配信者観音坂独歩には熱狂的なファンがいる「は、配信ん!??」
今日の晩飯はナポリタン。ぐるぐるとフォークに巻いたそれを大口開けて咀嚼きた後俺は素っ頓狂な声を返した。
「そー!独歩もやってみよーぜ!」
太陽の下で輝く宝石のような笑顔でとんでもない事を口走っているこいつは伊弉冉一二三、俺の幼なじみだ。
とある事が原因で女性が苦手な彼だが、俺と同居している。「どっぽちんは女っていうか俺っちの親友じゃん?だからだいじょーび!」なんて笑う彼の言葉に「それってもしかしなくても女っぽさが皆無だからか…?」とちょっと凹んだのは内緒だ。…まあ、事実だし。
「嫌だ。というかなんで突然配信なんだ」
「えー断んの早え~。んー、独歩ちん最近ストレスがすげぇって言ってたじゃん?」
「ああ言ったな。…最近といわず常にストレスには晒されているが…」
「んじゃストレス発散しなきゃじゃん?」
「…まあ、そうだな」
「そ!だから配信!」
「意味がわからんが!?」
ばん!思わず机を叩いてしまった。こいつはいつも突然とんでもない事を言ったりやったりしてくるが(そしてそのせいで俺が被害を食らってばかり…あああああなんで俺ばっかり)、にしても今日のこの提案はなんなんだ。
「まーまー落ち着けってどぽちん~。お客さんで配信者やってる人がいてさ~。顔も見せてないし名前も全然違う名前でただ日常の出来事を話してるだけなんだけど自分の事を知らない人達が共感してくれたり励ましてくれて楽しいって話を聞いたんよ。で、顔出ししねーなら独歩も同じよーに吐き出したらストレス発散になんじゃね!?と思ったんよな。だから、やってみねえ?」
「そういう前置きがあったなら先に話せ」
「にゃはは、メンゴメンゴ!で、どーする?やってみる?」
「……」
顔出しもせず名前も伏せて、ただ日常の出来事を呟くだけ…。俺の場合ほぼ会社(主にハゲ課長)への愚痴になるだろうけど、そんな配信聞いても面白いか…?
「別に収益化狙うとか有名になってやる~!ってつもりでやる訳じゃねーし、気楽に始めてもいんじゃね?ほら独歩ちん休みの日も家に引きこもってばっかだしさー、たまには違う事してみんのも悪くないって」
と、一二三に背中を押された俺はひっそりと配信者デビューする事になった。
的なところから始まる🐴👔♀話。
配信始めて初日は閲覧者が一人(一二三)で、なんだこれいつもの家と変わらないじゃないかと笑いつつ「こういうのも面白いかもしれないな」とその日以降定期的に配信するようになる独歩♀。
初日はハゲの愚痴を話してたんだけど二回目は閲覧者が一人増えてて、「ひ、一二三が二人に…!?ってそんな訳ないよな。誰か知らない人が見てくれてる…?」知らない人に向けてハゲの愚痴なんて話しても申し訳ないし、な、なにか話すこと…あ!
「そ、そういえば今日仕事終わりに道を歩いてましたら端に花が咲いてまして。こんな人通りの多いいつ踏まれるか分からないような場所でも頑張って咲いてるんだなぁと思うとちょっとぐっときちゃいまして。俺も頑張らないとなって思ったんです。…って、地面の花に励まされるなんて変ですよね」
あはは、と照れ笑いする独歩♀だけどそこにすぐコメントが飛んでくる。
「そんな事ない。頑張ってる」と書かれたコメント見てじーんとした独歩♀、「い、今コメントくれた方ありがとうございますっ!こ、こんな根暗なOLの何の面白みもない配信を見てくれて励ましてくれて…嬉しいですっ!」
その日から時間に余裕が出来たら配信するようになった独歩♀。閲覧者は相変わらず一桁だし話す内容も「今日はコンビニで鮭おにぎりを買ったんです」とか「天気が良かったんで空見上げて歩いてたら子どもに変な人がいるって指さされました…」とか取り留めのない内容なんだけど、初めてコメントをくれた人が絶対何かしら励ますようなコメントをくれて、それを見るのが楽しみになってる独歩♀。
ある夜一二三とご飯を食べながら
「そういえば最近俺の配信に良くコメントをくれる人がいるんだ」
「へ~!良かったじゃん独歩!どんなコメントなん?」
「ん…なんて事はない一言なんだけどさ「今日もお疲れ様」とか「明日も頑張れ」とかそういうのなんだけどなんだか凄くほっとするっていうか…ああ、この人は優しい人なんだろうなって思えるっていうかさ」
「いいリスナーじゃん!」
「ああ。…アイコンは骸骨でちょっと怖いんだけどな」
なんて話をする独歩♀。あの骸骨のアイコンの人、どんな人なんだろうなぁ…と思いながら。
「っくし!」
「む、風邪か左馬刻。風邪なら今から滋養のあるものを作って…」
「風邪じゃねェから大丈夫だ理鶯!…多分誰かが噂してンだろ」
「悪い噂じゃないといいな?若頭」
「うっせぇウサ公」