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    行方不明

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    行方不明

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    短いの書こうと思った
        +
    別れましょうから始まる話を書きたくなった
        +
    メンタルよわよわじゃない千景さんが書きたかった
        Ⅱ
    至さんのメンタルがよわよわになった

    #千至
    thousandTo
    ##千至

    結局別れない「先輩。やっぱり俺たち、別れませんか」
     それを告げた時の先輩は、珍しく驚いた顔をしていた。

     華の金曜日。プレミアムフライデー。色んな呼び方があるけれど、とりあえず明日が土曜日で、仕事が休みなことは変わりない。先輩に誘われるがままにやってきたいつものホテル。先日からどうしても頭の中でぐるぐる渦巻いているモヤモヤしたものがあって、とうとうそれが抑えきれそうになかった。だから先輩がシャワーを浴びている間に、別れを告げる決心をした。
    「……こんなところに来てまで、どういうこと?」
    「それは……その、すみません。ここは俺が払います」
    「そうじゃなくて。嫌なら来る前に言えばよかっただろ?」
    「気持ちが、整理できてなかったので……」
    「ふぅん。じゃあ俺がシャワー行ってる間に心を決めたってことか」
    「そう、です」
     さっきからずっと、心做しか先輩の声が冷たい。いつもホテルで聴く底なしの甘さに包まれたような声ではない。まあそれは、俺のせいなんだけど。
    「理由、教えてくれる?」
    「それは……」
     あまりにもしょうもない理由で、先輩にどう説明したらいいか分からない。
     きっと俺は先輩の隣にいるには相応しくないと、ずっと思っていた。なんでも出来て、周りに人が集まってくる千景さんと、なんでも出来るフリをしてその実何も出来なくて、周りに見放されるのを怖がっている俺。一見似たもの同士のようだけれど、本当は正反対のスペックだ。
     千景さんの隣にいると、自分が如何につり合ってないかを思い知らされるようでつらい。いつの日か、何も出来ない俺は千景さんに捨てられるのかもしれないと思うとこわい。千景さんに、呆れられたくない。蔑まれたくない。
    「……茅ヶ崎、教えて?」
     けれど優しい顔で微笑まれて、そっと頭を撫でられてしまえば、こんな情けない悩みを吐露したくないと思っていても自然と口から零れそうになる。でも、千景さんに呆れられたくない。
     こんな現実にただ千景さんが気づいていなかっただけで、もしかしたらそれを知ったら俺のことなんて嫌になるかもしれない。そんなの、嫌だ。こわい。失うことが、こわい。
     強く目を瞑ったまま何も言葉を発さない俺に、千景さんの表情が曇る。
    「俺のこと……嫌になった?」
     普段より幾分か自信なさげのその声に、ハッとして千景さんの方を見る。少しだけ下げられた眉尻、不安の色を湛えた瞳。
     そんなことあるわけないのに。千景さんにはなんの非もないのに。否定をしたくて、首を横に振る。
    「違う……違うんです……そんなこと、絶対ない、俺は千景さんのこと、嫌いになんてならないです!」
    「なに、その言い方…………まるで、俺は茅ヶ崎を嫌いになるみたいに聞こえるけど」
    「だ……だって……」
    「茅ヶ崎」
     千景さんが少し怒っているのが声色からわかる。この煮え切らない態度が気に食わないんだろうと予想は着くけれど、だからといってそう簡単に口にできるものでもない。
     結局何も言えずにいると、力強く千景さんに両の二の腕を掴まれる。その痛みに思わず顔を顰めるも、千景さんの手の力は弱まることはなかった。話すまで、離さない。そんな声が聞こえるようだった。
    「だって……俺……っ、千景さんと、つり合ってない……から……」
     声が震える。けれどこれは現実だから、目を背けてなんていられない。千景さんの隣に相応しいスペックを持っていない俺が悪い。基本的に不器用で、何も上手く出来ない俺のせいなんだから。
     思考はどんどん悪い方へと沈んでいく。やっぱり俺たちは一緒にいるべきじゃない、そう改めて認識したとき、ふと俺の腕を掴んでいた千景さんの手から力が弱まった。
     恐る恐る千景さんに目を向ける。
    「そんなこと……悩んでたのか……?」
     驚いたような、少しだけ悲しそうな、なんて言い表したらいいか分からない、そんな表情をした千景さんがいた。その表情が、何を言いたいのか、何を思っているかわからなくて体が震える。
     嫌だ、嫌だ、千景さんに捨てられたくない。切り捨てられたくない。でも、どうしたらいいかわからない。
    「…………俺が入団当初にこの劇団にしたことを考えれば、お前と一緒に幸せになろうとするのは……烏滸がましい、かな」
    「え……?」
    「俺は茅ヶ崎と、一緒にいる資格がないかな……?」
    「ちがっ、なんで……そんなこと、あるわけっ……千景さんは、幸せにならないと……幸せに、なってほしいのに……」
     千景さんが幸せになることがいけないなんて、俺といる資格がないだなんて、そんなことあるわけがない。こんなにも愛情深くて、誰よりも家族を大切にしてくれる千景さんは、この世界の誰よりも幸せになってほしい。笑顔で溢れるような人生になってほしいのに。そのために、俺は──────
    「じゃあ、茅ヶ崎がずっと隣にいて。俺を捨てないで。俺から、離れないで」
    「なに、言って……」
    「茅ヶ崎に捨てられたら、俺は幸せになんてなれないよ」
    「俺が、捨てるなんて……そんなことっ、」
     するわけがない、そう反論しようとした瞬間、力強く千景さんに抱きしめられる。千景さんの力強い腕が、まるで俺を離さない、逃がさないとでも言うように強く俺の体を締め付ける。少し痛いくらいのその抱擁が、酷く心地いい。
     千景さんから離れないといけないと思う思考と、ずっとこのまま腕の中にいたいと思う気持ちがごちゃごちゃして、溢れる涙が止まらない。こんな泣きたいわけではないのに、それでも涙は止まりそうにない。
    「お前が俺に幸せでいてほしいと思ってくれてる限り、俺から離れないで。ずっと傍で、笑ってて。茅ヶ崎が、俺のこと好きって……俺に教えて?」
     耳元で囁かれる千景さんの声は、優しい。けれどそれだけじゃなくて、色々な感情を含んでいるように聴こえる。その全てを俺が受け入れられているのかはわからない。けれど、全部を受け入れたいと心から願う。
    「好き……好きです、千景さん……ずっと、この先も。……大好き」
     そっと千景さんの背中に両腕をまわす。千景さんのような力強さが俺にはないけれど、それでもこの気持ちが少しでも伝わりますようにと願いながら、世界で一番愛しい人を抱きしめる。
    「俺も好きだよ、茅ヶ崎」
     そんな、嬉しそうな千景さんの声がそっと耳に囁かれた。
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