのか?」
    「い、いえっ! あの、もし良ければなんですが、私が薬を塗ってもいいでしょうか?」
    「君が……?」
     彼女は鞄から大きなハケを取り出すと、はにかんだ笑顔を浮かべた。
     〇

     外壁を塗装するためのハケを片手に、彼女が自分の脇腹あたりに潜り込んでくる。彼女がここまで私に近づいたのは、知り合ってから初めてのことだった。
    「先ほどは良いと言ったが、薬を塗る作業など人形に任せればよいのではないか?」
     無意識に緊張しているのか、身体が強張り体温が上昇していく。星を救った英雄と言えど、彼女はれっきとした人間だ。この翼がぶつかればヒトは容易く傷つくし、己の鋭い爪が身体を掠めれば、白い肌はあっという間に血で染まってしまうだろう。今までヒトから距離を置いていた私にとって、彼女の接近はあまりにも慣れないものだった。
    「ヴァルシャンくんは今、別の場所にいるんでしょう? この薬、消費期限が短いんです。だから早めに塗って差し上げたいんですが……やっぱり迷惑でしょうか?」
     先ほどまで満開の笑顔だった彼女の表情が、まるで濡れた子犬のような気落ちしたものに変わった。花を枯らしてしまった罪悪感からか、胸に締め付けられるような痛みを覚える。
    「迷惑ではない! 私はただ、君のことを心配しているだけで……すまない、そんな顔をさせるつもりはなかったのだが」
    「心配……? 私をですか?」
     私の言葉を聞き、彼女はきょとんと目を丸くした。最低限の説明だけでは、私の思いは伝わっていなかったのだと気づく。私がどれほど君の身を案じているのか、きちんと伝えなければならないと思い、私は大きく息を吐いて呼吸を整えると、彼女の瞳を正面から見つめ直した。
    「全ては君を思ってのことなのだ。ヒトに比べて、私の身体は大きすぎる。私が不用意に動けば、翼と胴体の間に入っている君に害を及ぼしてしまうかもしれない。この翼も、この爪も、ヒトにとっては全てが凶器となり得る。もし君を傷つけてしまったらと考えると、身の鱗もよだつ思いなのだ」
     言葉を尽くしてそう伝えると、彼女はしばらく固まったのちに、まるで朝露に濡れた花のような笑みを零した。 
    「ふふっ……やっぱりヴリトラさまは優しいですね。私の身を本気で心配してくれる人なんて、もう暁のみんなだけだと思ってました」
    「それはどういう意味だ?」
     彼女は眉尻を下げて、少しだけ困ったように笑った。
    「私を『英雄』だと知って仕事を依頼してくる人たちは、言葉には出さなくてもこう思う人がいるんです。英雄なら上手くやってくれる、心配する必要はない、と。私を信じてくれる人たちを裏切りたくなくて、今まで必死に頑張ってきました。でも最近は、当然のように結果を求められる……それに少しだけ、プレッシャーを感じていたんです」
    「ユゥイ……」
     英雄とは押し付けられた数多くの理不尽を乗り越えてきた者であり、長い時を生きてきた私は、そのような立場に置かれた者たちを何人も見てきた。無辜の民の中には、英雄の心に寄り添えない者も多くいる──そう知っているはずなのに、改めて彼女の口から悲痛な思いを聞かされると、顔をしかめるほどに心苦しくなってしまう。
     私の顔を見た彼女が、少しだけ苦しそうに笑った。
    「そんな顔をしないでください。他の人たちと違って、ヴリトラさまは私を一人の人間として見てくれました。私はそれが本当に嬉しいんです」
     彼女は両手を伸ばすと、私の顎の先端にそっと触れた。
    「ユゥイ…… 」
     驚きのあまり、私は身体を引くことすらできなかった。触れた部分から、じんわりと彼女の熱が伝わってくる。ヒトの手はこれほど柔らかいのかと、人形の身体では気づけなかった感触に思わず息を飲んだ。
    「私、一つだけヴリトラさまに伝えていなかったことがあるんです。貴方に直接薬を塗ってあげたかったのは、消費期限の理由だけじゃなくて……この手で直接貴方に触れて、少しでも痛みを和らげてあげたかったからなんです」
    「それは、治癒魔法をかけてくれるということか?」
     彼女の言葉の真意がわからず、思わず聞き返してしまう。
    「それもありますが、ヴリトラさまは『さする』という行為をご存じでしょうか? 痛みが生じた部分を手で優しく撫でると、治癒魔法を使っていなくても、痛みが軽減することがあるんです。それに身体の傷だけじゃなくて、心の傷にも効くこともあって……本当に不思議ですよね」
     その時ふと脳裏に、ナブディーンたち星戦士団の団員の顔が思い浮かんだ。まだヴァルシャンとして正体を隠していた頃、私が浮かない顔をしていると、よく彼らが頭を撫でてくれたことを思い出す。幼い容姿ゆえに愛玩されているのかと思ったが、彼らはもしかすると、私の心情を察して少しでも苦悩を晴らそうとしてくれていたのかもしれない。
    「ヴリトラさまの傷を見ていたら、居ても立ってもいられなくなって……こんなにも、誰かのために尽くしたいと思ったのは初めてなんです。それはきっと、私がヴリトラさまのことを何よりも大切に想っているから、かもしれません」
     頬を赤らめながら彼女が笑った瞬間、身体の奥底から何か熱いものが込み上げてきて、私は堪えるように奥歯を噛み締めた。思わず喉が鳴る音が漏れてしまい、慌てて咳払いをする。その様子を、彼女は不思議そうに見つめていた。
     民に向けるものとはまた違う、庇護欲にも似た思いがむくむくと膨れ上がっていく。今まで民を平等に愛したことはあれど、これほど個人に大きな感情を向けたことは初めてだった。彼女もまた、誰か一人に尽くしたいと思うのは初めてと語り、それを『大切に想っているから』だと理由付けた。ならば私の言葉にできぬ感情も、彼女を特別に大切にしたいという思いから生まれているのかもしれない。
     英雄として生きる彼女の苦悩を少しでも減らすことができたなら──そう思った次の瞬間、私の身体は勝手に動き出していた。

     ○

     しばらくの間黙り込んでいたヴリトラさまの身体がゆらりと動き、私の何十倍もある大きな頭が目の前に現れた。驚いて目を瞑った次の瞬間、湿り気のある柔らかい何かが私の頬を撫でる感触がした。一瞬の出来事で状況が飲み込めなかったけれど、この感触は何度か体験した覚えがある。それはチョコボやアルゴスなどの、大きな動物の舌の感触と同じだった。
    「ヴリトラさま……?」
     恐る恐る瞼を開けると、彼は口先からちろりと舌を出したまま、まるで自分の行いが信じられないといった表情で固まっていた。 
    「私は突然何を……  す、すまない、君を食べようとしたわけではないのだ。君のことを考えているうちに、気づいたら身体が勝手に動いて……本当にすまない、怪我はないだろうか」
    「えっと……だ、大丈夫です、怪我一つないです、たぶん。だから気にしないでください?」
     突然の出来事に混乱しているせいか、自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。まさかヴリトラさまの方から触れてくれるだなんて、思ってもみなかった。嬉しいけれど、今まで何かにつけて私を近づけさせなかった彼に、一体どのような心境の変化があったのだろう。
     それでも、確かにわかることが一つだけある。彼の触れ方は、食事をする時のようなものではなく、まるで相手を慈しむような優しいものだった。ふと、つい先ほど彼にした話を思い出して、私はあっと声を上げた。
    「あの、もしかしてヴリトラさまは、私をさすってくださったのですか? さする行為は心の傷にも効くと私が言ったから……貴方の身体の一番柔らかい部分で、私に触れてくれたのですか?」
     ヴリトラさまはハッと左目を見開いたのちに、それを左右へと泳がせた。
    「そう、なのかもしれない……? 私のことを大切だと言ってくれる君に、何か報いたいと想って、本当に無意識のうちに身体が動いていたのだ。こんなことは生まれて初めてだよ」
     恐ろしかったかい、とヴリトラさまが申し訳なさそうな声で尋ねてきた。大切なひとに触れられて恐ろしいわけがなく、私は勢いよく首を横に振った。
    「そんなわけありません! むしろ貴方との距離が近づいたみたいで、嬉しかったです」
     体温が急上昇して、鏡を見ずとも自分が顔を真っ赤にしているとわかる。あまりにも嬉しくて、堪えようとしても自然と笑顔が溢れてきた。
     本当はこのまま、自分の隠していた想いを伝えてしまいたかった。貴方は暁の仲間と同じ意味の『大切なひと』ではないということを。

     私が貴方を愛しているということを。

     でもそれは決して伝えてはならない想い。ラザハンの復興を支え、姉であるアジュダヤさんを探しに行こうと準備をしている今、この想いを伝えても、結果はどうであれ彼の心を乱してしまうだろう。前に進むと決めた彼の足枷になることだけは、絶対にしたくなかった。 
     それに仮に想いが通じたとしても、私たちの前には圧倒的寿命差という壁が立ち塞がる。聖女シヴァとフレースヴェルグさんの物語が脳裏を過り、私はぎゅっと手のひらを握りしめた。
     だからこの瞬間だけ、我が儘になっても許されるだろうか。寄り添うことが出来ないのであれば、せめて少しの間だけでも良いので彼に触れたかった。迸るような衝動を抑えきれず、私は再び彼の元へと手を伸ばした。
    「あの、ヴリトラさま。もしよかったら、もう一度私をさすってくれませんか? 貴方の優しさをもっと感じたいのです」
    「それは構わないが、本当に良いのか?」
    「はい! 私、ヴリトラさまにさすって貰えると元気が出るので!」
     ならばと呟くと、ヴリトラさまは何度か深呼吸を繰り返して、ゆっくりと私に向かって舌を伸ばしてきた。手のひらに彼の舌先が触れる。どくんどくんと脈打っていて、ちょっと唾液でぬるぬるしているけれど、心地よい温かさだった。嬉しくて、幸せで、なんだかふわふわした気持ちになる。
    「温かくて気持ちいい……」
    「本当に物好きだな、君は」
    「ふふ、そうかもしれませんね」
     少しだけ呆れたような声が降ってきて、なんだか照れ臭くなってしまったけれど、これが本心なのだから仕方ない。ここまできたら堪える必要もないだろうと開き直った私は、精一杯の笑顔を彼に向けた。
     もっと、と呟くと、ヴリトラさまの舌がさらに伸びてきて私の頬を撫でた。先ほどのただ触れるようなものではなく、今度は私の肌の感触を確かめるように撫でてくれている。ヴリトラさまの喉の奥からぐるぐると音が聞こえてきて、愛おしい気持ちが溢れてしまいそうだった。
     少しだけ、期待しても良いのだろうか──なんて思ってしまうのは、きっと彼の香りに酔っているせいだ。

     その夜、私の装備が彼の唾液でベトベトになるまで、その行為は続いたのだった。
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