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    planet_0022

    @planet_0022

    書きなぐった短編たちの供養所

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    planet_0022

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    「おいでませ!カムラの里へ!」の蛇足アフターストーリー
    ウツハン♀要素足りないな……もっと欲しいなとなったので拗れてもらった。
    百竜夜行だけに百回言ってくれ。

    #ウツハン♀

    好きだって百回言って それからしばらくして。
     結局狩人の乙女の帰郷中である七日という短い滞在時間の間では、里おこし計画の最後までを見届けることができなかった。一朝一夕でどうにかなる問題でないのは当然なのだが、あの無茶苦茶な概案書を見てしまうと、次に帰郷を果たした際には故郷がいったいどのような惨状になってしまっているか、狩人の乙女は気が気ではない。おかげでエルガドへと戻ってからも、狩人の乙女の頭の隅で里おこしの一件は気がかりとなって居座り続けてしまうはめとなった。
     カムラとエルガドを行き来しているヒノエやミノトを見かける度に、里の様子はどうなりましたか、と狩人の乙女は問いかけた。しかし、ミノトは私の口からは……と、非常に言いにくそうな様子であったし、ヒノエからはウツシ教官がすごく頑張っていらっしゃいますよ、という朗らかな返事をもらった。
     いったいどっちだ。これでは果たして大丈夫なのか大丈夫じゃないのか全くわからない。
     一方、ヒノエやミノトと異なり、近頃ウツシの姿をエルガドで見かける機会がとんと少なくなっていた。パサパトと談笑をしている姿も、周囲の様子を見渡すように梁の上にいる姿も、視線を寄こしては空振りに終わる日々である。もしかすると、今まさにその里おこしに携わっているからなのかもしれない。それともいつも通りただただ多忙なだけなのか。こうなれば、カムラの里の誰かに文でも書いて現状を聞いてみるべきかもしれない。次に帰郷をした際に、ショックでひっくり返らないようにする保険のようなものである。
     そうと決まれば善は急げ。エルガドでの自室として宛てがわれている船室内に用意された書斎机を前にして、羽ペンを握りしめながら狩人の乙女は天井を仰ぐ。腰かけた椅子の背をギィギィと鳴らし、ほんのりと揺れる船内の振動に身を委ねながら思案するのは文の送り先であった。
    「誰に聞いてみようかな……」
     うーん、と唸るような声を上げる。ゆらゆら。錨で固定されているとはいえ、波の力でほんの少しの揺れを伴う船内。ざんざ、と鳴る海の音、カモメの声。
    「イオリくんか……カゲロウさんか……」
     出来ればこちらの問いかけに対して茶化さない人選をしたかった。誠実な返事をもらえそうな相手として、すぐさま狩人の乙女の頭の中に思い浮かんだのはその二人である。
    「どっちがいいかなー」
    「なにが?」
     突然、天井を仰ぎ見ている狩人の乙女の瞳を覗き込むように現れた男の姿。幼いころから見続けてきた蜜色の目をした男。いつもの快活さを凝縮したような大きな声ではない、平板な声色。じわ、と室内の灯りを反射する蜜色は、とろりとした澱みを秘めているように見えた。
    「び……っくりした……声ぐらいかけて下さいよ。心臓止まったらどうするんですか」
    「掛けたよ? 外から二度ほど。愛弟子が聞いてなかっただけ。その時は心臓マッサージするね。俺得意だよ」
     嘘つき。狩人の乙女は小さな声でぽつりと囁いた。いくら気を抜いていたからといって、狩人の乙女がウツシの呼び声を聞き逃すはずなどない。ウツシはちらりと書斎机の上に広げられた白紙の便箋と狩人の乙女の手にした羽ペンを見て、どうやら得心がいった様子だった。
    「文通してたの? イオリくんやカゲロウさんと? 俺には手紙なんかくれないのに……」
    「だって教官は普通にエルガドにだって来るじゃないですか」
     手紙を書くより直接話した方が早いでしょう。入れ違いになっちゃいますし。と、狩人の乙女は正論を述べたが、ぺしょ、と音がしそうなほどに分かりやすく眉を下げてウツシは嘆いた。
    「それに文通じゃないですよ、里の様子を聞きたくて手紙を書こうとしてただけです」
    「それこそ俺に聞いてくれればいいじゃないか。里の皆は元気で、平和そのものだよ!」
    「……あと、里おこしの件を」
    「あぁ、それかぁ」
     にぱ、とスイッチのオンオフを切り替えたかのようにウツシの顔が笑顔へと切り替わる。アイテムポーチを何やらごそごそと探ったかと思うと、ウツシは取り出したものを書斎机の上にバラリと広げた。
     それは何枚かの写真であった。写されているのは、砦の広い敷地内で翔蟲を使って宙に浮く子供とそれを笑顔で見守るウツシの姿。大翔蟲を手にして何やら説明をしているハネナガの姿もあった。
    「名付けてカムラの里の翔蟲体験会! 結構好評だよ! 来てくれた子供たちも喜んでくれてね。事前申し込み制にしてるんだけど、予約もかなり埋まってるんだ」
     ほら、皆楽しそうでしょ。とウツシは狩人の乙女の肩を抱きながら写真に写された体験会の様子を指さして微笑んでいる。
     いや、待ってほしい。おかしいのでは?
     勿論里おこしのことではない。この距離感のことだ。ぴたりと密着してウツシの顔はすり寄るように狩人の乙女の頭にこてんとしなだれかかっている。どう考えても師弟の距離感ではない。違和感を覚えて体を離そうにも、どれだけ狩人の乙女が力を込めても、がっちりと掴まれた肩を離してもらえるわけもなく、頭に疑問符を浮かべた狩人の乙女はウツシの顔を覗き込んだ。そんな狩人の乙女の様子を見て、ウツシは先程までの笑顔はどこへやらへと投げ捨ててしまったらしく、真面目な顔をしていた。つまりこれは、お怒りである。
    「あのね、俺あの後ほんっと、ハモンさんにこってり絞られたんだから」
     ウツシが言わんとしているのは先日の操竜体験会について話した時のことだろう。夜の訓練だの、ウツシへの操竜だの、上に跨っただの勘違いを助長させる単語が次々と飛び出したあれである。本当のことを言ったまでの話ではあるが、確かに聞きようによっては誤解を生みかねないものであったかもしれない。狩人の乙女としては、ちょっとした悪ふざけのつもりだったのだが。
    「た、単なる可愛い冗談じゃないですか~」
    「可愛いかどうかは別として、世の中にはそういう冗談を本気にしちゃう人もいるんだよ? ハモンさんってばそのまま里長とゴコク様を呼んできて、三人して怖い顔で責任をちゃんと取れって詰め寄られてさぁ……」
    「それはご愁傷様で」
    「それで、その……言いづらいんだけどちょっと困ったことになっていて……」
    「は?」
     はい、と突然声の調子を落としたウツシはもう一枚写真を取り出して狩人の乙女の眼前に差し出した。そこに映し出されているのは、例のおいでませ! カムラの里へ! の看板がかけられた村の入り口。それしか異質なものはないはずだった。少し前までは。
     しかし、どうだ。ウツシに差し出された写真には紅白のおめでたい色をした、いかにも慶事用であると一目見てわかる立て看板が増えている。そこに書かれていた随分と厳かな文字に狩人の乙女は目を見開いた。
     ――祝・カムラの里の英雄 猛き炎とウツシ教官 成婚!
    「私、同意してなくないですか?!」
     普段のウツシに負けず劣らずと言った声量で狩人の乙女は叫んだ。狩人の乙女の叫びに、え、そこなの? とウツシの呑気な声が掛けられた。
     双方が結婚について同意をしていればそれは成婚だろうが、狩人の乙女のいない場で勝手に話を進められている状態では成婚と言えないはずだ。
     そう言われてもね、俺が里を不在の間に気付いたらもう用意されてたんだよ。と、ウツシはがっくりと肩を落としてそう言った。里そのものが祝賀ムードになっててすごいよ、といらぬ情報を付け加えて教えてくれた。本当にいらぬ情報だった。
     申し訳ないことを言ってしまったな、という気持ちが一瞬にして霧散した。確かに世の中には言っていい冗談と悪い冗談がある。今回に関しては冗談を発した場所が場所だけに後者だっただろう。これがウツシと二人きりでの軽口であればまた違ったのかもしれない。
     そして、ようやくここで狩人の乙女は気付いたのだった。里の様子を聞いた時にヒノエとミノトの真逆の反応の意味を。ヒノエが言っていた、ウツシが頑張っているというのは里おこしのことだったのかもしれない。対して真面目で正直なミノトは里の祝賀ムードについて閉口していたのだろう。
     結果として狩人の乙女が軽い気持ちで発した冗談は、ずいぶんといろんな人間を巻き込んでしっぺ返しのように自分に跳ね返ってきた。自分でも知らぬ間に、隣にいる昔からよく知る男が婚約者となっていた。そんな馬鹿な。
    「なんでちゃんと誤解を解いてくれないんですか!」
    「そうは言うけど、キミも正座で座らされて仁王立ちする里長たちに三方囲まれて凄まれてごらんよ……!」
     古龍相手に一人で立ち向かうよりおっかないよ……そう言うウツシの訴えはほとんど泣きが入っていた。顔を近づけあったまま、ぎゃんぎゃん、わーわーと師弟の言い合いは熱を帯びていく。どうしてこんなことに、と互いに半泣きの状態である。
    「……ねぇ、愛弟子。今度俺と一緒にカムラに帰ろうよ。愛弟子がちゃんと説明してくれれば、里長たちもきっとわかってくれるよ。俺なんかとこんな無理やりな結婚は嫌だろう?」
     声を張り上げて生産性の全くない言い合いをしたことで、少しだけ落ち着きを取り戻した二人の間の沈黙を破ったのはウツシだった。はぁ、と大きなため息を吐きながらウツシは言う。その言葉を聞いて、狩人の乙女もつられるようにため息を吐きながら言葉を返した。
    「……結婚が嫌とかじゃなくて、本当に傷物にしたわけでもないのに責任取って結婚させられるなんて、教官には重荷でしょう」
    「あれ、嫌じゃないの?」
    「? 教官との結婚が嫌なんて言いましたか私」
    「言って……ないね」
    「言ってませんよ」
     スン、と再び沈黙が船室を支配した。ウツシは黙ったまま見せびらかした写真をアイテムポーチにしまい込んで、近くにあるベッドへと腰を下ろして足を組んだ。自身の膝の上に肘を立てて頬杖をついている。何やら真剣に考えている様子の師の姿を見て、狩人の乙女は手にしていた羽ペンをスタンドに戻して便箋を引き出しへとしまった。もう里の現状把握もできたことだし文は必要ないだろう。
    「やっぱり、一回一緒にカムラへ帰ろうか」
     うーん、と軽く唸った後にウツシは言った。自分の中でようやく一つの答えが出たのだろう。
    「帰った途端に祝言準備とかになりませんか?」
    「なるかもね」
    「なるんだ……」
     でもさ、とウツシは続けた。
    「どっちにせよ、とりあえず誤解だけは解いておかないと」
     キミにとっても迷惑な誤解だろう? とウツシは言った。ここに至ってまだ乙女心のわかっていないウツシに狩人の乙女は白けた視線を送る。
     この流れなら普通、こちらの気持ちを汲んで告白の一つでもしてくれればいいのに。完全な外堀埋めでの結婚でも嫌じゃないということの意味を、もう少し自分への好意であると結びつけてはくれまいか。
     と、そこまで考えて狩人の乙女はその考えを打ち消した。そんな手慣れたことができるような男であれば、逆に好きになってなかったかもしれない。
    「それじゃあ、私にいい案があるんですが」
     そう狩人の乙女が言うと、なんだい? とウツシは頬杖をやめ、脚を揃えてお行儀よく佇まいを正してから顔を上げた。ガタッと音を上げて椅子から立ち上がった狩人の乙女はベッドの上に座るウツシの側に寄って、その鍛え上げられた太腿の上へ跨るようにして座り込む。
    「え」
     短い声を上げたウツシは、固まった様子で目の前の迫ってきた狩人の乙女の顔を見つめている。わざと体を密着させる狩人の乙女の動きを視線だけで追うウツシは、それでもやめなさいと押しのけたりはしなかった。
    「事実にしちゃえばいいんじゃないですかね。そうすれば別に後ろめたくもないですし」
     めちゃくちゃな提案であることは自覚していた。もう正直ここまでくれば根競べだ。そもそも過程をすっ飛ばして結婚にまで一足飛びにされるのも少々業腹である。まぁ、それで欲しい物が手に入るならそれはいいとしよう。けれど、どちらからも決定的な一言を言い出せないままに祝言まで進まれるぐらいなら、もう少し困らせるぐらいのことはしてやりたかった。意気地無し、とは言わせないで欲しい。
     キミがいいならこのまま流されよう、なんて態度で結婚にもつれ込まれるなんて、そう持ち合わせがないとはいえ、微かに所持している女としての矜持が許せない。
    「それは、良くないんじゃないかな……」
    「じゃあ振り払ってくださいよ。そうしたら私もカムラで里長達にちゃんと誤解だってお伝えして、この結婚はなかったことにしてくださいって言いますから。好きでもない女を娶る必要ないですよ」
     ウツシの肩にしがみついた狩人の乙女が挑発的にそう言うと、途端にその細い手首が大きな手で握られた。あぁ、振り払われるか……結局ダメかなと思って引き下がろうかとウツシに乗り上げた身を下ろそうと体をよじれば、いつの間にやら腰に回されていたウツシの腕がそれを許さなかった。
    「俺、キミのことが好きじゃないなんて言った?」
    「言ってませんね」
    「言ってないよ」
     少し低めた声で問い詰められて、普段と様子の違うウツシの姿に動揺した狩人の乙女はたじろぎながら即答をした。はぁ、と大きな溜息を吐いたかと思うと、ウツシは狩人の乙女の肩に額を擦りつけて、小さな声で呟く。
    「愛弟子さぁ」
    「はい」
    「一緒に里長に怒られてくれる? 冗談でしたってちゃんと言って謝ろう」
     やっぱり、騙したままは良くないよ。ウツシはそう言った。そうですね、と狩人の乙女が同意をしようと頷きかけたその刹那、ウツシはなおも言葉を続ける。
    「それはそれとして、結婚はしたいので看板はそのままでっていうのは俺から言うから」
     どう? と顔を上げたウツシは笑顔でそう言った。
     断る選択肢がないとわかっていてわざと聞き返してるんだろうなぁ、というのがわかって悔しくはあったが、悪くない条件ではあった。
     うーん、と少しだけ悩むふりをしてみせた狩人の乙女はそれなら、と口を開く。これぐらいは願ったって罰は当たらないはずだ。
    「それじゃあ、こうしましょう」
     狩人の乙女の発した提案に、ウツシは負けました、と言わんばかりに笑って頷いた。
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    planet_0022

    DONE現パロ
    旅館経営者御曹司ウツシと住み込みで旅館で働く苦労人元JK愛弟子ちゃんのド健全ラブストーリー

    ろまこさん(@romako_ex)が書いていらっしゃった元ネタ(https://poipiku.com/6214969/8696907.html)を許可頂き小説化したものです。
    めーっちゃくちゃ楽しかった!書かせて下さってありがとうございました!
    夜明けのワルツ ピピ、というアラーム音が鳴るのとほぼ同時にぱちりと瞼が開いて覚醒する。時刻は朝の四時。日の出まであと三十分といったところだろう。窓の外はまだ薄暗い。けれどやるべき仕事は山ほどある。掃除、朝食準備、来訪予定のお客様の人数把握……数えればキリがないほどに目まぐるしい。この生活にもずいぶんと慣れてきたけれど、それでも朝方の布団の中ほど離れがたい場所はないものだ。
     うー、と唸るような声を上げて後ろ髪をひかれる思いであっても、仕事は待ってくれやしない。がばり、と勢いよく起き上がってそのままの流れで布団を畳み、身支度を済ませて……と、一連の動作を流れでやってしまわないことには、いつまでたっても次へ進まないことをヤコは嫌というほど知っていた。ふわぁ、と大きなあくびを一つして、洗面台の鏡に映るまだ寝ぼけた瞳をしている自分へ喝を入れるべく、ぺち、と両手で軽く頬を挟むようにして叩いた。蛇口を捻って出てくる冷たい水でばしゃばしゃと顔を洗って、気合の入れ直し。
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