悪友の隣で「ベスティ〜!」
やけに陽気な声が聞こえるたびに、俺はいつもうるさいのがきたって思うんだよね。勝手に俺のことベスティとか呼んでるし。でもお金とか利益があれば大抵の無理難題でも聞いてくれるし、必要以上に踏み込んでこない。それが心地よかった。
アニキと俺を比較して見下してくる人たちみたいに、他人と関わりを持ちたいって顔をして、自分が可愛いだけの人とは違う。そういうやつに俺は一緒にいる意味を感じないし。そういう意味ではビリーが近づいてきてよかったかも。俺にそこまで価値ってものがあるように思えないんだけど。女の子に情報を勝手に売ったりするの、ホントはやめてほしいんだけど、それで俺に利益が返ってくるなら、まあいいかなって思ってる。
実際、熱心な女の子とかが本気出して調べれば大体わかっちゃうようなくだらないものばかりみたいだし。
俺の情報には興味あるくせに、俺自身にはあんまり興味ないみたい。とか言って俺もそこまでビリー自身に興味はないかも。ただそこまで壁をわかりやすく作ってるのって、器用な割に踏み込ませないようにしてるのかなって気になってる。
これが、去年の俺からみたビリーへの印象。今も変わってない部分はあるけど、俺たち自身が多少なり変わってきてる気がするんだよね。俺もビリーも、前よりちゃんとヒーローになってきた気がする。
「そういえばビリーってグレイといるときゴーグル外してるんだって?アカデミーの時は絶対に外してくれなかったのに」
「オイラたち、踏み込まないタイプのベスティだったジャ〜ン!DJもそんな楽な関係が好きだから俺っちと一緒にいたんじゃないノ〜?」
いつもの調子のいいぶりっ子ポーズは今も変わらない。
「俺からビリーの方に寄っていった記憶ないんだけど?」
「エ〜?ヒドーイ!んもー、ベスティってば冷たいんだから!でもDJ、本気で嫌な時はちゃんと断るでしょ?流石にその辺りは弁えてマス☆」
「アハ、冗談だってバレちゃった。でもそれはあながち間違いじゃないかも。って、そうやって話そらす癖、変わってないんだね。俺には効かないよ。残念♪」
少しにやっと笑ってみせれば、ビリーも応えるようににっと笑う。全然気は合わないくせに、こういうところがある。俺はビリーのことを騒がしいって思ってるし、ビリーはビリーで俺のことを都合のいいやつって思ってそうなのに、二人して面倒ごとにぶつかると異様に息が合う。それから冗談だってわかってるのにこうやってふざけ合う時とかね。気も合わないしお互いマイペース。でもなんとなくセンスは合うのかも。流行に詳しいし、聞く音楽とかもこだわりないし。
話がそれちゃった。
そうそう、俺の“ベスティ”に本当の友達ができたかもしれないんだよね。俺といても曝け出せない弱さを見せられる友達ができたのかな。
「表情の些細な部分で嘘ってすぐバレちゃうんだよネ。危ない橋を渡って生きるために、俺っちは視線を隠して生きてきた。でももうグレイの前では嘘はつかないヨ。これは償いでもあるけど、ただオイラがグレイに嘘つきたくないんだ。隠し事ももうしない。グレイが友達、って呼んでくれるから」
「ふーん、よかったじゃん。ビリー変わったなって思ってたけど、やっぱりグレイのおかげだったんだ。とんだ嘘つきで、しょっちゅう授業ふけて遊んでたビリーがそんなこと言うなんてちょっと驚きかも。ベスティなのに、素顔見せてくれないのにはちょっと妬けるけど。なんてね♪」
ゴーグルしてたってわかる。嘘に紛れて本音を隠すのが上手になってしまうのは、本音を吐き出すことが難しくなることと同じだから。素直じゃない俺は、同じく素直になりきれないビリーの気持ちがわかる。自分の本音を話せることが、どれほど嬉しいことなのか。自分の言葉を正面から信じてもらえることが、本当に俺たちにとっては貴重なんだ。
わかりあうなんて優しい関係じゃなかったけど、ビリーにちゃんと友達って呼べる人ができたことを本当におめでとうって思える。
「なんかオイラ、こーゆーキャラじゃないのにいっぱい喋ってて恥ずかしくなってきちゃった……」
「アハ、その顔イイね、エリチャンにあげとこっかな?」
「もー!そう言ってからかってるケド、DJだって最近角が取れて丸くなったの、みんな気づいてるんだからネ〜?」
「それは言われてみればそうかも。自分でも変わろうって意識してないけど変わってきたな、って思うことあるし」
確かに思えばそうかもしれない。自堕落なメンターに、ラブアンドピースなメンター。口うるさいルーキー。自分からは関わろうとしなければ関わる機会のない人たち。自由気ままで、騒がしくて、いつでも大騒ぎなセクターだけど、みんなに影響されて変わってきた部分もある。
「あとあと〜、ルーキーズキャンプでもうちの班は結構進歩したんじゃナイ〜?あんなに協調性のないメンバーで協力しようなんて今後一切ないカモ!」
「あれは状況が状況だったし。でもみんなも変わってきてるしこの先のことはわからないよ。俺にも、みんなにも。でも、エリオスに入ったばかりの頃はどれだけ楽するかしか考えてなかったな。アハ、懐かしいや」
「ほんとにネ〜。アカデミーの頃なんてDJ、ウィルソン氏にチョ〜冷たかったし!」
「プロムの手伝いなんてやらされるってわかってたらみんなああなるって。ビリー、あの時の恨み、忘れてないからね?」
なんて言ってるけど、周りに自分を決めつけられたくなくてずっと周りに興味がないフリをしてた。自分に利益もないのにどうしてみんな人に優しくできるんだろうね。自分が楽なのが一番でしょ。って思い込んでた。
ヒーローをやって、仲間たちと関わる中で、気づいたら相手のために動いていた。こんなの俺のキャラじゃないのに、とは思うことはあるけど、そんな自分のおせっかいを恥ずかしいとは思わない。
俺はヒーローになって、人を助けたいと思うようになった。きっと最初のきっかけは普通の人からしたら不純だと思うけど、これが俺のヒーローの形。
「俺もビリーも『善人』じゃないけど、ちょっとはヒーローらしくなってきたんじゃない?」
「そうかも。俺っち、メジャーヒーローに早くなって、これからもバリバリお金を稼ぎマース!」
「アハ、そこは変わらないままなんだ。でもイイかもね。俺たちの幸せと街の人たちの幸せが共存できるなら」
追いつきたい背中がある。守りたい人たちがいる。不恰好な歩き方で、俺たちはそれぞれの正義を探しながら歩いてく。
時々、悪友と揶揄いあいながら、ね?