第12回 菅受けワンドロワンライ、「宝物」朝の気配に自然と目が覚めた。隣からすうすうと寝息が聞こえて、菅原は寝転んだまま視線を隣に向けた。そこには、気持ちよさそうに眠る及川の姿があった。珍しいこともあるもんだ、と布団から腕を引き抜いて無造作に流れる及川の前髪をそっと撫ぜた。普段は菅原よりも及川のほうが早く起きるのだ。曰く「あんまりかっこ悪いとこ見られたくない〜」とのことで、だから菅原にとって及川の寝顔はまあまあ貴重である。普段はきっちりセットされた髪もぐしゃぐしゃ。睫毛長えなあと顔を眺めていると薄らだが髭も生えていることに気づく。菅原はいつも十分程度で身支度を終えるが、及川はその倍の二十分、ときに三十分に及ぶこともある。隙なんて感じさせない普段の姿を思うと、この気の抜け切った今の様子のなんと可愛らしいことか。自然の口の端が緩み、菅原はもう一度及川の前髪を撫ぜる。
この無防備な姿をずっと見ていたいとの考えが一瞬頭を過ぎったが、そうもいかない。なんていったって今日は平日である。このままでは菅原も及川も遅刻確定だ。頭の中で一、二、三とカウントをしてから、上体を起こす。そして、いまだ眠りこける及川の身体を揺すった。「遅刻するぞ」と及川の髪の毛を、今度は乱雑にわしゃわしゃと掻き回す。それでも及川は「うんうん」と唸るだけだったので、実力行使だとベッドを抜け出し、シャッと勢い良くカーテンを開けた。白い朝の光が一気に寝室に射し込む。半覚醒状態の及川にとって余程眩しかったようで、両手で目を多い間延びした呻き声を上げていた。かと思えば、また動きが止まってしまったので、致し方なく菅原はベッドに戻り、及川の傍らに寝そべった。
「及川ぁ」
再び身体を揺すり、あやすように声をかけた。もぞもぞと足元の布団が動いたので、そろそろ起きるなと顔を覆う手をちょんちょんと突っついた。すると、ゆっくりだが両手が顔から離れていく。いかにも渋々といった表情をしていて、これまた見ない表情なので今すぐ鏡を持ってきて本人に見せてやりたい。続けてゆっくりと、今度は瞼が開いていく。普段きらきらと輝く瞳はまだ眠いのかとろんとしていて焦点があっていない。「おはよう、ねぼすけ」と先ほどよりもほんの少しだけ強めに髪をわしゃわしゃと掻き回す。てっきり嫌がってすぐに起き上がるかと思いきや、意外にも及川はされるがままで、とろんとした瞳のまま菅原のほうをじっと見つめていた。なんだこの可愛い生き物は。気位の高いでかい猫が懐いたみたいな。すべて許して預け切っているみたいな。ここまでの姿はなかなか拝めない。いっそこのまましまっておきたいくらいである。
あとちょっと、あとちょっとだけ。目の前の及川とサイドテーブルに置いた時計とにらめっこをしながら、時間の許す限り菅原は目の前の男を慈しみ続けた。