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    なつのおれんじ

    @orangesummer723

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    なつのおれんじ

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    書きかけのまま放置していたオル+光を発掘したので供養。ヒカセンの種族と性別は決めていません。

    #オルシュファン
    orgophane

    耳に残るは君の声 扉が開く音さえ、かき消してしまうような吹雪の夜。
    「オルシュファン!」
     そう声を掛けられて私が顔を上げると、お前は決まって頭に積もった雪を払いながら、こちらを見て微笑んでいた。私がそれに『おかえり』と返すと、お前はとびきり嬉しそうな笑顔を浮かべながら、旅での出来事を話し始めるのだ。
     そんなお前の楽しそうに話す声が、私は大好きだった。何気ないようで特別な毎日を、私は愛していた。

     しかしこの先お前と話すことは、もう叶わないのだろう。つい今しがた、私は最後の一言を吐き出し終えたところだった。
     霞んでいく視界の真ん中に、お前が瞳に涙を溜めながら、必死に笑っている様子が写っている。何かきっかけがあれば、すぐにでも崩れてしまいそうな、あまりにも脆い笑顔だった。それは普段の笑顔からはかけ離れたものだったが、最期に友の無事を確認できたことは、私にとって唯一の救いとなった。

     震える声で名前を呼ばれたが、私はそれに答えることができない。自らの腹に空いた大穴からエーテルが漏出し、全身の力が抜けていく。身体が急速に冷たくなってきたのは、私の心臓が血を送る役割を果たしていない為だろう。
     友に向かって伸ばした手は届かず、ついには目を開けることも出来なくなって、私は仕方なく脱力感に身を任せた。
     視界が暗闇に覆われ、それまで当たり前に感じていた五感が奪われていく。吹き付ける風の感触も、お前が握ってくれた手の温もりも、もう何も感じることができない。ただ、どこかに引きずられるような感覚だけが、私の意識を支配していた。
     これが死か。これが星海に還る感覚か──そう己の運命を受け入れ始めた次の瞬間、暗闇の向こう側から、誰かの泣き声が聞こえてきた。

     我が最愛の友が、私の名前を呼びながら泣いている。
     嗚咽に喉を詰まらせながら、言葉にならない声で泣いている。
     それはあまりにも悲痛な叫びで、もう指先一つ動かせないというのに、私は思わず耳を塞いでしまいたくなった。
     私は知らなかったのだ。お前がそんな風に、感情を露わにして泣くことがあるという事を。
     頼むからもう泣かないでくれ。そんな泣き方をしては、お前の喉が潰れてしまう──そう声をかけようとしても、今は呼吸すらもできない身だ。私はただ黙って、友の泣き声を聞いていることしかできなかった。

     ああ、戦神ハルオーネよ。なぜ死にゆく身体の最後に、聴覚だけをお残しになったのか。そう問いかけても返事が来るはずもなく、私は途方に暮れながら友の泣き声を聞き続けた。
     そうしているうちに、心の底から悔しさが湧き上がってきて、私の魂はまるで体温を持ったように熱を持ち始める。友とこの先を共に生きていけないことが、そして何より友をここまで泣かせてしまったことが悔しかった。
     その想いはやがて激流となって、私の魂を激しく揺さぶっていく。怒りにも似た感情に熱が伴って、まるで熱を失った肉体に、再び血液が流れていくような感覚がした。
     そうだ。友の命を守れた事に安堵して、星海に還っている場合ではない。私が死んだために、友は太陽のような笑顔を曇らせて涙を流しているのだ。その涙を晴らすために、そして友が笑って前へと進めるように、この魂を懸けて力にならなくては──そう考えれば考えるほど、私はどこかに引きずられるような感覚に逆らうことができた。
     大事な友を泣かせたままでは終われない。たとえこの身が朽ちようとも、私の意識は、私の魂は、まだ此処に留まっている。ならば必ず、私にも出来ることがあるはずだ。
     そう覚悟を決めた瞬間、暗闇に覆われていた視界の先に、光が見えたような気がした。



     邪竜ニーズヘッグの双眸からエーテルが溢れ出し、天へと昇っていく。それが空中で霧散する様子を見届けて、私はようやく己の為すべきことをやり遂げることができた。

     曇りを晴らすことはできただろうか。前へと進む助けになっただろうか。ニーズヘッグの片目を手にして立ちすくむ友を見つめながら、ふとそんなことを思う。
     本当は、この先も友の側に在り続けてたかった。しかし、魂だけの存在となっても、ここまで友の旅路を見守れたことは奇跡であり、これ以上を望むのは欲張りが過ぎるのだろう。残された時間も尽き、私の魂はついに星海へと還ろうとしていた。
     これで本当にさよならだ。そう心の中で呟くと、これ以上未練が残らないように、私は友に向かって背を向けた。

     己のエーテルが、ニーズヘッグの魂と同じように空へと霧散する瞬間。いつかの吹雪の夜に聞いたものと同じ──懐かしくて、暖かくて、泣きたくなるほどに優しい声が、私の名前を確かに呼んだ。

     ああ、これならば。
     お前はきっと、大丈夫だ。
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    riza

    REHABILI【rizaのエメ光♀】
    「デートみたい?デートだよ?」
    #この台詞から妄想するなら #shindanmaker
    https://t.co/hckXrMQeba
    これは開き直ったエメトセルク

    いつものミコッテ♀ヒカセンだよ
    ※謎時系列イマジナリーラザハンにいる
    ※実際のラザハン風は多分違うと思う

     まだ土地勘のないラザハンで、ほとんど拉致されるように連れ込まれた店にはウルダハでもなかなかお目にかからないような服や宝飾品が並んでいた。
     彼が選んだ数着のドレスごと店員に任せられたかと思ったら試着ファッションショーの開催となり、頭に疑問符を浮かべたままサベネアンダンサー仕込みのターンを彼の前で決めること数度。
     そういえばこのひと皇帝やってたんだっけと思い出すような審美眼で二着が選ばれ、それぞれに合わせた靴とアクセサリーが選ばれる。繊細な金の鎖のネックレスを彼に手ずからつけてもらったところで我に返ると、既に会計が済んでいた。
     当然のような顔をして荷物を持ってエスコートしてくれるまま店を出たところで代金についてきけば、何故か呆れたように、プレゼントだと言われてしまった。
    「今日なんかの記念日とかだっけ……?」
     さすがに世間一般的に重要だとされるような、そういうものは忘れていない、はずだ。そう思いながらおそるおそる問いかける。
    「私にとっては、ある意味で毎日そうだがな。まあ、奢られっぱなしは気がひけるという 1255