自分だけの居場所。週末会えた快晴の日。
せっかくだからちょっと遠出しましょうかとヘクターに誘われて大きな規模のショッピングモールまで出向くことに。
早いうちに実家を出て一人暮らしをしているヘクターだがジェラールを招くとなると色々思う所があるようで、来ていただくのは構いませんが遅くなったら自宅まで送りますと念押しされていた。
わざわざ家まで送られるのも申し訳ないとも思うし、もうそろそろ18になるのだからと不満に思うのだがヘクターの思いは固いようなのでそれに従っていた。現世でも昔と同様自分には同じ父と兄がおり、彼らに対しても勿論ジェラールに対しても誠実でありたいという気持ちは分からないでもないので。
特に目的の物が無いとはいえ周囲や政務の事を気にせず好きな人と出かけられるのはとても貴重で嬉しい機会である。
なんとはなしに見かけた雑貨屋に入れば緑色のある物がジェラールの目を引いた。それを手に取ってみる。
大きくて、ふかふかで、浅緑色の綺麗なクッションだった。
昔から変わらない容姿の為、今のジェラールの瞳も緑色なのもあって何となく気に入りの色は緑になっている気がする。
その様子を見つけたらしいヘクターが隣から覗き込む。
「ジェラール様が好きそうな色合いですね。」
「自分に合う色が結局好みになっている所はあるよね…でも特に使う訳でもないし…」
そう言って棚に戻そうとするがヘクターの手に止められた。
「うちに置いておけばいいじゃないですか。」
「えっ、でも…」
ヘクターの家は六畳一間なので必要最低限のベッドと机を置いたらそれだけでそれなりにスペースを取ってしまう。
寛ぐならベッドでも…とは言われるが特別ヘクターの香りのする場所で寛ぐなんてジェラールにはちょっと難易度が高い。
なのでいつもベッド下のスペースを少し間借りしている、机の上には自分で用意した本が積み重なっていてヘクターが他の事をしている間はそれを読んで暇つぶしする事もままあるのだ。
もしそこにこれを置かせて貰ったらとても居心地のいい場所になるような気がする。
1人で考え込んで百面相している頭の中の内容は本当に永い付き合いになったヘクターにはお見通しのようだ。
手に持っていたクッションを持っていかれて手を取って引かれる。
「貴方の場所に置いておいてください。」
前世ではヘクターの部屋を訪ねる事すら許されない仲だった、勿論自分の何かを残す事も。
でも今は、彼の部屋を訪ねても特別問題があるわけじゃない。
ヘクターだけの場所に自分の居場所を許して貰える。
こうして公共の場所で手を繋いでいても誰に咎められることも無い。
「うん……ありがとう…嬉しいよ。」
好きな色の柔らかなクッションに座って、好きな人の気配を近くに感じながら、好きな本を読む。
そんな幸せを得られる幸運を感じながら過ごす良く晴れた今日の日。
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どっちが代金支払うかで揉めて多分ジェラール様が勝つ。自分の物をヘクターの部屋に置きたい、なので。