執事と主人的な「至様、おはようございます…………おい、もう昼だぞいい加減起きろ」
「いった……寝起きに頭叩かないでください……寝不足も相まってくらくらする……」
「さっさと寝ろといつも言ってるのに聞かないお前が悪い」
「はぁ……今日も俺の執事の口が悪い……」
「何か言ったか?」
「……寝言じゃないですか?」
「いいから起きろ」
「うぁっ、」
潜っていた掛け布団を剥がされたので、渋々身体を起こした。朝日がだいぶ登ってから布団に入ったせいで、まだもう数時間は寝たいところだが、それをこの人が許してくれるわけもない。
卯木千景、この屋敷で唯一の俺専属の執事は、主人であるはずの俺に優しくすることも、甘やかすこともない。二人きりの空間になれば敬語は使わないし、口は悪い。そして身体に触れるどころか軽く叩いたり抓ったりといった暴力は振るうのだった。しかし、そんな千景さんは一歩外へ出れば誰よりも優秀な執事の皮を被る。俺以外の誰も、この二面性を知らなかった。
「今日は出かけるって言ってあっただろ。ほら、さっさと支度しろ」
「あー……そういえばそうだった」
「洗濯するから早く脱げ」
「わー、セクハラやめてくださーい」
「うるさい」
「いてっ」
パシンと小気味いい音を立てて頭を叩かれる。最初の頃はこの強引な千景さんに動揺していたものの、ほぼ毎日繰り返されるこのやりとりにすでに何も思わなくなってきていた。ほぼ毎日着替えを手伝われてる成人済みの俺、って考えるとだいぶ頭は痛くなるけれど。
洗濯物を手にした千景さんが部屋を出ていく音を聞きながら、用意してくれた洋服に着替える。いつだったか、毎日服を選ぶのがめんどくさいと言ったら次の日から千景さんが用意してくれるようになった。ああ見えて、結構面倒見がいい人だ。