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    クリスマスだけど書き納め! 捏造が多い。ミクちゃんの口調が曖昧だし、解釈とかすっ飛ばしてるのでかるーく流す感じで読んでください。司くんのはスターになりかけてるっぽい感じを出したかった。三人称視点は二度と書きません。

     クリスマス・グンナイショー!



    「司は、どんなプレゼントがほしい?」

    ミクが家族用タブレットから現実世界を覗くと、丁度司と母親がそんな会話をしているところだった。目を引くのは、天井に届きそうなほどのツリー。司が飾り付けを申し出たのだろうか、カラフルなオーナメントが少し下の方に偏ってついていて、てっぺんの星は傾いている。ミクはもうすぐ現実世界にクリスマスが来るのだと理解した。きっとプレゼントというのも、クリスマスプレゼントのことを指すのだろう。
     司、というのはミクたちバーチャルシンガーの住むセカイの創造主である。小学校に上がったばかりの、まだ平仮名がやっと書けるようになったほどの年齢だった。

    「……じゃあ、猫のぬいぐるみがほしい!咲希も喜ぶだろ!」

    司は自身の妹、咲希をこれほどなく溺愛していた。それこそこの、ワンダーランドのセカイをそれだけの想いで作り上げてしまうほどには。
     そして、優しかった。今だって病弱な妹に届けるショーについて、画用紙とクレヨンをめいっぱい広げ、物語を考えている途中だった。どうすれば彼女を笑顔にできるか、そればかり考えながら。人を笑顔にしたい。誰もが思ったことであるだろうが、それを行動に移せた者はその何割だろう。

    「えぇっと、そうじゃなくて……。司の、欲しい物を聞いてるのよ」

    「え? オレの欲しい物を言ったんだけど……」

    母親は困り顔で、司と目線が合うようにしゃがんだ。お兄ちゃんだからって我慢しなくてもいいのよ、とほっぺたを両手で挟むが、司は不思議そうな顔をしたまま母親を見上げている。

    「……そっか。じゃあ、欲しい物ができたら遠慮しないで言ってね。サンタさんに、いつでも伝えてあげるから」

    遠慮だとか、そういう類ではないことはミクにも理解できた。彼は、本当にそう思っているのだ。咲希の欲しい物が、自分の欲しいものだと。
     プレゼントは、人を笑顔にする手段の一つだと言える。ミクはよく、カイトに「綺麗な花を見つけた」と花を束ねた贈り物をする。受け取ったカイトの顔は、いつだって笑顔だったことをミクは思い出した。

    (じゃあ、司くんはどうやって笑顔になるのかな?)

     たとえ司がミクたちセカイの住人のことを知らなくたって、ミクは司がこの一年、良い子でいたことは知っている。ずっと影から眺めていたのだ。すべて妹のためだと、授業参観のお知らせの手紙を後ろ手でクシャクシャに丸めている彼も、寂しさに震えて夜を過ごす彼も。そんな彼こそクリスマスには笑顔になってほしいのに、とミクは思う。
     サンタクロースという他人を通して、何でも一つだけ、遠慮せずわがままを言えるイベントを、司は迷いなく妹のために使ったのだ。では、司本人へのプレゼントはどこにあるのだろう。そのプレゼントで彼のするはずだった笑顔は、どこへ消えてしまうのだろう。
     ミクはショーの構想を練る司をぼんやり見つめる。けれど、プレゼントの代わりに彼を笑顔にするようなアイデアは、すぐには降ってこなかった。

     ──とその時、司の母親がソファ上に放り投げられていたタブレットを取りに近づいてきた。慌ててミクは画面の中に戻り、セカイに戻ることを余儀なくされた。



    「うーん、う〜〜ん」

     セカイに戻ったときからずっと、まだ使ったことのない、ショーテントのステージの真ん中を椅子のようにして、ミクは足を宙に踊らせていた。手元には『司くんクリスマス大作戦』の文字。セカイは仕事も学校もない、いわばネバーランドのようなものなので、時間は有り余るほどあるのだ。

    「どうしたんだい、ミク」

    舞台裏からひょっこり顔を出してきたのは、ミクと同じセカイの住人であるカイト。頭を抱えているミクを見て珍しいねと呟いたあと、コツコツとステージの床を鳴らしながら、ミクのところに近づいてくる。

    「クリスマスに、司くんを笑顔にしたいんだけど……。どうしたらいいかわからないんだ〜……」

    「うーん……ミクは、どんなときに笑顔になるんだい?」

     カイトの問に、ミクはぐるぐると考え始める。

    「えーっと、面白い形の雲を見つけた時とか、お花さんと一緒に歌った時とか、うーん……楽しいこと?」

    ひらめきでぱっと明るい表情を見せたミクに、カイトは微笑む。そしてミクはそのまま、カイトに飛びついて言った。


    「そうだ! ねぇカイト、ミク、司くんとショーがしたいな!」







     ──司が目を開けると、そこには夢のような、派手な色合いの遊園地が、見渡す限りに広がっていた。
     目をこすって、ゆっくりと周りを注意深く観察する。空を走る汽車に、ショーテント、浮かぶメリーゴーランド……なんだか見たことあるような、というか、自身のショーの世界で見ていたものが実寸大となって、そこに平然と佇んでいた。
    (……夢?)
    司のここに来る前の最後の景色は、母と父と、それから咲希にメリークリスマスと言い合って、枕元に大きい靴下を置いたところまでだと記憶している。
    (ここは……)
    きっと、夢だろう。深く考えてみても意味はないかもしれないと、司は割り切ることにした。
     不思議と不安は感じなかった。むしろ、家にいるような安心感が全身を包み込んでいるようで。司の知っているものがあるからだろうか。



     ふと遠くで声がして、司は振り向いた。向こうの観覧車前で、ツインテールを下げた年上の女の子が、何かを探しているように手を額に当て、ぐるぐるとその場で回っている様子が見えた。

    「困ったなぁ、困ったなぁ〜」

    司は近づいて気づいた。その女の子は、サンタクロースと同じような衣服を身に着けている。サンタと言えば、老人でトナカイを連れていて、白いふわふわな髭があったはずだと、司は数日前に咲希にしたショーを思い出す。

    「──あ〜〜!そこのキミ!」

    バチン、と目があって女の子は声を張り上げた。やっと見つけた、といった具合の調子で、司に駆け寄ってくる。

    「え、えぇっと……サンタ、さん?」

    「ううん、ミ──ゴホン、ワタシはサンタ見習い!本当は師匠のサンタクロースも一緒のはずだったんだけど、はぐれちゃって……」

    驚きつつもそう返した司に、ミクはショーの設定……役名を名乗った。
     下がった眉と共に頭の飛び出た髪の毛もしゅん、と垂れているように司には見えた。

    「ねぇキミ、名前は?」

    「…………知らない人には、名前を教えちゃいけないって」

    ここでアクシデント。司はミクたちの想像以上に育ちが良く、素直であった。ミクは司の名前を知っているが、ここでそれを口にしては更に怪しまれてしまうだろう。
     だが、何が起こるかわからないのがショーというもの。ミクは一瞬だけ動揺を見せたが、すぐに司を指差して言った。

    「じゃあ、キミもサンタ見習いの仲間に入れてあげようっ☆ それなら呼び方にも困らないし、楽しいもんっ!」

    師匠が見つかるまでだけど、とミクは付け足す。アドリブで早速設定が滅茶苦茶だが、司は「サンタ見習い」という名前の響きに目をキラキラと輝かせているのでノーカンだ。


    「そうだ。ねぇ、サンタ見習いくん。一緒に師匠……サンタクロースを探してくれる? 師匠がいないと良い子にプレゼントを配れないんだ〜……」

    司は考える間もなくうん、と頷いた。あまりにも残念そうにサンタ見習いの兄弟子が言うので。何より、良い子にプレゼントを配れないと伝えられた時、咲希の顔が頭に思い浮かんだのだ。

    「やった〜☆ じゃあ、早速あの汽車に乗って、上から師匠を探してみよう!」



     上空の汽車から眺める景色は、やはり見渡す限り遊園地だった。見える位置に終わりはないし、出入り口も見当たらない。近くには色々な形の雲があり綿飴みたいだと眺めていて、サンタ見習いの兄弟子が「これ食べられるんだ〜!」と突然雲を千切って食べだした時は、流石に司も慌てた。だが、ミクは美味しいと両頬を触りながらうっとりと言うので、気になって司もピンクがかった雲を恐る恐る口に入れてみた。すると、甘い味が口に広がったのだ。
    「なにこれ、美味しい……」
    「ふっふっふー☆ このセカイの雲は綿飴でできているんだよ! たくさんあるから、いっぱい食べてね!」


    いつの間にか師匠を探しに来たという目的を彼女は忘れているのか、綿飴を口いっぱいに頬張っていた。司は自分だけでも師匠を探してみようと窓の外からセカイを見下ろしてみるけれど、人さえ見当たらない。夢の中だからそんなものなのかな、と司は考える。汽車も司たち以外は乗り合わせておらず、明るめのBGMが鳴り響いているだけだった。

    「……サンタクロース、いないなぁ」

    何時間経っただろう。時計もないので、時刻がわからない。ここが夢の中だとしても、きっと早く師匠を見つけなければ咲希のプレゼントが届かないのでは、と司は焦っていた。咲希はこの日を楽しみにずっと待っていたのだ。痛い検査も、点滴も耐えていたのに。

    「もぐもぐもぐ……ごくん。あれ?あそこに見えるのは……!師匠!?」

    すると突然、サンタ見習いの女の子が窓から身を乗り出して、その方向に手を振った。

    「サンタ見習いくん、あそこにいるのがワタシたちの師匠だよ! おーい、師匠ー!!」

    どこにいるのだろう、と司も窓の外を覗くけれど、サンタクロースは見当たらない。しかし彼女はしっかりとその姿が見えているようだった。

    「さぁサンタ見習いくん、師匠も見つかったことだし、すぐに良い子にプレゼントを配らないと!」

    司を軽々と抱き上げて、彼女は張り切って言った。嫌な予感がする。まさか、と司が口にする前に、彼女は汽車の窓枠に片脚を乗っけて立ちあがった。そして行くよ、と小声で合図してすぐ。


    「ジャーーンプ!!」

    「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」


    大きく足を踏み切って、ふわりと浮いた感触がする。それは一瞬で、すぐに二人は真っ逆さまに落ちていった。間違いなくこのままだと死ぬ、と司は直感で思う。下からありえない強さの風が吹いている。目も開けていられないくらいだが、確かにカラフルな地面が速度を増して近づいてきているのが見えた。
     司はぎゅ、と強く目をつぶる。来るだろう痛みに備えて、身を固くした。

    「大丈夫だよ、司くん。ミクを信じて!ほら!」

    ところどころ風に遮られて聞こえない部分もあったが、力強い言葉が司の耳元で聞こえた。司は名前を呼ばれた気がしてはっとした。そのセリフに背中を押されて、思い切ってサンタ見習いの女の子が指差す方を見てみる。すると、前からリンリンと鈴の音を鳴らして、何かが近づいてくる──

    「ぶへッ」

    柔らかい感触が身を包んだ。真っ白。なんだろう、と身を起こす。相変わらず吹く風は強い。とりあえず命は助かった、と司は胸を撫で下ろした。
     そして目を開けた司は気づいてしまう。また、司を乗せた物は前進しながら空を飛んでいた。前には赤色の大きな人影が見える。風で霞んでよく見えないが、三角帽子の先っぽの綿が揺れているし、落下中に聞いた鈴の音が司には聞こえる。サンタクロース、だろうか。その向こうには司たちが乗っているソリを引くもの……トナカイが見えた。

    「ねっ☆大丈夫だったでしょ! はー、楽しかったー!」

    隣で共に落ちたサンタ見習いの女の子が笑って、自信満々に告げた。
     その言葉に、司は自分が笑っているのに気づいた。あんなに怖かったのに──たしかに、楽しかったのだ。ジェットコースターみたいで、まだ乗り終わった後のドキドキが残っている。ワクワク。また、やってみたい。そんな思いが、胸の中いっぱいに詰まって、騒いでいる。

    「う、ん。──楽しかった!」


    司の満面の笑みに、ミクとカイトはこっそり、ショーは大成功だねと二人でハイタッチした。




     ソリが地上に降りて、司たちはショーテント前へ集合した。立派なソリには大きな白い袋がつまれている。そのそばに輪になって、彼らは座っていた。


    「君が、サンタ見習いと一緒に僕を探してくれた子かな?」

    司はうん、と頷く。声の主はサンタクロース──司の想像とは違う、青髪の若い男性だった。優しい声のままで、彼は続ける。

    「ふふ、ありがとう。助かったよ。新入りのトナカイとソリの特訓をしていたら、いつの間にかはぐれてしまってね。これで良い子にプレゼントが配れるよ。」

    司の顔がぱっと明るくなる。これで無事に咲希の元へプレゼントが届くんだ、と思うと安心がどうしても勝ってしまう。司はふぅ、と息をついた。ひと仕事終えた気分で、達成感も感じる。更にサンタクロースに会えた特別感に、えへへと頬も緩んでしまった。



     すると、師匠のサンタクロースが立ち上がって、帽子の角度を調節し始める。

    「さぁ、もうお別れの時間かな?」
    「寂しいけど、ワタシたちは今夜中にプレゼントを配らないと!」

    慌てはじめた彼らにつられたように司も立ち上がると、視界が白みだす。ピンク、黄、青……色々な三角形が司を覆っていく。夢から覚めるんだ、と司は思った。
     ふと、この夢での出来事を思い返す。師匠とはぐれていたサンタ見習いに、限りない遊園地。一度想像したことあるアトラクション。司は、このセカイに愛着が湧きはじめていたことに気づいた。

    「また、会える?」

    夢の中だけれど名残惜しくなって、司はそう尋ねた。


    「もちろんだよ、司くん!」

    「ずっと、セカイで待ってるよ!」



    ぼんやりだが、そう聞こえたような気がした。






     司が目を覚ますと、そこはいつも通りの12月25日の朝だった。枕元の大きな靴下を胸を高鳴らせて覗けば、そこには猫のぬいぐるみと、サンタの帽子が入っていた。
     正確には思い出せないけど、少しだけ覚えている。不思議なサンタ見習いの女の子と、若いサンタクロースの二人組が出てきた夢のことを。サンタの帽子と猫のぬいぐるみを抱きしめながら、司はベッドを出た。
     ソワソワしながらリビングに降りた司を見て、司の母はにっこりと微笑んで尋ねる。

    「あれ、楽しそうだね。もしかしてプレゼント、貰ったの?」

    「うん!とびっきりの!」


     司はそう言って、笑顔で頷いてみせた。


     背後では、家族用タブレットからこっそりとその様子を覗くミクとカイトが、良かったねと顔を見合わせていた。
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