第9回 菅受ワンドロワンライ「秋の夜長/秘密」とっぷり、外を出ると街はすっかり夜に浸かっていた。秋の夜長とはよく言ったもので、陽が落ちるのが早い。昼間の暖かさは何処へやら、肌に触れる空気は冷たく思わず首を竦めた。横目でちらりと隣に並ぶ菅原を盗み見ると、同じように首を竦めているところで、「おんなじだな」とじんわり嬉しくなる。思わず声を漏らして笑うと視線に気づいたようで、「なんだよ」と笑いながら体当たりをされた。細まった目は、これまでと違う意味を含む。付き合い始めのむず痒さと温度に浮かれて、「ぐえっ」とわざとらしく声を上げると、今度は前を歩く花巻が「いちゃついてんなよー!」と野次を飛ばしてくる。それを見て、松川と澤村、東峰が笑い、岩泉は振り返り視線を投げただけだった。
今日、及川と菅原が会ったのはたまたまだった。及川は岩泉と花巻、松川と、菅原は澤村と東峰と、それぞれ出かけていたのだ。途中、映画館でばったり。そのまま合流し、1日行動を共にした。少し前まではライバル校。でも部活を引退した身をしては、とくに敵意を抱くこともなく、「話してみたら結構面白いじゃん」というのが、全体の流れである。
棚からぼた餅、及川と菅原はおんなじように思った。付き合い始めたとはいえ、受験がまだ残っている。なかなか会う時間も取れない。だから、予定外に会えたこと、一緒に過ごせることは素直に嬉しかった。
しかしながら、問題がひとつ。まだ、誰にも話していないのだ。岩泉にすら、澤村にすら。ゆえに大っぴらにベタベタするわけにもいかず、時折見つからないように視線を送るのが精一杯だった。
屋外は思いのほか冷えて、寒さから逃れるようにポケットに手を突っ込んだ。すると、ひやりと侵入者が紛れ込む。突然の来客に及川が思わず肩を跳ねさせると、体当たりをしたまま寄り掛かった菅原のつむじから押し殺すような笑い声が聞こえる。小声で「バレるよ」と咎めると、「へーきへーき」と能天気な声が返ってきた。ポケットに入ってきた手は、及川の手よりもほんの少しだけ小さいが、それでもまあまあの大きさはある。なかはぎゅうぎゅう、菅原が手を抜かない限り、及川の手は抜けない状態だ。ぎゅうぎゅうのなか、もぞりもぞりと菅原の手が滑る。手の甲から指先へ、指の間を埋めるように、被せるように指が交わる。菅原の手の動きには粗さがみえて、色気もへったくれもなかったが、及川にとっては十分な刺激だった。
今すぐぎゅってしたい。でも抱きしめようにも手は抜けず、結局菅原にされるがまま、秘密を抱え、ひたすらに歩いた。