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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチの初詣。もう少しだけお正月シリーズが続きます。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    初詣 お腹の上に、ずしんとした衝撃があった。目を開けると、ルチアーノが僕を見下ろしている。まだ寝巻きを着たままで、纏められていない髪がお腹の上に垂れている。どうやら、起きたばかりのようだった。
    「おい、起きろよ」
     真上から、ルチアーノの声が降ってくる。
    「何時……?」
     僕が尋ねると、時計を見る素振りもなく答える。
    「八時」
    「……あと一時間」
     布団を引き上げると、顔を潜り込ませた。ルチアーノが僕の身体をつつく。このやり取りも、日々のお約束になっていた。
    「起きろって。このまま寝正月する気かよ」
    「寝正月も、お正月の過ごし方のひとつだよ」
     もごもごと答えると、彼は呆れたようにため息をつく。
    「本当に寝る気かよ。寝坊助だな」
     身体の上から重みが消えた。諦めたのかと思ったら、耳元で布団が擦れる音がした。ルチアーノが潜り込んで来たのだ。
    「起きないなら、こうだぜ」
     額に、柔らかい感触があった。驚いて目を開けると、にやにやと笑うルチアーノの顔が視界に入る。
    「今度は、こっちだぜ」
     顔が近づいて、唇が触れあう。顔を離すと、色っぽい笑みを浮かべながらこう言った。
    「おはよう。目が覚めたかい?」
     目が覚めたどころではない。心臓がどくどくとなって、身体が熱くなる。
    「心臓に悪いから、朝からキスはやめて……」
    「これに懲りたら、すぐに起きることだね」
     ルチアーノはきひひと笑う。本当に、誘惑が上手な男の子だ。

    「今日は、初詣に行こうか」
     僕が誘うと、ルチアーノは嫌そうな顔をした。
    「初詣? 三ヶ日なんて、一番人が多い時期だろ」
    「大丈夫だよ。大きな神社には行かないから」
     日本には、神社がたくさんある。テレビで取り上げられるような有名どころは混んでいるけど、地元の小さな神社はそこまでの規模ではない。三ヶ日でも人混みの心配はなかった。
    「初詣をして、帰りにお寿司を食べようよ」
     寿司という単語を出すと、ルチアーノの顔がキラリと輝いた。
    「仕方ないな。付き合ってやるよ」
     お寿司に釣られるなんて、子供みたいだ。怒られるから、心の中だけで呟く。
     防寒具に身を包んで、外へ出た。お正月の町は静かで、たまに人が歩いているくらいだ。空気は冷たくて、風に晒された耳が痛くなる。
     神社が近づくと、徐々に人通りが増えてきた。子供の手を引く母親に、老夫婦、若いカップルや、学生らしい集団の姿も見える。三ヶ日なだけあって、小さい神社でも境内には列ができていた。
     最後尾に並んで、順番を待つ。おそらく、ルチアーノは神社の参拝が初めてだ。イリアステルの神に仕える彼にとっては、日本の神は異教の神なのかもしれない。
    「そういえば、ルチアーノって神社とか大丈夫なの?」
     ふと思って尋ねると、ルチアーノは怪訝そうな顔をした。
    「何がだよ」
    「宗教によっては、神社に入れなかったりするんでしょ?」
    「君は、イリアステルをなんだと思ってるんだよ。宗教団体じゃないんだぜ」
     ルチアーノは神の代行者を名乗っているから、宗教性のある組織だと思ったのだけど、違うのだろうか。不思議な組織だ。
    「問題がないなら良かったよ」
     鞄から小銭を取り出すと、ルチアーノに手渡す。十円玉と五円玉が一枚ずつだ。
    「これは、『十分ご縁がありますように』って意味なんだよ」
    「ふーん」
     そうこうしているうちに、僕たちの番が回ってきた。階段を登り、本殿の前に出る。
    「参拝の仕方は知ってる?」
    「それくらい常識だろ」
     どうやら、ルチアーノのデータベースには神社についての知識も収められているらしい。教えなくても済むのはありがたかった。
     お賽銭を投げ込んで、神様に願い事を伝える。大切なことだから、時間をかけてゆっくりと伝えた。
     本殿から降りると、売店の前に出た。焚き火を中心に、数人の人が集まっている。
    「せっかくだから、おみくじを引かない?」
     僕が誘うと、ルチアーノは興味なさそうに答える。
    「僕は、神頼みなんかしないよ」
    「じゃあ、僕だけ引いてくるね」
     ルチアーノの元を離れ、売店でおみくじを引く。紙を開くと、末吉の文字が目に入った。微妙な結果だ。供養するために紐に巻き付ける。
     焚き火の前に戻ると、ルチアーノが老婦人と話をしていた。珍しく、にこやかに笑いながら話に応じている。その姿を見て、ルチアーノは猫を被るのが上手かったな、と思い出した。
     僕の姿に気がつくと、ルチアーノは笑顔で手を振った。老婦人も僕を見て微笑む。
    「あら、お兄ちゃんが戻ってきたみたいね。お話ししてくれてありがとう」
     老婦人がおっとりとした声で言う。
    「こちらこそ、お話しできて楽しかったです」
     作り物の声でルチアーノも答える。なんだか、不思議な感じだった。
     笑顔で老婦人と別れると、小走りに僕の元へと走ってくる。迷うことなく手を取って、にこやかに僕を見上げた。
    「じゃあ、行こうか。お兄ちゃん」
     手を引かれ、境内の外へと出る。本当は僕も焚き火に当たりたかったのだけど、ルチアーノがここから出たがっているようだから、諦めることにした。
     人々の声が遠くなると、彼は笑顔を引っ込めた。面倒くさそうに溜め息をつく。
    「人間って面倒くさいよな。人付き合いとかしてさ」
     あんなににこやかに笑っていたのに、本心はこれなのだ。こんなんじゃ、親しい人なんてできないだろう。
    「人付き合いも、悪いことばかりじゃないんだよ」
     僕が諭すと、ルチアーノは不満げに唇を尖らせる。
    「君が言うと、妙に説得力があるよな」
     彼も、僕の人脈の広さは認めているようだった。少し嬉しくなる。
     手を繋いだまま、次の目的地へと向かった。入り口で予約番号を伝える。
    「寿司って、回転寿司のことかよ」
     店内に入ると、ルチアーノは不満そうにそう言った。
    「一応、高級志向のお店なんだよ。お正月だからね」
    「まぁ、君にしては奮発してるじゃないか。何を頼んでもいいんだよな?」
     楽しそうにメニューを見て、注文を決める。マグロやサーモンなど、定番のメニューを選んでいた。
    「で、君は何を願ったんだよ。初詣の願い事」
     オーダーを済ませると、ルチアーノは僕にそう尋ねた。
    「…………秘密」
     願い事は、人に言わない方がいいという。僕の願い事は大切なことだから、ルチアーノにも言わないつもりだった。
    「教えろよ。人に言えないことでも願ったのかい?」
    「じゃあ、ルチアーノは何を願ったの? 教えてよ」
     聞き返すと、彼は頬を赤く染めた。それだけで、なんとなく内容が察せてしまう。
    「言うわけないだろ!」
    「ほら、お互い様でしょう」
     僕が言うと、彼もしぶしぶ言葉を引っ込めた。ごまかすように流れてきた寿司を取ると、黙って食べ始める。
     ルチアーノには内緒にしているけど、僕が願ったのは、たった一つだけだ。

    ──ルチアーノと、ずっと一緒にいられますように

    ──彼が、もう二度とひとりぼっちにはなりませんように
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