吸っちゃだめです!「どうしても駄目…ですか?」
正座しながら彼女を上目遣いで見詰める。腕を組んで口をへの字にしながら断固聞きません!といった顔で立っていた観音坂さんは、俺のそんな表情にぐっと来たようだ。
「うっ…」
相手が俺の顔に弱い事は初めて会った時から分かっていた。笑顔を見せる度「ま、眩しいっ!」と目を背けられたり何なら真顔で見詰めるだけでも赤面してくれる。
可愛いかわいい俺の恋人。
俺と観音坂さんは少し前から正式にお付き合いをしている。ちょっと前までは利害の一致で傍にいただけだったんだが、俺がまんまと彼女に嵌ってしまった。
吸血鬼が人間に恋するなんて笑うだろうか。心の端で受け入れてもらえないかもしれないという小さな恐怖を抱えながら伝えた想いを、彼女はその笑顔で受け止めてくれた。
そんなこんなで異種族カップルが誕生したという訳だ。まあ、人間と付き合う吸血鬼も昨今は増えているんだが。
さて、そんな最愛の彼女と俺は今、とある話し合いをしている。
いや、話し合いというか最早お願いだ。俺から彼女へのお願い。けど彼女は俺の願いを聞いてはくれなくて、今まさに泣き落とし作戦に移行しようとしているところだ。
「そ、そんな顔しても駄目なものはだめですっ」
…っち、なかなか意志が固い。
「ふぅ、分かりました。これだけ頼んでも駄目という事は折れる気はないのでしょう?諦めますよ」
肩を竦め、息を吐き出す。参りましたと体で表現する俺の姿に、観音坂さんは「本当ですか?」と問い掛けてきた。
「そ、そうやって油断させて後ろからグサッとやる気なんじゃ…」
「ただの話し合いが何故突然サスペンスになるんですか…。本当に諦めますよ。嫌がる恋人に無理強いしたくはありませんし」
「…それは、良かったです…」
胸に手を当てほ、と息を吐く観音坂さん。そんな彼女の手を取り甲へキスを落としながら「せめて理由を聞いても?」と投げた。
「セックスしながら血を吸われるのが嫌だからやめて欲しいって…何故ですか?噛まれるのが痛かった?」
「そ、そうじゃなくて…!………笑いませんか?」
「ええ、我が先祖に誓っても笑いませんよ」
正直なところ、俺としては残念で仕方なかった。
何故ならただでさえ美味い彼女の血は、快楽に酔っている最中更に美味くなるからだ。
(あんな甘美な食事、この世界中どれだけ探しても見つかる訳がない)
あくまで吸うのは少量だ。彼女に負担のない程度。だがその少量がまたいい。彼女を突き上げながらゆっくりと喉を通っていく血の味…思い出しただけで堪らない。
「…お、思い出しちゃうから…」
「思い出す…?何を」
「え、えっちの最中に血を飲まれると、普段の吸血の時もそれを思い出して恥ずかしくなっちゃうから…だから駄目ですっ!」
「は」
「は、恥ずかしくなるっていうか最中を思い出していたたまれなくなるというか…それにちょっと気持ち良くなっちゃうし、変な気分になっちゃうんですよ…!そりゃ入間さんは食事のつもりかもしれませんけど、私からすれば好きな人に触られながら血を吸われるなんてどきどきしかしませんしっ!し、心臓に悪いんですよ…?って入間さん、なに」
彼女の両肩へ手を触れた。俺としては極力優しく微笑んだつもりだが、何故か彼女の顔は引き攣ってる。
「い、入間さん!?どこ連れてくんですか!?そっちは寝室…ま、待って!待ってください!まだお昼ですよ!?そんな、なんで脱がそうと…っあ!だ、だめ、だめです…っ」
こうして今日も、俺は彼女の血と快楽を頂戴する。