甘い物×2はいくつになる?朝目が覚めれば梅雨はどこに行ったのかと思うほどの晴天の週末。
枕元に置いてあるスマートフォンを見ると通知があるようだ。
まだ半覚醒の目を擦りながらも画面を見ればヘクターからの連絡だった。
(突然の連絡ですみません。今日お暇でしたら外で会いませんか?)
現世では身分差も無く年の差は昔と同様ヘクターのが4歳上なのに文章の上でも相変わらず敬語を崩そうとはしないので相変わらずだなとジェラールは思う。
送信された時刻を見ると夜中なので本当に突然思い立っての事なのだろう。
週末は家族との予定でもなければほとんどヘクターといる事が多いし今回も特に断る理由はない。
(おはよう、すぐに返事出来ずにすまない。予定は無いし大丈夫だよ、待ち合わせ場所と時間を教えて欲しい。)
必要最低限の内容だけ送信してベッドから立ち上がって自らの覚醒をを促す為にも洗面所に向かう。
もう真夏のような気候だ、夏の為に買っておいた服をもう出してしまっても良いのかもしれない。
まだ太陽が真上までは到達していない昼には早い時間だというのに既に外は相当の暑さだった。
待ち合わせ時刻前に場所の方を見ると昔から変わらない目立つ蒼が揺れて見える。
ジェラールは暑さのせいかと思ったがこちらが声を掛けずとも気がついてくれたようだった。
「おはよう!遅れてしまったかな?」
ジェラールが小走りに近付くとヘクターが零してくれる笑顔も昔と変わらないなと感じる。
「おはようございます。大して待ってないですよ、まだ決めた時刻にもなってないですしね。」
「今日はどこか目標があるのかな?まあ無くても君と一緒に行くならどこでも楽しいのだけど…」
なんとはなしにそう呟くとヘクターは突然両手で自分の顔を隠してしまう。
「朝からそういう…そういうとこですよジェラール様…。」
「え?何?」
指の隙間から見える顔は赤くなっているように見える。ヘクターの何かしらの琴線に触れたようだがジェラールには良く分からないのだ。
ヘクターに連れられて向かった先はカフェだった。
「昨日何となく色々調べていたら今日がパフェの日というのを見て…。」
ヘクターは意外と記念日だとかそういったものに弱いというか惹かれる物があるらしい。
あの男が意外ですよねでも楽しいみたいなので付き合ってやってくださいジェラール様、と過去に仕えてくれていた部下であり、現世でも同様に転生していた1人であるアンドロマケーからそう聞かされたことがある。
ジェラールからしたらそういった個人的な事についてヘクターが誘ってくれるという事象だけでも恵まれていると感じてしまう。
1000年どころか2000年をも超える過去、ヘクターがジェラールに忠誠を誓ってくれる前の自分達の関係性を思ったら天と地の差どころでは無いので。
ただその事については過去はもちろん生まれ変わった現代においてもヘクターは引き摺っていると思われる反応を見せるのであえてジェラールも触れない様にしている。
「私は甘いものには目がないから嬉しいよ。誘ってくれてありがとう。
もちろん君も食べるよね?」
天気のいい週末であるからか、はたまたそういった日だからか多少店内は混みあっていたので待っている間に備え付けのメニューを覗き見ながら声を掛ける。
ジェラールほどでは無いがヘクターも甘いものが苦手ということは無くそれなりに食べてくれるので食べ歩きするにも気が楽だった所はあったかもしれない。
「せっかくですから違うの頼んでみますか?」
「えっほんとに?私はこのメロンが乗ったのが凄く気になっているんだけどこっちの紅茶味のも美味しそうだなって...。」
「じゃあそれぞれ頼んでみましょうか。」
「うん、ありがとう。」
さり気なくジェラールの手元からメニューを取って元の位置に戻すその動きですらもスマートだなと感じるのだが、彼いわく過去の時はそれほどそういった事には気をつかっていた記憶は無いそうだ。
自分の近くに居てくれる時は慣れているように思うと誰かに愚痴のような事を言った自分の記憶もあるがジェラール様がお相手だからというような返答を貰った。
当時は仕えるべき人物には機微を感じ取る事が出来るという事かなと思っていたが、流石に今の今まで側にいてくれる意味はわかっているつもりである。
こうやって2人一緒に居られて同じ場所で同じ時間を過ごせる現実はとても稀有で大切にしないといけないものなのだ。
たまに写真通りのものが来ない事があるというのは写真よりも良くないと言う事かと思っていたが逆もあるのだなと痛感するくらいの大きなパフェが2人の前に置かれた。
「わ、わ、凄い...!ね、ヘクターこれ写真に残しても良いかな?あっ、すいませんこのパフェを撮影しても大丈夫でしょうか?...ありがとうございます!良いってヘクター!」
許可を無事貰えた事で2人分のパフェを並べて写真を撮って楽しむジェラール。
ころころと変わるジェラールの表情を見られただけでも誘って甲斐があったとヘクターは思う。
こんなに可愛い20歳がこの世に存在するのかと疑問に思う事もあるが現実に存在するのだから仕方がない。
命のやり取りがある時代と現代では成長の度合いに差が出るというような話も聞いた事があるが、目の前にいる人もヘクター自身も過去の記憶を持って育っているので話半分で見ている。
この方は昔から可愛い事に変わりは無いのだ。
「凄いね…!画像を兄さんにも送ってもいいかな?」
「構いませんよ。」
兄君と仲がよろしいのも変わりが無かった。
「美味しそうだけどどこから手をつけるか悩むね…!」
ジェラールは何を食べる時でもなるべく崩さないように食べる性質があるらしい。
そういえば昔も整った形のケーキを食べている時は眉間に皺を寄せながら悩みつつ食べていたのを護衛の任をしながら見ていたような気がする。
お忍びで外の屋台で売ってるような物はそういうものだと構わず召し上がっていたのだが。
ヘクターが自分のものには手をつけずにジェラールの一喜一憂する姿を眺めて楽しんでいると目の前に緑色のアイスクリームの乗ったスプーンを差し出される。
「はい、あーんして。」
そういえば毒味役として外では最初の一口は自分がいただいていたななどということも思い出した。
その辺を読み取ったのだろうジェラールがムッとした顔を見せる。
「……毒味じゃないよ、味見だからね。だから次は君のも味見させて?」
どちらも気になってたんだから早く食べよう!と意気込むジェラールの勢いにはヘクターも勝てない。
大切な人からの手ずからの最初の一口を口に運んでいただき、さっぱりとした甘さを感じつつ今日のこの後も2人どう過ごすか相談し合う梅雨の真夏日の記念日。