狐の嫁入り 喉が渇いた。くら、と回りそうになる視界をどうにか抑えてケタンは大地に立つ。皆少しでも渇きを抑えるためにか室内に篭っており、視線は感じられない。
「もったいないな。あの舞踏大会での実質優勝者のダンスが見れるっていうのに」
ケタンがそう言うと、隣でエミドゥが「はは」と短く笑った。エミドゥも長い日照りのせいで相当参っているのか表情に疲れが見える。
干ばつとくれば雨乞いの儀式は欠かせない。この国では雨乞いにも決まったダンスがある。そういった儀式は由緒ある家系の、富裕層の人間がやるものだが今回はあの日の舞踏大会で実質の優勝を果たしたエミドゥに白羽の矢が立ったようだ。
しかし雨乞いの儀式も一人でこなせるものではない。共に舞う人間として、エミドゥはザキレトかケタンをと指名した。それをザキレトが「めんどくせえ」の一言で済ませたから、ケタンが隣に立つことになった。
くらくらする。それでも踊らねばならない。ああ、と空を睨みつける。雲一つない快晴であった。
「それにしても……本当に喉が渇いた」
エミドゥが呟く。
「主役がそんなんじゃ雨乞いも何もないな。せめて唾液でも出れば多少は癒えるか」
「唾液の出そうなこと……」
「……キスでもしてみるか?」
エミドゥとケタンはそういう仲だったから、この申し出だってなんらおかしいことではない。エミドゥも「言ったな?」とにたり笑って、ケタンの体を攫った。