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    数年前の千風と柿木。
    書きたいけどなんか全然上手くレールが引けなくて進まなくなったのでみてみてしちゃう😭

     その日は目が眩むような快晴だった。
    八月のアスファルトジャングルは、次第に簡単な思考も出来ないほど灼熱の海へと変貌を遂げた。燦々と輝く太陽に照らされ、滲む汗が頬と髪をぴたりとくっつけてとてもうざったい。身体が熱を放出出来ず、じわじわと脳みそが茹だっていく。あつい頭と、ぬるい腹部。アスファルトに流れ出る鮮血を、ぼやける視界で見つめた。手に持っていたはずの拳銃は気付いたら無くなっていて、どんどん冷えていく腹部に、思わず嘔吐く。身体の温度調節機能が壊れてしまったように、寒くて暑くて目が回る。鉄板のように熱帯びたアスファルトに当たる頬はヒリヒリと皮膚を刺激するのに、肋骨から下の感覚がどんどん無くなっていく。その度に胃から込み上げる液体を吐いて、中身がなくなって胃酸を吐いて、それすらも吐けなくなって喉から胃袋が出そうになって、身体中がメチャクチャになった錯覚を起こした頃、フッと急に軽くなる感覚を覚え、何か聞きなれた声で散々耳元で叫ばれて、それで……――気がついた頃には、集中治療室だった。
     手を動かそうにも、脳が上手く手に命令出来ないのかピクリともせず、体を起こそうにも力は入らず、助けを求めようと口を開けば、喉はカサついて上手く音を鳴らせない。それでも、何かで察知されたのか気が付けば医者と看護師に囲まれていて、一時はとても危ない状態だったことを告げられた。
    腹部の裂傷に、小腸の穿孔。どうやら、今日の任務で討伐した異形生命体の鉤爪が引っ掛かったらしい。今は手術も済んで、回復を待つだけだそうだ。自分事なのに、何もかもピンと来ないまま医師との話が終わった。高々十五分程度の話だったが、身体が回復に体力を使っているのか眠気に襲われて仕方が無かった。まだ麻酔も効いていて痛みも無い。今は寝ようと清潔なシーツに深く身を預ける。余談だが、自分の布団以外の掛布団は、体を強ばらせる緊張感に包まれるのは私だけだろうか。

     集中治療室から一般病棟に移動した。事故から二日後の事だった。ただ点滴を受けて眠って回復するだけの生き方をしていたらとても順調に治療が進んだらしい。自らの意思というか、単純に“そうするしかできない”ほど身体を動かせないだけだが。
    それでも数日後には、少しずつ職場や友人とメッセージでのやり取りができるようになった。NHIの交流のあった方や、家族のように良くしてくれている学生時代の先輩、何処から私のことを知ったのかは分からないが、心配のMATEをちまちまと返していた。
     勿論、警察学校時代に同期だった柿木からの連絡も絶えなかった。身体は大丈夫なのか、誰か頼れる人は近くにいるのか、いつ復帰出来るのかエトセトラエトセトラ……。質問攻めのような内容に苦笑いしながら一つ一つに返信をしていく。……けれど。
    「……復帰、するかなあ…」
     そう、復帰を考えられないほど本当に心が参ってしまっていた。モヤモヤとした気持ちを抱えたまま布団に身を預け、疲れからか寝落ちをして、看護師に呼ばれて目を覚まし、ちょっとの診察で疲れて寝落ちて、を繰り返し、重湯からお粥になった頃には病棟内を移動する許可が貰えた。点滴で動かしにくい腕を使ってMATEをするのはしんどくて、許可が貰えるようになってからは柿木と通話をするために通話可能なスペースに入り浸るようになった。
    『身体は大丈夫?』
    「うん。回復してってるよ」
    『良かった。なかなかお見舞い行けなくてごめんね』
    「いや、今は……ほとんど断ってるから」
    『そうなの?』
     NHDで一緒に居たメンバーや、学生時代の友人は私に会いに来ようと何度も連絡をくれたが、基本的に断っていた。上司が来た時は仕方なく受け入れたが、今後について相談された時には言い淀んでしまった。
     私は多分、もうNHDには帰れない。
    ふと流れてきたドラマでモンスターを見るだけで心がザワついて、窓の外に異形生命体がいるような錯覚を起こしてパニックの末医者を呼ばれ、自分に関係無い仕事用の連絡通知が来る度に体の芯が冷えて、固まってしまう。それが何を意味するのか、分からないほど馬鹿ではない。
    「……もう、辞めようと思ってるんだ」
    『えっ、……NHDを?』
    「うん」
    『NHIに行くとか?……あ、研究施設?』
    「NH職に就くのを辞める。……と、思う」
     限界だった。この世の狂気に触れすぎてしまった。適性がない人は異形生命体を見てそのまま記憶を失ってしまう程のショックを受けるらしいが、本当にその通りだと身をもって知った。知らない方が幸せだった。今後、何をするのにも異形生命体に怯えなくてはならない。……そんなの、苦しすぎる。
    『……何やるの? 今更……何も知らないフリして生活出来るの?』
    「まだ何も考えてない。怪我治して、自分にあった職場を探すよ」
    『それまでどうやって生活するつもり? 千風……頼れるひと居ないでしょ……』
    「貯金崩せば何とかなるしさ、一旦よく考えてみるよ」
     今は、休みたかった。仕事を忘れてただ休むだけの時間が欲しかった。
    働くことは嫌いじゃない。NHDとして誇りはあったし、他の人に務まらない仕事をしている優越感もあった。けど、足並みを揃えることか出来なくなった私はもう、NH職に就く資格なんてない。
    「……ごめん」
    『なにが……』
    「頑張るって、約束したのに」
     警察学校時代、どれだけ苦しくても柿木と傷を舐め合って何度も折れそうな心を支え合って過酷な訓練に耐えた。NHDになると決めた日も、一緒にNHD用のトレーニングを吐きながら受けた日も、目を瞑れば思い出せるほど鮮やかな過去だ。
    『……仕方ないでしょ、精神オカシクしちゃう人もいっぱい居るんだし、無理だと思ったら辞めるのは正解だよ』
    「……うん……」
    『でも、辞めたからって私たちが友達でなくなる訳じゃないからね。何かあったら頼ってよ』
     柿木はいつも優しい。警察学校に居た時からいつも“頼ってね”と言ってくれて、頼った時には本当に力になってくれる。人情深いというか、義理堅いと言うか。
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    PROGRESS数年前の千風と柿木。
    書きたいけどなんか全然上手くレールが引けなくて進まなくなったのでみてみてしちゃう😭
     その日は目が眩むような快晴だった。
    八月のアスファルトジャングルは、次第に簡単な思考も出来ないほど灼熱の海へと変貌を遂げた。燦々と輝く太陽に照らされ、滲む汗が頬と髪をぴたりとくっつけてとてもうざったい。身体が熱を放出出来ず、じわじわと脳みそが茹だっていく。あつい頭と、ぬるい腹部。アスファルトに流れ出る鮮血を、ぼやける視界で見つめた。手に持っていたはずの拳銃は気付いたら無くなっていて、どんどん冷えていく腹部に、思わず嘔吐く。身体の温度調節機能が壊れてしまったように、寒くて暑くて目が回る。鉄板のように熱帯びたアスファルトに当たる頬はヒリヒリと皮膚を刺激するのに、肋骨から下の感覚がどんどん無くなっていく。その度に胃から込み上げる液体を吐いて、中身がなくなって胃酸を吐いて、それすらも吐けなくなって喉から胃袋が出そうになって、身体中がメチャクチャになった錯覚を起こした頃、フッと急に軽くなる感覚を覚え、何か聞きなれた声で散々耳元で叫ばれて、それで……――気がついた頃には、集中治療室だった。
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