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    れんこん

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    れんこん

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    第7回ベスティワンドロ用
    バレンタインイベ、カドスト等を踏まえたお話。
    not カプ

    #ベスティ
    besty

    ハッピーバースデー&バレンタイン

     ここ数日で山のように贈られたその言葉と気持ちに、珍しくちょっと流されてうわついて。

    「……。」

     なんとなく目が覚めてふわふわと浮くような腹のあたりを触る。
    むず痒いような、でも嫌じゃない感覚に、なんとなく高揚させられているのも混じっている。
     ……いろんなことがあったから、かな。

     まだ、日付の変わる手前の時間。
    LOMからの外出続き、祝われ倒しのパーティ続きでさすがに疲れ果てて、帰り着いた途端眠っていたらしい。同室のおチビちゃんはもうおねむの時間だから、隣からすやすやと気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。

     ……いつもガミガミと口うるさいのは変わらないのに、なんだかんだパーティでは生演奏を披露してくれた。パーティのための準備もみんなで考え尽くしたらしい。その時のことを思い出すとまた胃のあたりがふわりとして、ふふ、と口元につい笑みが浮かぶ。……こんな感覚は初めてかも。らしくないけど、たまにはいいよね。
     自分が上機嫌なのを客観的に感じて面白くなっていく。

     ……でも、なんとなく何か変な感じがする。
    ふわふわの中にお腹が空いたような変な感覚。足りてないのかな。あれだけ豪華な食事を山ほど食べたのに。色とりどりのショコラも沢山食べたのに。

     食事を摂るのは面倒だけど、せめてちょっと水でも飲もう。なんて思い立ってサイドテーブルに手を伸ばして、暗がりの中こつんと手に当たったものを見て、そういえば、と思い出す。
     手に馴染みのよい形状のマグカップ。表面には音符の模様が踊っている。
     そしてこのカップをくれた相手を思い出す。
     そういえばビリーとは誕生日の深夜にパーティに乗り込んできたの以降からは会っていないかも。
     なんとなく思い立った日に談話室に足を進めると決まってビリーがいるものだ。
     ……そうだ。うちのセクターからのお祝いについてもゴーグルに相談にのってもらったから礼を言っておけと律儀なおチビちゃんに聞いてたんだった。

     ちょうどいいと思って、寝ているおチビちゃんを起こさないように部屋着のまま外に出る。
    深夜帯は人はまばらだけれど、夜勤の人たちも居るから談話室にも常に灯りが灯っている。
     慣れた談話室への道を歩いて、いつもビリーが鼻歌でも歌いながらスマホを弄っているソファを見つけるけれど。

    「……あれ。」

     そこにビリーは居なかった。
    ……なんか珍しい。まぁ、別に元からビリーは俺と同じように多忙にしている方だし、よく出歩いている方だからここにいる時間がそう長くはないのは知っているけど。でも、だいたい俺が少し存在を期待して談話室に足を運ぶときは大概ここにいた。……期待してなくてもいる事は多かったけど。
     なんとなく不思議な感じがして、また仕事で出歩いてるのか、なんて考えるけど……いや、もしかしたら自室にいるのかも。
     なんとなく気になってイーストセクターへ向かう通路へ足を進めようとしたら、なにやら途中で部屋着のままスマホの画面をじっと見つめているグレイに出会った。

    「あ、ちょうど良かった。グレイ、ビリーは部屋にいる?多分起きてるでしょ。」
    「!?ひぇっ!?…っあ、…あ、フェイスくん…!?」

     全くこちらに気付いていなかったのか、グレイは手持ちのスマホをおっことしそうになって、ギリギリそれを回避した。
     ちらりとその折に画面が見えたけれど、何かしらのゲームの画面だったみたいだ。……最近流行りの位置情報ゲームかな、女の子達に見せてもらった気がする。
     しばらくいつものようにその猫背からの目線を合わせられずにあわあわとしていたけれど、びっくりさせちゃったね、ごめんねと言うと過剰に自分が気付いてなかったのが悪いと謝られた。

    「ビ、ビリーくんは、今は部屋には居なくて……。部屋着だったから多分タワーの外には出てないと思うんだけど……。わ、わからなくてごめんね……。」
    「そんなに謝らないで。……そう、わかった。ありがとう、グレイ。」

     おやすみ、と声をかけるとちょっとだけ嬉しそうにおやすみ、と返して来たけれど、多分あの様子だとゲームの区切りがつくまでは眠らないんだろう。グレイと別れて、仕方ないので部屋に一旦戻ることにした。
     どこで何してるかはわからないけど……こんな事でわざわざ電話をするまでもない。
     急ぎでもない用でただ喋りたいというだけで呼び出すのも……、こんなこと考えている自分すらなんとなく珍しい気がして、やはりふわふわとしているのは腹の中だけでは無さそうだ。

     起きてしまってここからまた眠るのも難しそうで。そうかといっても今から夜遊びに出かける体力は無い。せめてこの空腹感を満たそうかと、会えなかったあの子から貰ったマグカップを貰って自販機へ向かうことにした。


    ****


     アンシェルのものには敵わないけれど、そこそこにまぁ美味しいホットショコラをカップに注いで。部屋に戻るのもなんだし、とその場にある硬めの椅子に腰掛けてカップに口をつける。
     相変わらず少し甘すぎるくらい甘くて、でもホッとする感覚。……ただ、空腹感のような隙間はあまり満たされない。これだけこってりしているのに。……やはりうわつきすぎて調子が変なんだろうと理由をつけて納得することにして、誰もいない空間でふぅ、と一息ついた。
     ……なんだかんだずっと囲まれていたから、この時間も久しぶりなんだよね。
    ゆっくりするのが久々で、手持ち無沙汰な感覚も久々で、なんとなくカップをじぃっと見つめる。
     ビリーが選んだというものにしては結構シンプルで……そして持ち帰ってみて分かったのは、俺の部屋のトーンに合っていること。
     どこでそんなのをリサーチしているのかはわからないけれど、さすがだよね、なんて思ってまた一口甘さを啜る。

     と、何も気配は無かったのに、突然きゅっきゅっと硬い床をスニーカーで歩く音が聞こえて来て、思わず少しびくりとした。
    オレンジ色の見慣れた明るい髪の毛に、反射する怪しいゴーグル。


    「ハローベスティ♪あっ、俺っちのあげたカップ使ってくれてるんだ!嬉し〜♡」
    「……!ビリー……。」

     いつのまにか先程まで探していた相手がすぐそばにいて、素直に驚く。
    以前ここで出会った時も思ったけれど、本当に神出鬼没だ。先程グレイが言っていた通り、部屋着の姿。それでも相変わらずその手袋は外さないままだけれど。
     ビリーは当たり前みたいに隣の椅子に座って、ひとくち頂戴!なんて言ってきたけど、ダメだと却下した。ケチ!とわざとらしくぷんぷんと怒った素振りを見せているけど、大体そんなふうに見せる時ほど全く怒ってはいない。
     いつもの変わらないやり取りに、なんとなく先程の浮ついた感じが少しずつ落ち着いていく。
    少し、俺にしては頑張り過ぎちゃったかな。

    「んっふふ〜♪DJご機嫌が良さそうだネ!たくさんのパーティは楽しかった?ウエストのお祝いでは楽しそうにしてたよネ♡」
    「アハ、そうだね。そういうの面倒だって思ってたけど……、まぁ。」

     その先を言うのはなんとなくビリーの前だと気恥ずかしい。本人達にはなんの照れもなく言えた事なのに、変わらないビリーを目の前にすると結局いつもの自分になってしまう。
     ほんの少し自分の胸の内がスッキリして、ほんの少しだけ世界が違って見えて、俺は「変わった」し、「変わろう」とそうあの人に告げた。
     けど、目の前の「ベスティ」とのあれそれは変われないらしい。ただ、ビリーはそんな俺をみて口角をくっとあげて笑う。

    「DJ、前にもましてスッキリした顔してて、楽しそうで、ベスティのオイラとしても嬉しいヨ♡」
    「ベスティ、ねぇ……。」
    「あ、そういえば今日の会食はどうだった?オスカーパイセンとブラッドパイセンにもお祝いの席を作ってもらったんでしょ?」
    「うわ……、知ってるんだ。」
    「HAHAHA〜♪ニューミリオンが誇る情報屋!ですカラ〜⭐︎」

     相変わらず、なんでも知っている。
    その通り、今日は会食の誘いを受け、若干渋々ながらにオスカーの必死な様子に根負けしてあの兄と食事を共にした。
     相変わらずその場の空気は居心地が悪くて会話も殆どなかったけれど、あのLOMを経てからはほんの少しだけ自分が意固地になっているのを客観視できるようにはなったから。
     だから、一応お祝いされるという事実だけは受け取っておいた。
     しかもその後には……

    「ご両親にもお祝いしてもらえたんでしょ?」
    「……。」

     本当にプライバシーという概念はどこにあるのか……というよりどこからわかるんだろう。
     いちいち反応するのも最早面倒になったから、黙ってホットショコラを啜る。…やっぱり甘い。
     両親からの祝いには素直にありがとうと返して、その今まで面倒で辛くなっていた有難いほどの気持ちも受け取った。
    愛されるのも嫌われるのも面倒だと感じる日々だったけど、まぁ受け取ってみて、たまに返してみても悪くないかもね?なんて思い直してみたりなんかして。
     DJ、幸せだね♪なんて面白がってニヤニヤしてちらちらと見える八重歯が気に障ってふん、とそっぽを向くとからかってゴメンってばぁ!なんて言われて腕に縋りつかれる。相変わらずだ。
    まるで面倒な彼女みたいにわざとらしく腕に絡まれて、はぁ、とため息をつく。

    「ため息は幸せが逃げちゃうヨDJ!」
    「それ前にも言ってなかったっけ?ていうか今のビリーが原因でしょ?」
    「んっふふ、幸せすぎてパンパンだろうから少しくらい吐き出すくらいでちょうどいいデショ?」
    「アハ、屁理屈だね。」

     ビリーとの会話はホットショコラが進む。
     先程感じた空腹感は今は全然感じられず、こなれていく。変わらないものも悪くはない。
     ビリーはずっと、アカデミーの頃から変わらない。……変わらない。

    「……そういえば。おチビちゃんに言われてたんだった。ビリー、おチビちゃんの相談に乗ってくれたって聞いたけど。」
    「ン〜?そういえばそうだったカナ!」
    「なんで誤魔化すの?前にここで会った……あの時さ、ショコラが嫌になってないか聞いてきたけど……。まさか」
    「NO NO!俺っちはもし嫌になっちゃったとしても楽しい事で上書きしちゃえばイイんじゃナイ?って教えてあげただけだヨ!」
    「アハ、ありがとね、ビリー。」

     ウエストセクターのパーティやプレゼントの内容について「タダ」で調査して取り計らっていたというのをなんとなく言いたくないらしい。何のコト?なんて誤魔化すようにビリーは肩をすくめてみせる。
     そして、そのビリーのアドバイスに、自分がディノにかけた言葉を思い出して少しまたむず痒い気持ちになった。

    「以心伝心……ね。」
    「ん?何か言ったDJ。」
    「ううん、なんにも。」

     手に持ったカップはもう、冷えてしまっている。
    2月はまだ冷えるし、よほど長く話していたらしい。
     ビリーはスマホを弄り出して、俺も腹が満たされた。なんとなくここでもうオヤスミの空気を感じるけれど、今日はなんとなくまだ話していたい。
    でも特に話題がある訳でもない。
    目の前のビリーを見て、そしてふと考えた。
     ビリーは、どうなのか。
    誰にだってフレンドリーで、上手に「好き」を言えてしまうタイプの彼は……俺とはまた事情が違う。そう感じる。
    両親の話も、聞いたこともない。
     ……そこにわざわざ踏み込まないのが俺たちのルール。
    でも

    「ビリーは何を、」
    「ん?」
    「……いや。」
    「変なDJ!今日は本当におかしいネ〜!浮かれちゃってカワイ〜♡」
    「……はいはいっと。」


    『何を上書きしてきたの』

     そう聞けずにただビリーの慣れた揶揄いに流される。その瞳は相変わらず高反射のゴーグルに隠されてしまって真意も何も読み取れなかった。

    「……さてとっ!ボクちんもそろそろおネムの時間!明日は早朝からパイセンにしごかれるスケジュール〜……うぇ〜ん……。」
    「アハ、ご愁傷様。」
    「じゃあねベスティ、グンナイ♪」
    「……おやすみ。」

     ビリーがいつもの軽快な足取りで自分のセクターの方へ戻るのを見届けて、冷たいカップを握りしめる。
     最早何度目かわからない、ベスティね、という言葉を吐きながら。

     ひとりだと、すっかり冷めてしまったショコラだと少し物足りない。自販機に向かって、冷たくなって減っているショコラの上に、暖かいショコラで覆い隠すみたいに注ぎ足した。上書き、だ。
     なんとなくビリーの腰掛けていた椅子に座ってそれを一口飲んで


    「……ぬるい。」

    誰も居なくなったその空間に、誰に聞かせるわけでもなくつぶやいた言葉が響いた。



    2021年2月15日
    お題「以心伝心」「マグカップ」「Happy Birthday」
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    れんこん

    DONEビリーが居なくなってしまった話。
    未来ごりごり捏造しています。
    すっかり慣れ親しんでしまったタワー。
    最早実家よりも馴染んでしまうくらいになったそこでの生活。
    パトロールが終わって、後は眠るだけの時間。
    ……今日は夜から出掛けるのはやめよう。

    昔程は毎日のように夜遊びという無茶はしない。
    まぁ頻度がほんの少し減っただけ。特に大きくも変わらない。相変わらず女の子からの連絡は沢山くるしね、むしろ昔よりさらに増えたくらい。
    理由と言えば、少しだけ明日のヒーロー活動のために睡眠を取らなきゃいけないかな、なんて思った時だけ眠るようにしている。
    今日の理由はほんのちょっと、違うけれど。


    最早見慣れてしまった街でパトロールをしていた。
    ただいつもと変わらないその日常で、今日は背景のひとつだったキャンディショップが目に入った。綺麗にまるで花束みたいにラッピングされたロリポップが明るいオレンジ色のリボンで纏められて。恐らく誰かへのプレゼント用か、ただのディスプレイなのか。わからないけど。
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    れんこん

    DONE第14回ベスティ♡ワンドロ用
    お題「契約」
    フェイビリ風味です
    こ難しく短い眉を寄せたり、緩く特徴的なカーブを描く唇に当てられた手袋越しの指がトントンとそこを叩いて、何かに悩むような考えてるような素振り。スマホを何度かスクロールして、なにかを見つけたのか、寄せられていた眉が緩んで、口角も緩んだ。
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    「エ〜!?絶世のイケメンに言われちゃ考えちゃうナ〜♡」
    「はいはいっと。せめてゴーグル外してから言ったら?」
    「ンッフッフ、ゴーグルの下はベスティ♡にはトクベツ価格でご案内シマース♡」
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    ビリーは、変わった。
    今見ていたのもただただ金を巻き上げるためだけの情報でなく、誰かを喜ばせる為の下調べ。おおよそ……、前話していたジェイの子供のことだろうか。謎の胡 3408

    れんこん

    DONEアカデミー時代ベスティ
    出会い捏造のお話です。
    『こんなことも出来ないのか?お兄さんのブラッドはー…』

    『フェイスくん、カッコいい、全部好き!』

    『…ー兄弟なら、お前も優秀なはずじゃねーの?』

    『ねぇ、私と付き合ってよ、』



    頭の中に交互に響くのは自分への否定と肯定の言葉。いろんなものがごちゃ混ぜになった地面のない世界のど真ん中に放り出されたみたいな心地がして、びくりと体を震わせて目が覚める。
    ……うたた寝ってろくな夢を見ない。
    なんとなく蒸し暑くなってきたから、校舎の隅の木陰で横になっていたけれど、失敗した。
    陰で水分を含んだ芝が制服を湿っぽくして、まるで今の俺の状態を仲間と認めて誘ってくるような。……やだな。
    でもそれでもサボっていた授業に戻ろうなんて気も起きなくて。かといって自分と違ってやる気のあるヒーロー志望の子と同室の寮に戻る気だって起きない。
    好きと嫌いの感情のマーブルチョコは今は受け付けられなくて、女の子に会って気晴らしをしようという気にもならない。
    この無駄にただイライラと……いや、しゅんと落ち込んでいくような気持ちを抱いている時間が無駄だというのはわかっている。

    ……こういう時には音楽を聴くのが良い。
    4895

    れんこん

    DONE第13回ベスティワンドロ用
    お題「祈り」「未来」
    未来捏造のベスティ(notカプ)のお話。
     まるで絵の具をこぼしたみたいな真っ青に塗り込められた雲ひとつない空に、正反対のオレンジ色が映える。
     そこそこ強い風にその髪の毛が煽られて、太陽の光を受けてきらりきらりと光った。


    「……いいの?」

     その相変わらず若干細っこい背中に声をかける。
     すると、その肩が少しだけぴくりと動いて、でもこちらを振り返らずに、ただ青い空を見つめたままだった。

    「いいの。」

     ふ、と一息ついたかと思うと、ビリーの手からぽんぽんといつもみたいに花が溢れ出る。赤、青、黄、白、紫、橙……色とりどりの花には共通点もなんにもなくて、ただ持っていた全ての花をそのまますべて出したというのが正しいのかもしれない。
     その花は強い風に吹かれて花弁になって散っていく。その様は、きれいで、そして寂しい。

     彼と出会って何年経ったろう。
    アカデミーの頃まで含めると、多分最早腐れ縁だねと言えてしまうくらいの年月。
     それなのに噂だけでしか知らなかった彼の父親の葬儀に呼ばれたのは少し意外だった。
     元々重病だったのに、余命宣告よりもずっとずっと長生きしてくれたんだヨ、とぽつりぽつりと聞いたことないトーンでビリーが喋 3822

    れんこん

    DONE第二回ベスティ♡ワンライ
    カプ無しベスティ小話
    お題「同級生」
    「はぁ……。」
    「んんん? DJどうしたの?なんだかお疲れじゃない?」

    いつもの談話室でいつも以上に気怠そうにしている色男と出会う。その装いは私服で、この深夜帯……多分つい先ほどまで遊び歩いていたんだろう。その点を揶揄うように指摘すると、自分も同じようなもんでしょ、とため息をつかれて、さすがベスティ!とお決まりのような合言葉を返す。
    今日は情報収集は少し早めに切り上げて帰ってきたつもりが、日付の変わる頃になってしまった。
    別に目の前のベスティと同じ時間帯に鉢合わせるように狙ったつもりは特に無かったけれど、こういう風にタイミングがかち合うのは実は結構昔からのこと。

    「うわ、なんだかお酒くさい?」
    「……やっぱり解る?目の前で女の子達が喧嘩しちゃって……。」
    「それでお酒ひっかけられちゃったの?災難だったネ〜。」

    本当に。迷惑だよね、なんて心底面倒そうに言う男は、実は自分がそのもっともな元凶になる行動や発言をしてしまっているというのに気づいてるのかいないのか。気怠げな風でいて、いつ見ても端正なその容姿と思わせぶりな態度はいつだって人を惹きつけてしまう。
    どうも、愚痴のようにこぼされる 2767

    れんこん

    DONE第7回ベスティワンドロ用
    バレンタインイベ、カドスト等を踏まえたお話。
    not カプ
    ハッピーバースデー&バレンタイン

     ここ数日で山のように贈られたその言葉と気持ちに、珍しくちょっと流されてうわついて。

    「……。」

     なんとなく目が覚めてふわふわと浮くような腹のあたりを触る。
    むず痒いような、でも嫌じゃない感覚に、なんとなく高揚させられているのも混じっている。
     ……いろんなことがあったから、かな。

     まだ、日付の変わる手前の時間。
    LOMからの外出続き、祝われ倒しのパーティ続きでさすがに疲れ果てて、帰り着いた途端眠っていたらしい。同室のおチビちゃんはもうおねむの時間だから、隣からすやすやと気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。

     ……いつもガミガミと口うるさいのは変わらないのに、なんだかんだパーティでは生演奏を披露してくれた。パーティのための準備もみんなで考え尽くしたらしい。その時のことを思い出すとまた胃のあたりがふわりとして、ふふ、と口元につい笑みが浮かぶ。……こんな感覚は初めてかも。らしくないけど、たまにはいいよね。
     自分が上機嫌なのを客観的に感じて面白くなっていく。

     ……でも、なんとなく何か変な感じがする。
    ふわふわの中にお腹が空いたような変な感 5277

    れんこん

    DONE第16回ベスティ♡ワンドロ用
    お題「部屋」
    グレイから見たベスティのお話
    ※ビリー出てきません
     ちいさく、キラキラ光るガラス瓶。
    複雑な形にカットされたそれは、ハートの形状を形作っていて、その表面は光が反射しやすくなるようにさらに細工が入っている。
    蓋は黒くシンプルで、根本には濃いピンク色のリボンが巻かれていた。
     中に入っている液体は何色なんだろう。ガラス瓶の色なのか中身の色なのか、隣のスペースからは判別できない。

     わりとナチュラルなテイストで纏められたビリーくんの部屋には少しだけ不釣り合いに思えるような……というか、まるで女の子の持ち物のようなそれが、つい目に入ってくる。
     きっちりと本が並べられたデスクの上にちょん、と置いてあるそれの隣にはなにか小さな音楽プレーヤーみたいなもの。これも、濃いピンク色。ハッキリと存在を主張するそれになんだか動揺して、見なければいいのに目がチラチラとデスクの方に向く。……ううん、友達って……、難しい。


    「ビリー、いる?」
    「ヒィッ!?」
    「……っ!?」

     突然ぱしゅんと音がして部屋の扉が開いて、突然の訪問者にびくっと背中を震わせてしまった。
     なんとなく気になって仕事で留守にしているビリーくんの部屋を勝手に覗いていたから、そのやまし 4368