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    行方不明

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    アイスバースちかいた
    完成まで行きたい〜……

    #千至
    thousandTo
    ##千至

    この気持ちは溶かせない(仮タイトル)「好きだよ、茅ヶ崎」

     優しい声色で、柔らかな表情で、穏やかな雰囲気で紡がれるその言葉は、俺の人生にとって一番甘美なもので、一番の凶器だった。



    「茅ヶ崎、そろそろ起きないと遅刻するぞ」
     パシンと頭を叩かれて、そろそろタイムリミットが近いことを知る。もっと惰眠を貪りたい気持ちはあるのだが、それで会社に遅刻しては元も子もない。
    「……まだ眠い」
    「早く起きないと、その鳥の巣みたいな頭で出勤することになるよ」
    「鳥の巣って……失礼すぎでは?」
     ボソボソと文句を言いながら起き上がれば、やれやれと言いたげな表情をして俺を見上げる千景さんの姿が目に入る。既に支度を終えているようで、きっちり着込んだスーツに整えられた髪は今の俺とは正反対だった。
    「ほら、お前が歯磨きしてる間に髪やってあげるから行くよ」
     先程までの釣り上げられていた目尻は優しく蕩け、慈愛に満ちた視線が送られる。まるで俺のことが好きで、愛おしくて堪らないと言ったような熱を帯びたその瞳が嬉しくて、同時に胸が苦しかった。

     世の中には3種類のバースがある。まずはなんの役割も与えられていない普通の人達。一番無害で、きっと一番幸せなのだろう。
     次に、ジュースと呼ばれる人達。これはまず、本人たちには自分がそうである自覚がない。自分がジュースと呼ばれるバースを持っているかどうかは、後述する三つ目のバースにのみ影響があり、それがなければ普通の人と何ら変わりがない。
     そしてその最後のバースが、アイスと呼ばれるものだ。これは先程のジュースと違って自覚症状がある。アイスと呼ばれるバースを持つ者は、他の人々と比べて基礎体温が低い。そして彼らには生まれながらにして背負っている枷があるのだ。

    『ジュースと結ばれると、三分以内に身体が溶けて死ぬ』

     それは俺、茅ヶ崎至が自分がアイスはという性をもって生まれたと気づいた時、同時に知ったことだった。



    「茅ヶ崎、今日は定時で帰れそう?」
    「え、まあ……やろうと思えば? なんか予定ありましたっけ」
     結局千景さんに髪を整えてもらい、ついでにネクタイまで締めてもらった。今日もお世話されてるな、なんて思いながら会社へと車を走らせる。助手席に座る千景さんがふわりと微笑みながらこちらを見ているのが雰囲気でわかる。俺は、意地でもそちらには視線を向けないと決めていた。
    「気になるレストランを見つけてね。よかったら一緒にどう?」
    「……奢りですか?」
    「俺から誘っているんだからそれくらいは、ね」
    「じゃあ……しょうがないですね」
     素っ気ないふりを、乗り気でないふりをするので精一杯だった。本当は誘ってもらえて嬉しいし、奢りでなくたって一緒に行きたいのに。
     隣から溢れる嬉しそうなオーラに、なんとも言えない気持ちになる。千景さんも、喜んでくれてる。それはとても嬉しいことなのだけれど。


    「好きだよ、茅ヶ崎」
     遡ること数ヶ月前。いつも通り103号室でゲームに明け暮れていたら千景さんが不意にこぼした告白。突然のことで頭が真っ白になってコントローラーが手から滑り落ちた。そしてそれが足に落ちてきた痛みで正気に戻った。
    「本気、ですか」
    「こんな嘘つかないよ」
     口元は微笑んでいるが、その目は普段他人をからかって楽しんでいる時とは違う、もっと真剣な色をしていた。本気なんだ、とすぐに理解出来たし、同時に身体中が熱くなって心臓の動きが勢いを増した。
    「茅ヶ崎は? 俺のこと、好き?」
     一応疑問形ではあったが、千景さんの声には自信があるようにも聴こえた。まるで、俺が頷いてくれると確信してるかのように。
    「お、れは……」
     好きだった。ずっと前から、千景さんのことが。きっとその想いが隠せずに溢れていたから千景さんにも気付かれていたのかもしれない。
     俺も好きだと、伝えたかった。けれどその言葉を紡ごうとした時、昔聞いた言葉がフラッシュバックした。
    『アイスとジュースは、惹かれ合う運命にある』
     惹かれ合う。その言葉が、互いが互いを自然と想い合うようになること、なのだとすれば。そして、自分がアイスであるということを踏まえると。
    ──────千景さんが、ジュースだったらどうしよう。
     ここで頷いてしまえば、溶けて、死んでしまうのだろうか。こんなに俺のことが好きだと、優しい笑顔を向けてくれるこの人の前で、死んでしまうのだろうか。
     俺が死んでしまえば、それは間違いなく生まれ持ったバースのせいなのだが、優しいこの人が全ての事実を知ってしまえば、きっと自分が悪いと思ってしまうに違いない。それだけは、絶対に嫌だと思った。
    「…………わ、わからない……です」
     肯定はできなかった。この人のせいでもしも死んでしまったら、と考えるだけで全身が震えそうだった。
     否定もできなかった。この人を愛おしいと思う気持ちは簡単に否定出来るほどのものではなかったから。
    「…………そう」
     その日からだった。千景さんによるアプローチが始まったのは。そして同時に、どうにか千景さんに呆れてもらえるように俺の我儘が加速したのは。


    「うわぁ、いかにも千景さんって感じの佇まい」
    「どういう意味?」
    「なんかこう、要人御用達みたいな雰囲気?」
     定時丁度にわざわざ迎えに来てくれた千景さんに連れてこられたのはまるで隠れ家のようにひっそりと佇むレストランだった。絶対に自発的に入ることは無いな、と思いながら千景さんの背を追って入店すると、予約していた茅ヶ崎です、という声が目の前から聞こえたので思わず声が漏れた。
    「えっ」
    「ん? なに?」
     振り返った千景さんはまるで、悪戯っ子のような表情で微笑んでいた。
     ああ、本当にタチが悪い。そうやって可愛いことされるの本当に無理。俺だって勝手に卯木を名乗ってやりたい。だってそれはまるで永遠を誓い合った家族のようで、俺が……臆病な俺が手を伸ばすことも出来ない理想の未来像だから。
    「どうかしたの? ほら、行くよ」
    「え、あっ、はい」
     ぼんやりとしていた俺の腕を掴んだ千景さんは、店員に案内された席へと向かうまでその手を離さなかった。
     千景さんと向かい合うように座り、てっきり各々でメニューを見るものかと思っていたら、先にメニューに手を伸ばした千景さんが俺と一緒に見れるような角度でメニューを開くので、一緒に見る羽目になった。少しだけ身を寄せ合うのが、なんだかはずかしかったけれど、この距離感は心地よかった。そんなこと、口には出せないけれど。
    「前情報によるとおすすめは、これとこれ」
    「へぇ、じゃあ俺はこれにします」
     千景さんが指をさして教えてくれたおすすめを一瞥した後、俺は適当に違うメニューを指した。なんでもよかった、千景さんが選んだものでないのなら。このくらい可愛くない態度を取ることは必要不可欠だ、千景さんに愛想を尽かしてもらうためには。
     また、この人にどれくらい効果があるのかは計り知れないけれど。だって今も、なんでか嬉しそうに笑っている。
    「茅ヶ崎ならそう言うと思ったよ」
    「……そうですか」
     そんな楽しそうな声を出されたらもう、恥ずかしくて千景さんの顔なんて見ていられなかった。
     注文は全て千景さんに任せ、料理が届くまでは適当なソシャゲを開いて時間を潰した。せっかく一緒に来ているのに、なんて咎められることはなく、千景さんはただただ上機嫌なようだった。
     もしその理由が、俺と一緒に来れたから、だったとしたら。そう考えるだけで心臓が早鐘を打って、顔に熱が集まる気がした。
     ダメだダメだ、聡い千景さんには直ぐにバレてしまう。慌てて明日の仕事のことを考えて気持ちを萎えさせた。千景さんに気がないふりをするのは、大変なのだ。
     料理が届いてからはぽつりぽつりと会話をした。なるべく会話が弾まないように気をつけていたつもりだが、美味しい? と聞かれた際には思わず、すごく美味しいですと明るいトーンで返してしまい、千景さんを喜ばせてしまった。喜んでいる千景さんを見て喜んでしまう俺自身には後から後悔した。
     食後には千景さんに勧められるがままに俺だけアルコールを頼んだ。帰りの運転を千景さんに押し付け飲んだこの店自慢だというカクテルは見た目に反して甘みが強く、なんだか千景さんみたいだと心の中で笑った。
     約束通り奢ってくれた千景さんと一緒に夜風にあたりながら近くのパーキングまで歩いた。ほろ酔いだからなのか、千景さんがそばにいるからなのか、なんだか胸の奥がポカポカしていた。
    「茅ヶ崎、結構酔ってる? 度数高かったのかな」
    「ん〜、多分? あは、よくわからないです」
     確か度数も記載があったはずだけれど忘れてしまった。酔ってるからしょうがない、そう自分に言い訳してそっと千景さんにくっついた。
    「茅ヶ崎?」
    「結構酔ってるみたいなんで、ふらついたら危ないでしょ?」
    「……はいはい、しょうがないな」
     腕から伝わる千景さんの体温が心地良い。ああ、本当に……千景さんのこと、好きだなぁなんてしみじみ考えたりして。

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