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    Norskskogkatta

    @Norskskogkatta

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    Norskskogkatta

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    主くり
    重陽の節句に菊酒を作る大倶利伽羅と、それがうれしくて酔い潰れる主
    前半は主視点、後半は大倶利伽羅視点です

    #主くり
    principalOffender
    ##君とひととせ

    『あなたの健康を願います』

    隣で動く気配がして意識が浮上する。布団の中で体温を探すも見つからない。眠い目蓋を持ち上げると腕の中にいたはずの大倶利伽羅がいなくなっていた。
    「……起こしたか」
    「どうした、厠か……」
    「違う、あんたは寝てろ。まだ夜半を過ぎたばかりだ」
    目を擦りながら起き上がると大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
    なんだか置いていかれるようで咄嗟に追いかけてしまった。大倶利伽羅からは胡乱な目で見られてしまったが水が飲みたいと誤魔化しておいた。
    ひたひたと廊下を進むと着いた先は厨だった。
    「なんだ、水飲みに来たのか」
    「それも違う」
    なら腹でも空いたのだろうか。他と比べると細く見えても戦うための身体をしているのでわりと食べるしなとぼんやりしているとどこから取り出したのかざるの上に黄色い花が山をなしていた。
    「どうしたんだそれ」
    「菊の花だ」
    それはわかる。こんな夜更けに厨で菊の花を用意することに疑問符を浮かべていると透明なガラス瓶を取り出してそこに洗った菊の花を詰めはじめた。さらに首を捻っていると日本酒を取り出し注いでいく。透明な瓶の中に黄色い花が浮かんで綺麗だが何をしているのかさっぱりわからない。
    「なぁ、何作ってるんだ」
    「審神者なんだろ、年中行事くらい知っておいたらどうだ」
    瓶の蓋をきっちりと締めながら呆れ気味に言われてしまえばぐうの音も出ない。
    「近々でなんかあったか……?」
    「……はぁ、明日になればわかる」
    今度は本当にため息をつかれてしまった。瓶を冷蔵庫にしまう大倶利伽羅に無知ですみませんと謝るしかできなかった。

    翌朝、いつもどおりに起きて大広間で朝食を食べ、1日が始まる。午前の遠征送り出しと長期遠征の迎え、演練に出かけ、昼を挟んで出陣へ。そんなこんなをしているうちにあっという間に夜になった。そのころにはすっかり大倶利伽羅とのやり取りを忘れてしまっていた。
    夕飯時になり、また大広間へむかうといつもと様子が違った。
    「珍しいな、栗ご飯なんて」
    「今日は重陽の節句だからね」
    膳を運んでくれた燭台切が教えてくれてはじめて思い出した。たしか九月九日は五節句のひとつで菊の酒を飲んだり旬の栗を混ぜたご飯を食べることで無病息災や長寿を願うのだったか。
    「この栗ご飯も伽羅ちゃんが手伝ってくれたんだよ」
    「……そうなのか」
    「それからこれも」
    そう言って膳の横に置かれたのは磨りガラスの徳利と猪口で、徳利の方には小さな菊がひとつ、猪口には細長い花弁が浮かべられていた。
    「これ、」
    「あー! 主だけずるいじゃないかい!」
    遠くから次郎太刀の声が響いた。耳がいいな、と逆に感心しているあいだにのし掛かられてしまう。
    「ねーえー、アタシにも一口おくれよー」
    手を伸ばされそうになってとっさに盆を遠ざけると、動きを止めた。
    「ありゃ、これ菊酒かい?」
    「あー多分そうだ。昨日の夜大倶利伽羅が作ってるのを見た」
    ほおん、と感心したようにいうと次郎太刀は離れていった。
    「次郎太刀?」
    「アタシだって馬に蹴られたくないからね、しっかり味わって大事に飲みなよ」
    颯爽と席に戻っていった広い背中を見送ってからようやく手を合わせて食事が始まった。
    わいわいと会話が飛び交う中、菊の花弁を遊ばせているのをひと口あおる。ふわりと菊の香りが広がってとても美味しい。
    広間を見渡し目当ての姿を見つけてもこちらは向いていなかった。他の刀たちから長生きしろよだとか、健康第一だからねとか声をかけてくれたがこれをつくってくれた本刃からはまだなにも言われていない。だが今手元にある菊酒があいつの気持ちを代弁してくれている気がした。
    「美味いな……」
    ひとりごちた言葉は嬉しさが滲んでいるのが自分でもわかって少し気恥ずかしかった。 


    ***




    主の健康祈願と称した宴会も時間が過ぎ、残っているものがまばらになった頃、主が酒に酔ったと声がして振り返ってみれば件の人物と目が合った。赤ら顔で座卓に突っ伏しながらこちらを見ている。
    飲ませられたなと呆れていると、ふにゃっとした顔で「おーくりから」と舌ったらずに呼ばれ、思わず真顔になった。
    「大倶利伽羅ー、主がお呼びだよーん」
    いつのまにか席を移動し、どこから持ち出したのか主に酌をしていた次郎太刀にも呼ばれ、仕方なく腰を上げる。
    「いやー珍しくじゃんじゃん飲んでくれるから楽しくなっちゃってねぇ」
    たはは、と声を立てながら言う次郎太刀にたまらず溜息が口をついて出た。自分の主を酔い潰してどうする。
    どれだけ飲ませたのかと見渡しているとそれよりも、と下から声がかかる。
    「あんたの酒には手を出しちゃいないから安心しな、ぜーんぶ主が大事そうに飲んでたよ」
    「……そこまで見境がないとは思っていない」
    「あらま、そりゃうれしいねぇ」
    化粧っけのない瞼を瞬かせてゆったりと笑う大太刀に肩をすくめていると、今度はジャージを引かれた。犯人は当然次郎太刀ではない。
    「かわいぃなあ、おまえ」
    「…………」
    真顔どころか眉間に皺が寄るのがわかる。主が甘ったれた顔で訳のわからないことを言っている。
    そういう睦言めいたことを言うなら閨の中でにしろと言いたくなった。このところ忙しくて同じ部屋にいてもただ隣で寝るだけ、どころか一度も顔を合わせない日もあるのだ。
    「あっははは! 大分酔ってるねぇ!」
    「……飲み過ぎだ、部屋に戻るぞ」
    肩を貸して立ち上がらせると、後はよろしく、と一升瓶を片手に見送られ大広間を後にした。覚束ない足取りの主を支え肌寒くなってきた廊下を進む。左半身に感じる主の体温を抱き寄せるとくふくふと笑い声がする。
    「おーくりからはかわいいなぁ」
    「…………」
    この酔っ払いめ、どうしてくれようか。

    主の部屋に入り布団に転がす。主の腰を跨いで乗りあげるとおもいぞーなどと言いながらまだ笑っている。口付けて黙らせてやろうかとかがみ込むと顔が温かい手のひらに包まれる。心臓が跳ねた。
    「なんだぁ甘えたかあ?」
    「……おい、」
    わしゃわしゃ頭を撫でられて色気もへったくれもない。もう無理矢理にでも口を塞いで舌でも突っ込んでやると顎を捉えようとした。
    「……すきだぞ」
    酒に飲まれた赤い顔で目を細めて笑う主に胸が苦しくなる。痛みを伴うわけではないそれは、じくじくと胸を焼いて緩みそうになる頬を押さえる代わりに眉間に力が入る。
    「素面の時に言え」
    「よってない」
    「酔っている奴は大概そう言うんだろ」
    これはもう大人しく寝させるしかないのだろうなと手首を掴んで離そうとした。
    「お前はなんにも言わないけどさ、俺はすっごく嬉しかった……もちろん、他のやつらから健康でいろって願ってくれるのも嬉しいけどさ、お前からのが一番嬉しかった」
    これ内緒な、と眉を下げて笑う主に頷くことで返した。
    他の刀剣たちが祈願やらなんやらを伝えているのだから菊酒をひとりで作った意図は伝わって当然だ。だが贔屓をしないと恋仲になった最初に言い含めたりこの戦のあり方を憂いたりする、考えすぎるきらいの主が一番だと。
    もとより言葉にするつもりもなかったが、主に伝わっていたことが面映ゆい。
    「ある、じ」
    頬にある手にすり寄って自分でも媚びているなと思うような声音で呼んでみると穏やかな顔で眠っていた。
    「……生殺しか」
    この稚児のように飛び跳ねそうな心と身体はどうしてくれようかと主を睨んでも起きる気配はない。すやすやと満足げに口角まで上げて寝顔を晒す主が腹立たしくて髪をぐしゃぐしゃにしてやった。
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    Norskskogkatta

    Valentine主くり♂くり♀のほのぼのバレンタイン
    料理下手なくり♀が頑張ったけど…な話
    バレンタインに主にチョコ作ろうとしたけどお料理できないひろちゃんなので失敗続きでちょっと涙目で悔しそうにしてるのを見てどうしたものかと思案し主に相談して食後のデザートにチョコフォンデュする主くり♂くり♀
    チョコレートフォンデュ一人と二振りしかいない小さな本丸の、一般家庭ほどの広さの厨にちょっとした焦げ臭さが漂っている。
    執務室にいた一振り目の大倶利伽羅が小火になってやいないかと確認しにくると、とりあえず火はついていない。それから台所のそばで項垂れている後ろ姿に近寄る。二振り目である妹分の手元を覗き込めば、そこには焼き色を通り越して真っ黒な炭と化した何かが握られていた。
    「……またか」
    「…………」
    同年代くらいの少女の姿をした同位体は黙り込んだままだ。二振り目である廣光の手の中には審神者に作ろうとしていたチョコレートカップケーキになるはずのものがあった。
    この本丸の二振り目の大倶利伽羅である廣光は料理が壊滅的なのである。女体化で顕現したことが起因しているかもしれないと大倶利伽羅たちは考えているが、お互いに言及したことはない。
    2051

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    MOURNING主くり
    支部のシリーズに出てくるふたりのその後
    煙草じゃなくて


     昼食も終わり、午後の仕事を始める前の煙草休憩。再び癖となってしまったことに蜂須賀は顔を顰めたが、すまないとだけ言っている。
     まあ、目的は単に紫煙を揺らすだけではないのだが。
    「またここに居たのか」
    「タバコ休憩な」
     玉砂利を踏み締める音を立ててやってきたのは大倶利伽羅だ。指に挟んだ物をみせるとあからさまに機嫌が悪くなる。それがちょっと可愛く思えてどうにもやめられずにいる。
     隣に並んだ大倶利伽羅をみて刀剣男士に副流煙とか影響するのだろうかと頭の片隅で考えながらも携帯灰皿に捨ててしまう。そうするまでじっとこちらを見ているのだ。
     しっかりと見届けてふん、と鼻を鳴らすのが可愛く見える。さて今日はなにを話そうか、ぼんやりしているとがっしりと後頭部を掴まれる。覚えのある動作にひくりと頬が引きつった。
    「ちょっ、と待った」
    「なんだ」
     気づけば近距離で対面している大倶利伽羅に手のひらを翳して動きを止める。指の隙間から金色とかち合う。普段は滅多に視線を合わせやしないのに、こういうときだけまっすぐこちらを見てくる。
    「お前なにするつもりだ」
    「……嫌なのか」
     途端に子犬 910

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    花火景趣出たときにハイになってかいた。
    花火見ながら軽装姿の嫁といちゃつくだけ
    いつもの執務室とは違う、高い場所から夜空を見上げる。
    遠くでひゅるる、と音がしたあと心臓を叩かれたような衝撃とともに豪快な花が咲く。
    真っ暗だった部屋が花の明かりで色とりどりに輝く。それはとても一瞬でまた暗闇に戻るがまたひゅるる、と花の芽が音をなし、どんと花開く。
    「おお、綺麗だな」
    「悪くない」
    隣で一緒に胡座をかく大倶利伽羅は軽装だ。特に指定はしていなかったのだが、今夜一緒にどうだと言ったら渡したとき以来見ていなかったそれを着て来てくれた。
    普段の穏やかな表情がことさら緩んでいるようにも見える。
    横顔を眺めているとまたひゅる、どんと花の咲く音ときらきらと色があたりを染めては消える。
    大倶利伽羅の金色がそれを反射して瞳の中にも咲いたように見える。ああ。
    「綺麗だな」
    「そうだな、見事だ」
    夜空に視線を向けたままの大倶利伽羅がゆるりと口角を上げた。それもあるんだが、俺の心の中を占めたのは花火ではないんだけどな。
    「大倶利伽羅」
    「なんだ」
    呼び掛ければすっとこちらを見てくれる。
    ぶっきらぼうに聞こえる言葉よりも瞳のほうが雄弁だと気づいたのは付き合い始めてからだったかなと懐かしみながら、 843

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    たまには大倶利伽羅と遊ぼうと思ったら返り討ちにあう主
    とりっくおあとりーと


    今日はハロウィンだ。いつのまにか現世の知識をつけた刀たちによって朝から賑やかで飾り付けやら甘い匂いやらが本丸中にちらばっていた。
    いつもよりちょっと豪華な夕飯も終えて、たまには大倶利伽羅と遊ぶのもいいかと思ってあいつの部屋に行くと文机に向かっている黒い背中があった。
    「と、トリックオアトリート!菓子くれなきゃいたずらするぞ」
    「……あんたもはしゃぐことがあるんだな」
    「真面目に返すのやめてくれよ……」
    振り返った大倶利伽羅はいつもの穏やかな顔だった。出鼻を挫かれがっくりと膝をついてしまう。
    「それで、菓子はいるのか」
    「え? ああ、あるならそれもらってもいいか」
    「……そうしたらあんたはどうするんだ」
    「うーん、部屋戻るかお前が許してくれるなら少し話していこうかと思ってるけど」
    ちょっとだけ不服そうな顔をした大倶利伽羅は文机に向き直るとがさがさと音を立てて包みを取り出した。
    「お、クッキーか。小豆とか燭台切とか大量に作ってたな」
    「そうだな」
    そう言いながらリボンを解いてオレンジ色の一枚を取り出す。俺がもらったやつと同じならジャックオランタンのクッキーだ。
    877

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    重陽の節句に菊酒を作る大倶利伽羅と、それがうれしくて酔い潰れる主
    前半は主視点、後半は大倶利伽羅視点です
    『あなたの健康を願います』

    隣で動く気配がして意識が浮上する。布団の中で体温を探すも見つからない。眠い目蓋を持ち上げると腕の中にいたはずの大倶利伽羅がいなくなっていた。
    「……起こしたか」
    「どうした、厠か……」
    「違う、あんたは寝てろ。まだ夜半を過ぎたばかりだ」
    目を擦りながら起き上がると大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
    なんだか置いていかれるようで咄嗟に追いかけてしまった。大倶利伽羅からは胡乱な目で見られてしまったが水が飲みたいと誤魔化しておいた。
    ひたひたと廊下を進むと着いた先は厨だった。
    「なんだ、水飲みに来たのか」
    「それも違う」
    なら腹でも空いたのだろうか。他と比べると細く見えても戦うための身体をしているのでわりと食べるしなとぼんやりしているとどこから取り出したのかざるの上に黄色い花が山をなしていた。
    「どうしたんだそれ」
    「菊の花だ」
    それはわかる。こんな夜更けに厨で菊の花を用意することに疑問符を浮かべていると透明なガラス瓶を取り出してそこに洗った菊の花を詰めはじめた。さらに首を捻っていると日本酒を取り出し注いでいく。透明な瓶の中に黄色い花が浮かんで綺麗 3117

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    梅雨の紫陽花を見に庭へ出たら大倶利伽羅と会っていつになったらふたりでいられるのかと呟かれる話
    青紫陽花


    長雨続きだった本丸に晴れ間がのぞいた。気分転換に散歩でもしてきたらどうだろうと近侍の蜂須賀に言われて久しぶりに外に出る、と言っても本丸の庭だ。
    朝方まで降っていた雨で濡れた玉砂利の小道を歩く。庭のあちらこちらに青紫色や赤色、たまに白色の紫陽花が鞠のように咲き誇っている。
    じゃりじゃりと音を鳴らしながら右へ左へと視線を揺らして気の向くまま歩いて行く。広大な敷地の本丸の庭はすべて散策するのはきっと半日ぐらいはかかるのだろう。それが端末のタップひとつでこうも見事に変わるのだから科学の進歩は目覚ましいものだ。
    「それにしても見事に咲いてるな。お、カタツムリ」
    大きく咲いた青紫の紫陽花のすぐ隣の葉にのったりと落ち着いている久しく見なかった姿に、梅雨を実感する。角を出しながらゆったり進む蝸牛を観察していると、その葉の先端が弾かれたように跳ねた。
    「……うわ、降ってきた」
    首の裏にもぽつんと落ちてきて反射的に空を仰げば、薄曇りでとどまっていたのが一段色を濃くしていた。ここから本丸に戻ろうにもかなり奥まで来てしまった。たどり着くまでに本格的に降り出してきそうな勢いで頭に落ちる雫の勢いは増 3034

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    菊酒をのんで酔い潰れた後日、大倶利伽羅が好きだなぁと自覚しなおした審神者と日を改めて飲み直し、仲良し()するまで。
    月色、金色、蜂蜜色


    急に熱さが和らいで、秋らしい涼やかな風が吹く。
    空には満月が浮かんで明るい夜だ。
    今は大倶利伽羅とふたり、自室の縁側で並んで酒をちびちびとなめている。徳利は一本しか用意しなかった。
    「あまり飲みすぎるなよ」
    「わかってるよ、昨日は運ばせて悪かったって」
    「あんたひとりを運ぶのは何でもないし、謝られるいわれもない」
    「じゃあなんだよ……」
    「昨日は生殺しだったんでね」
    言葉終わりに煽った酒を吹き出すかと思った。大倶利伽羅は気を付けろなんて言いながら徳利の酒を注いでくる。それを奪い取って大倶利伽羅の空いた杯にも酒を満たす。
    「……だから今日誘ったんだ」
    「しってる」
    静かな返答に頭をかいた。顔が熱い。
    以前に忙しいからと大倶利伽羅が望むのを遮って喧嘩紛いのことをした。それから時間が取れるようになったらと約束もしたがなかなか忙しが緩まずに秋になってしまった。
    だいぶ待たせてしまったとは思う。俺だってその間なにも感じなかったわけじゃないが、無理くり休暇を捻じ込むのも身体目的みたいで躊躇われた。
    そして昨日の、重陽の節句にと大倶利伽羅が作ってくれた酒が嬉しくて酔い潰れてし 1657