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    寝過ぎ気味な司がいる類司。病名出てないですが割とわかりやすいので注意。去年書いた。話飛び飛びで読みにくいけど、なんか好きなので上げてます。

    眠り王子と。「起きろ天馬、何回目だ?」
    2時間目、やっとエアコンが使える時期に差し掛かった頃。瞼が下がった状態に、オレははっと気づいた。こら、と教師に出席簿の辺で叩かれる。
    「へぶッ……すみません!」
    忙しかったわけでもないし、夜ふかしをしたわけでもなかった。早い時間に寝て、いつも通りの時間に起きる。高校生活が始まってから1年、寝坊も居眠りもしなかったのに。
     居眠りすることが多いと気づいたのは、つい3日前のことだ。突然耐えきれない眠気に襲われて、肩を叩かれたら少し時間が進んでいる。疲れているのだろうか、と睡眠時間を多くしてみても結果は変わらず。ショーに支障は出ていないからいいのだろうと高を括っていたが、一つも油断はできない。困った、と頭を抱える。今週は休日に公演を予定しているのだ。練習中に眠ったりしたら迷惑をかけてしまう。
     それでも急に「気づいたら寝てしまっているんだ」と相談したとしても冗談としてしか捉えられないだろう。疲れてるの?なんて言われて余計な心配をさせてしまう。
     寝不足、で通せるだろうか。異様なほどの居眠りの数だが。公演が終わってから病院に行ってみるのも視野に入れておこう。それから、それから──


    「おい天馬ッ、もう立ったまま授業受けるか?」

    また自分が寝てしまっていたことに気づく。呆れ顔のクラスメイト。罪悪感でいっぱいだ。できるならばそうしたい、と心から思った。



    青空に響くは拍手の大喝采。人々の視線はワンダーランズ×ショウタイム──つまりオレたちに集中していた。どこを見ても笑顔、笑顔、笑顔。あぁ、幸せだ。温かいものにじわじわと胸が侵食されて、自分の口角も上がっていくのを感じる。
    (この瞬間が、大好きだ!)
    ネネロボも含めて5人で、手を繋ぎ礼をする。アドリブにもよく応えられていたし、観客の反応も良かった。公演は大成功だったと言えるだろう。


    練習中も公演中も居眠りすることはなかった、と思う。いや、これは居眠りと関係があるのだろうか。大きく感情が高ぶって、その次の瞬間意識が別の所に飛んでいる。そもそもなぜこんなタイミングで。
    「司くん……ッ!」
    その場に崩れ落ちようとしていた体を類とえむが受け止める。立ち上がりたいのに、しばらく力が入らない。まだショーの途中とも言える時間なのに。
    「る、ぃ……ごめ、」
    声はマイクにも拾われない程小さく、震えていた。何が起こったかわからなくて、ただ怖い。彼は一つ驚いた顔をして、直後オレの腰を抱えて舞台からはけていく。
    力がうまく入らなかった。足は動かせるものの、きっと支えがなかったらすぐに崩れ落ちてしまうくらい。オレの体はどうなってしまったのだろう? 3人は不安そうな目でオレの顔を覗いている。どう伝えればよいのだろう。「夜によく寝ていても居眠りをしてしまって」「最近ずっと眠いから」……そんな理由で神聖なステージの上で寝ていいものではないだろう。

    「司くん、ず〜っとぐるぐる〜……しゃきーん!って感じだったから…」
    人の気持ちに敏感な彼女はそれと同じように、オレが眠気と戦っていたことを直感で理解していたらしい。しゃきーん、は多分瞼が閉じそうになっているのに気づいたときだ。
    「い、いや……」
    言い淀んだオレに珍しい、と寧々と類は不思議そうに首を傾げる。

     正直に言わなくても、とオレは思いつく。病院に行けばきっと解決できるだろうし、考えてみれば、セカイによく眠るバーチャルシンガーがいた。オレの体はセカイが関係していないはずだが、眠気の対処法は知っているかもしれない。あまり期待はできないが……。

    「……少し疲れていたからだろう! 心配はいらない、ステージ上で眠ってしまってすまなかった。」

    その言葉に更に二人は目を丸くする。貧血を疑われていたのだろうか。えむはそれを既に知っていたからか、「むむむ〜〜ってずっとなってたもんね!」と当然のことのように答えていた。これはきっと眠気について悩んでいた様子だ。

    「ちょっとまって司、寝てたの?」
    「え、あぁ…そうだが」
    「は……?もう、心配して損した」

    寧々はオレと話を続ける一方、類はオレの顔をじっと見つめていた。きりっと眉を釣り上げて、口元に手をやっている。彼が考え事をするときの癖だ。練習中、行き詰まった時の表情にも似ている。良い予感はしなかった。
    (また、失望されるのだろうか)
    ふと考えてしまう。眠気に耐えられず、ステージ上で寝てしまう座長に誰がついていくというのか。寧々も納得いかないと言いたげに顔をしかめている。
    早くこれを対処せねば。どうしようもなく眠いなら、それに打ち勝つ方法を。仲間とショーを続けるためにも、心配をかけないためにも。



    家につくとすぐ音楽アプリから曲を再生、オレはセカイにいた。ルカに会うためだ。日が沈んだ空に映える、ライトアップされたアトラクション。観覧車はその中でも目立って見える。空中に汽車が走り、いつものBGMも控えめだ。
    もしかしたらルカは寝ているのかもしれない。後片付けが長引いてしまったのだ。それでも早く解決したかったから、起きている少しの可能性を抱えて来てしまったのだ。
    思ったより悩みは大きかったらしい、地面を蹴るテンポがいつもより早い。

    「あらぁ、司くん。」

    穏やかな声が聞こえる。振り返りざまに髪がさらりと揺れ、弧を描く唇に指を添えた彼女は目を細めた。こんな時間に珍しいわね、と。

    「おお、ルカ! ちょうど探していたんだ。眠っていないなんて珍しいな」
    「そうねぇ……司くんが笑顔じゃないからかしら?」

    は、と息を呑む。オレは悩み始めてから笑顔でいれていただろうか? 常に頭を回転させて、そのうちに眠って、起こされて考える、の繰り返しだったような。

    「そう、かもな。」

    「……一つ、相談に乗ってくれないか?」


     そうねぇ、とのんびりと考えるルカ。そのまま寝てしまいそうで心配だった。布団はセカイにあるだろうかと考えていると、夜空を見つめていた彼女はあ、と思いついたように声を漏らした。


    「めーちゃんに起こしてもらっているから、考えたことなかったわ〜」

    そっちか、と思わず大声が出そうになった。確かにセカイは眠気と戦わなければならない場面も少なそうだ。やはり質問する相手を間違えたのだろうか。
     ……しかし、視野は開けたような気はする。眠る前のことばかり考えて、後のことは考えていなかった。ルカがメイコに起こされているように、オレもきっと一人でなんとかできるような問題ではないのかもしれない。
    「そうか! 助かった。ありがとう、ルカ」
    少しだけヒントをもらったな、と夕飯を食べに戻ることにした。



    「類! 遅れてすまない、寝てしまって──」
    気温は不確かだ。ただ汗を前髪が濡れるほどかいていて、そんな自分を3人は呆れた目で見つめていた。
    どうしよう、また、眠気に勝てなかったせいで。居場所はなくなっていくのに誰も呪うことはできず、自己嫌悪だけが積もる。空気が重い。冷えた空気が下にたまって、足を縛り付けていく。何回目だろう、優しい彼らがこんな目線を向けてくるのだ。オレは酷いやつだな。心の中で自嘲してから、類の目を見つめた。
    「司くん。」
    鋭く胸を突いて、裂いていく声。当然のことだった。

    「そんなに寝たいなら、練習しに来なくていいよ」

    大切な友人だと言ってくれた彼に、最後に縋りつきたかったのかもしれない。馬鹿馬鹿しい話だ。本気でショーに向き合ってきた彼らへの裏切りをしてきたのだから。支えがなくなったオレは余計に大きな音を立ててその場に崩れる。
    地面は泥のようなものに変わって、そこに吸い込まれる体に困惑する。ふと見上げると、大好きだった瞳が6つ。軽蔑するかのように見下みくだされている。腹の中で後悔やら焦燥やらが渦巻き、なのにはくはく動く口からは空気が漏れるだけ。偽物のザチョー様にお似合いだ、そう嗤われているような。
    泥は口を覆い鼻を覆い、視界すら奪おうとしている。
    もう駄目なんだと直感で判断。苦しくなってどうしようもなくても、誰も助けてくれない。呼吸をしようと吸った鼻と口から泥が入り込んで、ツンと鼻の奥が痛む。苦しいのに、オレは、頑張っていたのに、どうして──



    「……ッ!」

    また、悪夢を見た。たちの悪い夢だ。どうしてこうも現実に起こりそうなものを出してくるのか。動悸が収まらない、知らぬふりをしていた可能性にメンタルが消耗される。ぎゅう、と心臓が縮こまったような感覚になんとなく息がしづらい。ここは夢じゃないのに。
    ショーの途中で眠ってしまってから、居眠りの頻度が増えた。大きく感情を出すと体にうまく力が入らなくなっていくし、夜によく眠ろうとすれば悪夢を見る。

    医者の言葉を反芻する。症状はオレの悩んでいたものと驚くほど一致していた。

    根本的な治療はなく、症状を抑えて改善することは可能。どうしてオレが、とどこか知らない神に文句を言った。一生、このままかもしれない恐怖。誰にも相談できていない孤独。これは理解の得られにくい病気らしい。
    もし、そんなことはないだろうが、えむに、寧々に、類に。
    あんなことを言われたら。

    『そんなに眠たいなら──』

    あぁだめだ! 髪の毛を痛くなるほど強く掴んだ。弱気になるなんてスターらしくない。次は良い夢だろうと布団に寝っ転がる。ずっと悪夢を見ているのだから期待はしていない。窓から見える夜空は雲が多く、月がぼやけて見えた。冷気にぶるりと体を震わす。外も冷えてきたし、そろそろ羽毛布団も出してもいいかもしれないな。

    言えばいつでもそばにいてくれる人を探せ、ということだろう。やはり学校にいる時間が多いからクラスメイトか? 隣の席のイシザキに、よく絡んでくるタナカ。どの名前を上げてもオレの隣にくっついているような人ではない。
    それに、クラスメイトはショーの練習にまで来ない。ふむ、難しいな。

     飛行機が青空を白く描き、それをカラスが横切る。チャイムが鳴ってどれくらい経っただろう。オレは学校に来てからもどうせ眠ってしまうからと授業を受けず、屋上の日向にあるフェンスを背にして座っていた。学級委員長のくせに、と言われそうだ。
    ぽかぽかな日差しが眠気を誘う。薬を飲んだからある程度のものは抑えられていた。久しぶりにまどろんでいるな、と回らない頭で考える。
     ぼんやりと空を見つめていた。なんだか心地よい。こんなに心が休まるのはいつぶりだっけ。思えばずっと居眠りの件で悩んでいたような。緩やかに上下する胸の感触をのんびりと味わう。この時間がずっと続けばいい。何も考えずに、起きている、寝ているの境界線もわからないで。


    がちゃ、とノブのひねる音。意識が一気に覚醒し、バレてしまったかと身を丸くする。
    「おや、司くんじゃないか」
    開かれたドアの向こうから顔を出したのは神代類。強まった風が彼の紫苑色を乱して去っていく。

    心臓が激しく音をたてる。悪夢がフラッシュバックする。切り離すような目、荒んだ言葉遣い。体が彼を拒否しようとしているのか、汗が吹き出る。目が回る、心地よいはずの空間はすぐに崩れ去っていく。何か言わなきゃ、と気持ちだけが早まる。

    「ぁ……類、」

    だが途端、とてつもない眠気に襲われて、抗う余裕もなく彼の目の前で意識を落とす。床に倒れたら痛いだろうな、と考えていた。
    完全に眠ってしまう前に、自分とは違う体温に抱きとめられたのは気のせいではないといいが。


    頭にある不思議な感覚に目を覚ますと、まず類の顔が目に入った。オレを見下みさげる彼の顔は、穏やかだった。きっと頭に置かれているものは彼の手のひら。彼は撫でるのが上手い、と聞いたことがある。自分より大きいもので守られているような安心感は、ここから来ているのだろうか。
    目が合ったことに気づいた彼は一瞬驚き、それから嬉しそうに目を細めた。柔らかな風が吹いている。
    「おはよう」
    「おはよ……うッ!?」
    彼に膝枕されていたことに気づいたので飛び上がってしまった。寝起きでも元気そうだね、といつも通りの対応をしてくれる優しさに思わず涙が溢れそうになる。
    「すまない、類!ありがとう。そうだな……今日のランチのデザートを分けてやろう!」
    「おやおや、それは魅力的だね」

    「でもね司くん、君は僕に話すことがあるんじゃないかい?」

    和やかな空気から一変、彼は真剣なオーラを醸し出している。シカトしてしまおうか。へ、と動きを止めたオレは考える。
    逃さないよ、なんて目が言っている。だってこんな話、信じてくれるかさえわからないんだ。彼に嫌われるのが、怖い。
    類はオレの腕を取って隣に座らせようとする。敵意は感じられなかった。……違ったら謝るんだけれど、君、から始まる類の言葉に耳を傾ける。いささか弱気になっているところに君という呼ばれ方は背が冷える。

    「君は──」

    病名を言い当てられ、目を丸くするオレを横目に類は続ける。ポケットにある薬や、練習中に突然寝てしまうこと。なにーッ!?と叫んだ後、しばらく背もたれのあるベンチから立たなかったこと、あの公演の直後、セカイでルカと話していたこと。公演後、話した時には疑っていたが、証拠がなかったのだと。
    考え事をするときの癖をしていたのは、このことを考えていたらしい。

    「……辛かっただろう? もっと早く言っておけばよかったね」
    トドメにそんな言葉を受け取ってしまえば、抱えていた思いが、感情が、溢れ出て止まらなってしまった。誰にも理解されないと思っていたから。君とはショーはできない、と切り離されてしまうと思っていたから。
    こんなに泣いたら寝てしまう、感情を出さないようにも頑張っていたのに。背中を行き来する類の手があまりにも優しいから、それに甘えてしまう。胸に広がる暖かさを噛み締めて、類にはかなわないな、と涙を流して笑った。

    「君が寝てしまったら、僕に起こさせておくれ」

    この病気をわかってくれて、その上で見放さないでいてくれるということだろう。ルカにとってメイコは、オレにとっての類だった。
    鼻腔を蕩かすのは、彼の花の匂い。暖かな日差しの中で類が抱きしめてくれる感触を確かめながら、オレはありがとうと類に言った。
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