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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチに柔軟ができないことをからかわれるTF主くんの話です。

    ##TF主ルチ

    ストレッチ お風呂から上がると、僕は大きく伸びをした。強張っていた腕の筋肉が、天へと引っ張られて伸びていく。度重なるデュエルで、身体中はバキバキになっている。お風呂のお湯の温かさに触れても、まだ疲労は消えてくれなかった。
     両腕が伸びると、そのままストレッチに入った。酷使した筋肉は、ちゃんとメンテナンスしないと傷んでしまうのだ。デュエリストである以上、身体の健康を保つのも仕事のひとつである。足に手を伸ばすと、ゆっくり全身を解していった。
    「何してるんだよ」
     不意に、背後から声が聞こえてきた。振り返ると、寝間着に身を包んだルチアーノが、呆れ顔でこっちを見ている。阿呆でも見るような顔だった。
    「ストレッチだよ。今日はたくさん身体を動かしたから、筋肉を伸ばしてあげてるんだ」
     僕が答えると、彼はようやく理解した顔をした。にやりと口角を上げると、自信満々な表情を見せる。
    「ストレッチ? ああ、人間が運動の前後にやるあれか。メンテナンスみたいなものらしいな」
    「そうだよ。デュエリストは身体が資本だからね。メンテナンスしてるんだ」
     僕の言葉を聞いて、ルチアーノはにやりと笑う。意地悪を企んでいる時の、少し不穏な笑顔だった。直感的に嫌な予感がしてしまう。
    「ストレッチっていうのは、身体の柔らかさを測るものなんだろう? 君はどれくらいできるんだい?」
    「えっと、それは……」
     そんなことを聞かれると、返答に困ってしまう。僕がしているのは運動前後のメンテナンスとしてのストレッチであって、身体を伸ばすためのストレッチではないのだ。自慢することではないが、身体の固さについてはトップを狙えるレベルだった。
    「なんだよ。ストレッチしてるんだろ? 爪先に触れるくらいはできるんじゃないのか?」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは言葉を続ける。今の反応で、柔軟が苦手なことを察してしまったようだった。おもちゃを見つけたと言わんばかりの笑顔だ。
    「それくらいならできると思うよ。…………たぶん」
    「たぶんってなんだよ。たぶんって」
     ルチアーノにからかわれながら、僕は床に腰を下ろした。両足を揃えると、真っ直ぐに前に伸ばす。身体が固いと言っても、それはシティに引っ越す前の話だ。今の僕は、デュエルとストレッチで身体が鍛えられている。爪先に触れるくらいの柔軟なら、簡単にできると思ったのだ。
     大きく息を吸うと、思いっきり指先を前に出す。真っ直ぐに突き出された指先は、なんとか右足の爪先に触れた。気合いで左腕を伸ばすと、こっちも指先を掴むことができた。
     爪先に触れると、僕はすぐに手を離した。膝の裏が痛くて、長くは触っていられなかったのだ。足を曲げる僕を見て、ルチアーノはくすくすと笑った。
    「なんだよ。それだけなのか? 言うほど大したことないじゃないか」
    「別に、できるなんて言ってなかったよ。ルチアーノは意地悪だなぁ」
    「毎日ストレッチしてるなら、もっと柔らかくなってるはずだろ?」
    「僕がやってるのは運動のためのストレッチで、柔軟のためじゃないんだよ。もう、そこまで言うなら、ルチアーノもやってよ」
     勢いのままに言うと、彼はにやりと口角を上げた。きひひと甲高い声で笑うと、自信満々に宣言する。
    「ひひっ。見て驚くなよ」
     そう言うと、彼はその場に腰を下ろした。足を真っ直ぐに伸ばすと、両腕を前へと突き出す。そのまま、予備動作もなしに身体を折り曲げた。
     ルチアーノの両手が、真っ直ぐに前へと伸びていく。小さな手のひらは、余裕で爪先を超えて宙へと浮かび上がった。
    「わっ」
     僕が声を上げると、ルチアーノはいたずらっぽく笑った。
    「こんなこともできるぜ」
     余裕の表情で身体を起こすと、両足を大きく開いて座り直した。上半身を曲げると、床の上に倒していく。柔らかい身体は、隙間なく床に張りついた。
    「すごいね。そんなことして、傷がついたりしないの?」
    「こんなんで故障するような身体じゃないぜ。僕の関節の稼働域は、そこらのロボットよりも広いんだから。未来の技術を舐めるなよ」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは再び身体を起こす。呆然としている僕を見ると、いたずらっぽく笑った。
    「そうだ、君の柔軟の手助けをしてやろうか? 人間っていうのは、背中を押してもらって身体を伸ばすんだろ?」
    「えっ?」
     突然の申し出に、僕は間抜けな声を上げてしまう。何となく嫌な予感がする。おもちゃにされそうな気配だった。
    「だから、僕が手伝ってやるって言ってるんだよ。ありがたく受け入れな」
     僕の返事も聞かずに、ルチアーノは僕の手を引いた。今さら断ることもできないから、仕方なくその場に腰を下ろす。足を開くと、ルチアーノが背中に手を当てた。
    「ほら、身体を倒せよ」
     ルチアーノに囁かれ、僕は身体を前に倒した。彼の手のひらは、少しずつ僕の背中を押していく。心配とは裏腹に、強引な様子はなかった。
    「全然伸びないな。本当に人間なのか?」
    「どういう質問なの? 人間であることと、身体の柔らかさは関係ないんだよ」
    「ふーん。もっと押せば、今よりも柔らかくなるのか?」
     そう言うと、彼は背中を押す手に力を込めた。上半身が押し出されて、関節がキリキリと悲鳴を上げる。痛みを感じて、僕は必死に懇願することになった。
    「痛いよ。押しすぎだって!」
    「これくらいしないと、身体は伸びないだろ。少しは我慢しろよ」
    「折れる、折れるから!」
     どんなに懇願しても、手を離してはくれなかった。くすくすと笑いながら、思いっきり僕の背中を押している。明らかにからかっている様子だった。
    「離してよ。もしかして、ちょっと面白がってない?」
    「ちょっとじゃないぜ。こんなに面白いことはないんだから」
    「意地悪!」
     五分ほどすると、ようやく手を離してもらえた。痛みから解放され、床の上に身体を横たえる。関節がキリキリと痛んで、起き上がることすらできなかった。
    「何やってるんだよ」
     真上から、ルチアーノの声が聞こえてくる。倒れたまま視線を向けると、呆れ顔をした男の子の姿が見えた。
    「ルチアーノが無理させるからでしょ。痛いって言ってたのに」
    「それは、君の身体を伸ばしてあげようと思ってのことだぜ。感謝しなよ」
     尊大な態度で、ルチアーノは言葉を続ける。善意のように振る舞っているが、僕をからかっているのが見え見えだった。
    「僕は、そんなこと頼んでないよ。……本当に意地悪なんだから」
     軽口を交わしているうちに、関節の痛みは弱まっていった。恐る恐る身体を伸ばしてから、ゆっくりと立ち上がる。たったこれだけのことなのに、身体が熱を持って暖かかった。
    「明日も練習に付き合ってやるからな。楽しみにしてろよ」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは僕に言う。その言葉は、僕には悪魔の囁きのように聞こえたのだった。
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