ヒーロー、やめます。「恋を自覚したら魔法少女って変身できなくなるらしいよ。」
都市伝説だけどね、と前の席の同級生が言った。座ったまま振り返り、背もたれに肘を付きながら。数日前、アニメを見始めたんだと彼は言っていた気がする。なんでもない日の、昼休みのことだった。衣替えが終わり、半袖を着ても暑いと下敷きをパタパタするような時期だ。
「む。そうなのか。」
動揺を隠しながら返事をする。きっと急に話題を振られたから困惑していると勘違いしてくれるはずだ。冷房の中、手のひらはじんわりと湿り気を帯びているが気づくまい。ショースターになりたいと幼い頃から培ってきた演技力がどうにかしてくれる、はず。
彼はショーの脚本の手がかりになるかな、と冗談らしく言った。そういえばヒーローであることを隠すために、念の為芝居をしていると嘘をついていたのだ。そうだな、ありがとうと笑って窓の外を見やる。
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