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    数学の移動教室であーだこーだする類司。

    匿名恋愛相談 突然だがオレは恋をしている。叶わぬ恋だ。なぜなら、相手が男であり、更に恋愛なんて頭の隅にも置かれていないようなほど好きなものに夢中であるから。そんなところも確かに好きだが、オレはその男が好きなのである。そう、失恋も同然だ。
    フェニックスワンダーランドで共にショーをしている、神代類というやつなのだが。

    ──そんな奴の表情にとても似ているものを見つけてしまったのが、このおかしな文通の始まりなのだろう。


     妹の咲希と共に自身らを覆うドーム状の水槽を眺めていると、ひらり、ひらりとなにかが泳いで来るのが見えた。
    「う、う、ぅもごッ!?」
    例の彼にあまりにも似ているそれに、驚きのあまり大声を出しそうになり、すぐ咲希に口を抑えられる。お兄ちゃん、ここは水族館だよ、静かにして! と彼女は控えめな声で怒っている。よくできた妹だ。
    「お、おぉ…すまん、咲希。」
    目の前のエイは裏側を見せたまま、その場をふわふわと漂っている。
    彼女は先に進みたそうにしていたが、オレはもう少し眺めていたい、と足を止めたままだ。

    (それにしても、よく似ているなぁ…。)
    呆然としていると、早くして、と妹に腕を引っ張られる。名残惜しいが申し訳ないので先に進むことにした。

    「で、そのエイのぬいぐるみさん、買っちゃったんだ! お兄ちゃん、青春してるね〜!」
    大事そうにぬいぐるみを抱える(自覚はあった)オレはしつこく問い詰められ、相手は伏せたものの恋をしているということを白状させられたのだ。
    無性に顔が熱くなって、ぬいぐるみに顔を押し付け隠そうとする。ぎゅうと強く抱きしめると、程よい弾力と毛のふわふわが心地よい。類に抱きしめられたらこんな感触がするのだろうか? 思い始めたら切なくなってきたので考えるのをやめた。ついでに言うとぬいぐるみのエイの色は薄紫だ。


     月曜日、3時間目。週はじめに空腹がプラスされ、やる気が一気に削がれる時間だ。クラスメイトが内職や居眠りをしているなか、オレも例外でなく昨日の水族館でのことを思い出していた。
    (あのエイ、キーホルダーも買っておけばよかったな…。)
    ぬいぐるみの隣にキーホルダーもあったが、あいにく予算オーバーで買えなかったのである。それに、オレがあれを鞄につけていたら周りの人に何を言われるかわからない。
    それでも考えれば考えるほど、ぬいぐるみのエイに会いたくなる。好きな人に似ているものはとことん側においておきたくなってしまう。気がつけば、机に直接エイの裏側を描いてしまっていたのだ。

    しかし、かなりの傑作である。これは類にも似ている…気がする。名前もつけてしまおうか。…ルイ3号、なんてどうだろう。安直だろうか。ちなみにぬいぐるみのエイがルイ2号だ。
    名前を考えだしたら消したくないな、なんて思ってしまう。次は数学の授業だ。習熟度別でクラスが変わるが、A組のこの席は多分女子が座るだろう。それに机に直に書いているのだからノートを開いている限り気づかれないだろう。
    号令、と教師が声をかける。それならばいいや、とルイ3号をそのままにしてオレは起立、礼としっかりと声をだした。



     今日も例のごとく僕は屋上でショーで使うロボットを…というわけにもいかなく、留年を避けるため、4時間目の数学を受けている。今授業でやっている範囲はどうも難しいようで、よく同級生が教え合ったりするのを見かける。周りは必死にノートを取っているが、教科書を読めば理解してしまった範囲なので正直言って手持ち無沙汰だ。寝ることも、見つかってしまったら教師に起こされて、その上問題を大勢の前で解かされてしまうので避けたい。
    せっかくだし演出案をメモにまとめておこう。見た目だけ開いていた教科書を閉じ、ポケットからB7のメモ帳を取り出そうとする。
    (…あれ。)
    机に直に書かれたイラストが目に入る。笑っているようなそれは、きっとエイの裏側だろう。シャープペンで書いたからか薄くて見えにくいが、とても愛らしい。

    ふと気になって、後ろの座席表を見る。
    (ふふ、司くんじゃないか。)
    あの真面目な彼が落書き、ましてや机に直に書くなんて。彼の新しく見えた一面に胸がぎゅうと熱くなる。何、可愛すぎるんだけど。
    僕は司くんが好きだ。僕のこの幸せな日々が始まったあの日から、もしくは僕が孤独から掬い出されたあの日から、僕の心は司くんに一直線に進んでいる。公演が終わったあとのいつもより一層キラキラしたあの顔や、僕の考えた演出に面白そうだな、と笑う顔。隣で「咲希の作る弁当はうまいな」と幸せそうに頬張るのも、気持ちを正面からぶつけてきてくれるのも。好きなところをあげ出したらぽんぽんとこの頭は止まることを知らないのだ。
    それにしても、このエイはなんだろう。そういえば今朝、咲希と水族館に行ったんだ!と彼は妹とツーショットでピースしている写真を見せびらかし言っていた気がする。そこで見かけたのだろうか?
    そうだ。ふと思い立ち、そこに矢印を引っ張り「かわいいね」と書いてみる。好きな人に見られるのだから心做しか字がいつもより丁寧だ。折角彼の落書きを見れたのだ、少しくらい感想を言っても大丈夫だろう。バレたら授業をちゃんと聞け、と怒られてしまうかもしれないが。
    「……オイ、おい神代。次指されるよ、ここ。」
    隣のクラスメイト(誰だっけ)に声をかけられる。夢から覚めたような心地の中、教科書に指を指される。ありかとう、と一言言い急いで問題を解くが、ノートに隠された司くんが描いたであろうエイが頭から離れなかった。



     今日の数学も難しかった。途中から何を言っているのかわからず、気づいたら寝ていたほどだ。いつもならオレもきちんとノートに解法を書き写しているはずなのだが。ちなみに寝起きはすっきりしていた。
    周りを見てもオレと同じように理解を放棄している人が大多数なので教師も諦めているらしい。それとも昼前のぽかぽかな陽気に心も穏やかになっているのだろうか。
    数学の教科書とにらめっこしながらB組とA組のちょっとの通路を歩き、自分の席へ帰る。そういえばルイ3号は消されていないだろうか? オレの自慢の作品だからな、と一人心のなかで呟き、教科書を持ったまま机を覗く。
    『←かわいいね』
    なぜか返信が来ている。その字は0.3の太さのシャープペンシルで書いたのか、自分のよりも見にくい。しかし文字は崩しているものの形は正しく特徴をつかめているようで、綺麗だった。
    ルイ3号に反応してくれた文字が無性に嬉しく、はは、と一人で笑ってしまう。また次の日に続きを書いてやろう、と教科書と筆箱を机の中にしまい、弁当袋を持って屋上に行く準備をする。
    「司くん?いるかい?」
    ちょうど類が迎えに来てくれていた。1ヶ月ほど前からお前は放っておいたら飯を食わないからな、と半ば無理矢理な理由で約束を取り付け、それから毎日屋上で一緒に昼休みを過ごしている。屋上で過ごすくらいならショー仲間の範囲でもするだろう、と自分に説得している。
    「あぁ、類!今行くぞ、待たせてすまんな」
    小走りで教室を出ると、何やら類が嬉しそうにしていた。
    「類?なんかいいことがあったのか?」
    「うん、嬉しいことがあったんだ。」
    「? そ、そうか。よかったな…?」
    彼にしては変な返答に困惑してしまう。まあ、類が嬉しいなら何よりだ。好きな人が嬉しそうにしていると、こちらも嬉しいからな。
    そんなことを考えていると、ほら、早く屋上行くよ、と手を引かれる。類に引っ張られる形で廊下を歩く。そんなに行きたかったのだろうか、手に触るなんて。
    え、手を触る? 類と手を繋いでいる?
    「わっえ、」
    気づいたら赤くなっていく頬は抑えられず、心臓がどくどくと激しく鳴る。類の顔が見たくて前を見るが、片方だけ長い髪が邪魔をして顔を見れない。
    ぎゅ、と力を抜いていた右手で握り返す。友達の範囲だ、と言い聞かせる。類に、触れている。恥ずかしさで手汗がひどくなっていく予感がして不安になった。
    びく、と類が小さく反応を示したあと、さらに強い力で手を握られる。ぶわ、と体中が熱くなって、類の方を見る。やはり類の表情は見えない。
    ふとこれは現実なのかと右手を見た。しっかりとオレの右手は類の左手の中にある。ふふ、と幸せにそっと笑う。
    類と結ばれないのはわかっている。それでも、今だけは甘い甘い夢を見続けたくて、屋上までの短い道のりをそのまま歩いた。

     火曜日。今日も司くんに会いに学校に来ている。おはよう、と校門でばったり会って挨拶をすると、彼は疲れた顔で「おはよう!」といつもより少しだけ覇気のない声で返してきた。見れば隈があったので指摘すると、
    「ハハ…少し、寝れなくてな」
    と照れくさそうにへらりと笑って言った。彼にこんな可愛い顔をさせる人がいるのか。
    うわ、嫌な予感。
    そんなことはいいから遅刻するぞ、と司くんは立ち止まっている僕の背中を押して進んだ。教室につくまでの間も彼はどこかそわそわして、楽しそうに笑っていた。恋をする少女みたいだな、なんて思った。いや、司くんが恋なんてするわけ…。現実逃避だ、わかっている。

    嫌な予感というのは的中してしまうもので。
    僕は数学の時間、目の前の文字に気を落としていた。
    『だろう!好きな人の、笑った顔に似ていてな!』
    僕の書いた文字の下にそう書いてあった。何、君好きな人いたの。そんな雰囲気はなかったじゃないか。
    僕の知らないところで君は誰かを愛し愛されるのか。それを考えると嫉妬が止まらない。演出家と未来のスターという関係だけで彼を縛り付けたと勘違いしている僕が悪いというのに。
    司くんの文字が踊っているように見える。僕の気分は最悪だ。なぜ文字ごときで僕の失恋を確定されなきゃいけないんだ、なんて八つ当たりをする。隣の席の名も知らない彼は僕が失恋しているのに気づいたのか(多分違う)、気を使って「次の神代が当たる問題の答えこれだぞ」とメモ帳を2つに折った紙を渡してくれた。
    ふと昨日の昼休みの出来事を思い出す。今思うと不器用だがアプローチのつもりで、司くんの手を掴んでしまったこと。今更離すことはできないと赤面した顔を彼に見せないように前を必死に歩いていたこと。なんだ、あれで心臓が耳元で聞こえるくらい音をたてたのは、手が熱くてたまらなかったのは僕だけだったのか。

    数学は2時間目だったはずなのにいつの間にか4時間目が終わっていて、司くんが来ない僕を心配して教室まで来ていた。
    「どうした類、なにか嫌なことがあったのか。」
    こんなにも僕が君を好きだってことを少しも知らない君が恨めしい。わざとらしく頬を膨らませてなんでもないよ、と返すとこんな顔をして、そんなわけ無いだろう、と頬を突かれた。
    「もう、屋上行くよ」
    こんな時も別々に食べるという選択肢すら口に出ない。自分の独占欲が痛いほどわかって笑えてくる。いっそ、君は僕の健康に一生気を使って一緒にご飯を食べてくれたらいいのに。
    屋上についたとき、司くんは少し残念そうにしていた。


     土日を挟んで火曜日。僕らは机で文通するのを2回繰り返していた。
    『好きな人がいるの?』
    『そうだ、叶わんがな。』
    『そうなんだ。どんな人?』
    『危なっかしい奴だが、本当は優しくてな。人を傷つけたりは絶対にしようとしない。一見冷たいように見えるんだが、好きなものを話すときとか、苦手なものを前にしたときとか、よく見ると表情が豊かで、一緒にいて飽きないんだ。』

    あーあ、こんなにも饒舌に語っちゃって。その人にバレてしまったらどうするんだい。ここ、机の上だよ。
    どうして僕の思いは報われなくて、誰か知らない君の好きな人は彼の愛を受け取れるのだろうか。そういえば、叶わない、と書いてあったっけ。少し安心してしまった。君が「オレの彼女だ!」なんて女性を連れてきたらその場で泣き崩れてしまうに違いない。もしくは僕のほうが司くんを愛してる!なんてすがりついて場を乱してしまうだろう。
    というか、そもそも誰なんだ、君の好きな人は。危なっかしいが優しい…えむくんかな? 一見冷たいように見える、は寧々にも見える。よく見ると表情が豊か、というのは青柳くんにも思えてしまう。イラストのエイの裏側に似ている人、というのは思いつかない。
    あぁ、そうだ。僕が司くんが好きなように、司くんが女性を好きだとは限らないのか。そんなことは彼にはないと思うが。なんだか自分自身であったらいいのに、という考えに邪魔されてうまく頭が働かない。
    どっちにしろ叶わない恋ならさっさと僕を選んでしまえばいいものを!

    もう! やけくそになってしまう。ペンを手に取り、
    『そんなに好きなんだね。相手ももったいないなぁ』
    なんて微塵も思っていないことを書く。僕だとバレないように文字も丁寧に。
    隣の彼は教師に当てられそうになって必死に問題を解いている。x=2だよ、とぱっと問題を見て耳打ちすると、彼はありがとう…!と必死な目で感謝してきた。
    恋愛も数学みたいに答えが計算で出たらいいのに、と柄にもないことを考える。
    思ったより僕の心は乙女チックだったようだ。司くんのせいだね、と勝手に責任を押し付けることにしよう。



     机の文通相手を思う。誰にも相談できていないから、感情が爆発してしまった。5行6行と続いた類への好意はラブレターのようだ。そう思うと、ぼ、と顔が熱くなる。手も震えて板書をうまく写せない。
    新しく机の開いていた場所に、返信が来ている。
    相手ももったいないと書かれていて、本当にそうだったらいいのに、とむくれる。
    行き場のない類への片思いは未だに募っていくばかりだ。

    「お兄ちゃん、恋して困ってるならこれ読んだら?」
    家で類について悩んでいると、咲希が数冊の漫画を手渡してきた。いわゆる恋愛漫画というやつだろう。なるほど、ありがとうと受け取ったのはいいが、類にアプローチするつもりはなかった。困らせてしまってはいけないから。
    まあ感想くらいは言えるか、と一冊を手に取り読み始める。出会いから始まって、だんだんと惹かれていく主人公。一人の天才イケメン男……。定番のものだが、恋愛のドキドキ感や虚しい気持ちがうまく演出されていて、今のオレに共感できてしまった。
    『こっちのほうが可愛いよ』と眼鏡を取られ、赤面する主人公。
    『もうひとりにはしないから』後ろから抱きつかれ、告白される主人公。
    見ているこちらも照れるような描写がたくさんあった。夢中になってページをめくる手が早まる。

    ふと、この相手が類に似ているように思えた。

    ──君のことが頭から離れないんだ。
    困ったように笑みを浮かべる。頬を撫でる手の温度が心地よくて、無意識にすり寄ってしまう。
    ──フフ、そんな顔になっちゃって、かわいいね。
    恥ずかしさでうつむく顔に彼の手が顎へつたい、顔をあげられる。後ろには壁があり、隣には彼の腕。ぱちん、と彼の目がオレを捉えたまま逃してくれない。
    そのまま引かれ合ったように彼の目が近づいて……

    「ぬわぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
    「お兄ちゃんうるさい!」
    一気に現実に引き戻される。妄想のドキドキだけが残されていた。友人を勝手に天才イケメン男に重ね合わせていたという罪悪感。類、ごめん。

    改めて考えてみる。類は、こんなふうに誰かに恋をして、どうしようもない想いに振り回されて、どこの誰も知らない人に赤面して、褒めて、甘やかすのだろうか。
    (…それは、嫌だな。)
    彼に恋人ができたら、オレのこの思いはどうなってしまうのだろう。こんなにも必死なのに男性同士ということやショーユニットのことを考えると伝えられるものも伝えられない。叶わない。どうしようもなく悲しくて、苦しい。
    あの文通相手なら、この思い失恋も慰めてくれるのだろうか。

    『そう思うか? ちゃんと振られたら、慰めてくれ。』
    君は誰かもわからない相手にそんなことを言ってしまうのかい。
    ちゃんと振られたらって、告白するつもりなのかい。
    文通相手じゃなくて、僕に縋ってくれたらいいのに、なんておかしなことを考える。


    『名も知らない相手に?』

    『そうだな。名も知らない君にしか伝えていないから。』

    彼のその言葉に、少しの優越感を感じた。僕しか知らない彼の好きな人の話。好きな人が僕ではないのは気に食わないが、(彼は相手が誰か知らないと思うが)彼の相談に乗れる相手になれたことが嬉しかった。

    『そっか。教えてくれてありがとう。』

    こうして、僕らの文通は曖昧に終わっていった。席替えがあったのだ。


    数学のときに座る席は、A組の知らない誰かの席になっていた。パステルカラーのファイル、机の中から少しはみ出したメイク道具。司くんのものではないだけで、こんなにも数学の授業に行く意欲がわかなくなった。
    司くんはと言うと変わらず昼休みには会いに来てくれるし、放課後も一緒にワンダーステージに行っていたりする。誰かに告白する気配もない。誰かに司くんが告白しようとしているという事実にそろそろ耐えきれなかった僕は、もう早く失恋でも何でもしてくれ、とやけくそになって僕は司くんに問うていた。
    「司くん…は、好きな人、とか………いるのかい?」
    この天才錬金術師でも恋心には勝てない。緊張がまるわかりな発言に、司くんも相手のことを考えているのか赤くなっていた。
    やはり、気に食わない。
    「……いるぞ。」
    少しきょろきょろと視線を動かしたあと、前を向いて幸せそうにへらり、と笑う彼。上手くいっているのだろう。
    「……。」
    応援してるね、とでも言えばよかったのだろう。しかし、言葉が出なかった。嫉妬心が膨らんで破裂しそうだった。彼をこのまま僕の家に連れ去って監禁でも何でもしてやりたかった。彼が他の誰かのところへ行ってしまうかもしれないという悲しみが胸を締め付ける。嫌だ、と泣きわめきたかった。
    彼を、笑顔にしたかったはずなのに。いつのまにか、彼が困るようなことばかり考えている。
    好きな人には幸せになってもらいたい。でも、僕も共に幸せになりたかった。
    文通を通して知った失恋より、何十倍も心の中の虚しさは大きかった。



    数日後。昼休みになかなか来ない司くんを迎えに行こうとクラスへ行った。数学の時間にお世話になっている彼に話しかけると、「ああ、神代か。司は今中庭にいると思うよ。女の子と待ち合わせしてるんだと。」という証言をもらった。
    告白してしまうんだろう。そして叶ってしまって、オレの彼女だ!なんて周りに自慢するのだろう。プレゼントは何を送ろうかと相談されるのだろうか。お揃いのキーホルダーとかつけるのだろうか。手をつなぐのもキスだってハグだって……あぁ嫌だ。嫌だ、嫌だ!

    気づけば僕は靴を履き替えずに中庭に来ていた。はあ、はあ、と息を切らしてあたりを見渡すと、幹の影に司くんを見つけてしまった。こころなしか、そわそわしているように見える。その目の前の女性はえむくんくらい背が低く、髪もおしゃれをしていた。丁寧に制服を着こなしていて、確かに司くんにお似合いですね、と言われそうだった。
    気に食わない。君の隣に僕以外がいることが。許せない。嫌だ。僕の思いを知らぬまま、彼女とのうのうと生きてほしくない。振られるくらいなら、司くんに一生僕のことを思い出してくれるように嫌われでもしてやろう。
    走って、走って。彼は驚いて目を丸くしているし、女性も振り返って困惑した表情を見せている。
    そうだった。いつも僕の心を振り乱すのは君なんだ。仕返しくらい、してもいいじゃないか。


    「司くんは僕の!!」


    ぎゅうと勝手に強く抱きつき、司くんを締め付ける。司くんが好きなのは僕だ!!と喚く。感情が溢れて、涙が出てくる。ごめんとだいすきが混ざり合って、よくわからない気持ちになる。
    一瞬気づいて、彼の方を見上げてみる。ぽん、と頭に手が乗った。そのままわしゃわしゃと撫で回される。
    「つ、つかさく」
    「オイ類!恥ずかしいだろう!!」
    行動と言葉が一致していないように思える。まんざらでもないように彼は笑っていた。
    司くんの目の前の彼女は「よかったね」と笑って、僕たちに2つのキーホルダーを差し出す。
    「あ!!ルイ2号のキーホルダー!!!」
    司くんはそう言って、僕を抱えたまま彼女からエイのキーホルダーを受け取った。ルイ2号ってなんだい、それ。エイが僕の名前って……あれ。

    『だろう!好きな人の、笑った顔に似ていてな!』

    思い出した途端、目の前の彼が愛おしく思えて。そうか、彼の好きな人って。じゃあ、あの長ったらしい惚気けられた文も。

    「好きだよ司くん!!!」
    「なっ……お、オレもだ!!大好きだ、類!」
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