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    Lac

    @Sirius_0726

    レトソティの絵と文章の練習中。

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    Lac

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    各ルートのベレトとソティスの日常話詰め。
    3.翠風+α年後、少し遅いセテスとフレンとソティスの目覚めを待つベレトのトリオエンドのif話。

    翠風が止んだら「きょうだい。あんたは、」


     沢山の子孫達に囲まれて、実にクロードらしい大往生だったと思う。憎たらしい程に眩しい笑顔で、良い人生だったと語るきょうだいの笑い皺が濃く残る顔が今も網膜に焼き付いている。

    「行くのか?」
    「ああ、世界をこの足で見て回りたくてなって。」
     豪奢な金の装飾と清廉な白装束を脱ぎ捨て着なれた黒衣を身に纏った所で、背にかけられたセテスの言葉に答える。何十年とあったこの声を聞くのも最後になるだろうか。
    「ねえ先生。その旅の仲間に、私も加えてくれませんこと?」
    「フレン?」
     思わぬ提案に瞼を瞬かせる。生徒も仲間たちも皆亡くなり先生と呼ばれる事も無くなったと思っていたが、まだフレンが残っていたか。
    「セテスが反対するだろうし、自分もたまには帰って来るから。フレンはここで、」
    「私も前々から考えていたことなんだ。人と人が心で触れ合い繋がるこの世に、私達眷属はもう必要無いのではないのかとな。」
    「…。」
    「ベレト。君さえ良ければ三人で世界を見て周るのも悪くは無いんじゃないか。」
    「それに先生が居てくれれば、私が長い眠りについてもお父様も寂しくないでしょう?」
    「おお、私の心配をしてくれていたのかフレン」
     にこりと花の様に笑うフレンに、セテスが感極まった様に声を上げる。その姿を横目で見ながら手荷物の整理を続けた。

    「…レアが生きていればまた話は違っただろうが、セイロス教のトップが揃って姿を消すのは良くないだろう。」
    「そのトップにだけは言われたくは無い言葉だな。それに、君はもうここに帰ってくる気は無いんだろう?」
    「…お見通しと言う事か。」
     こちらをじっと見据える真摯な眼差しに、手を止め思わず小さなため息を吐いた。
     今のフォドラに生まれ育ち培った信仰は有れど、その神が在る必要は無い。生徒達は皆寿命で亡くなり最後の一人も居なくなってしまってから、ずっと自分の背を押してくれていた荒々しくも優しい翠風が途絶えてしまった様な、そんな気がしていた。

    「いっその事、フレンの様に親子に扮するのはどうだ。」
    「…セテス、貴方はフレンの父親だ。そして自分は同胞と言えど他人同士。」
    「ああ、その通りだ。」
    「自分にとっての父親は、これまでもこれからも1人だけだ。」
     だから自分に旅の連れは必要ないのだと、そう続けようとしたベレトの声を遮りセテスが名案とばかりに手を打ち鳴らした。

    「それならば、私を兄と呼べば良いな。」
    「は?」
    「セテスお父様にベレトお兄様ですわね!」
     フレンも手を叩いて瞳を星の様に輝かせる。機嫌が良いのか軽やかなステップさえ踏む少女の姿に脱力し、ベレトは思わず手を額に当てて項垂れた。
    「…。」
    「どうした?」
    「……今、少しだけ実の娘に自分を兄と呼ばせていた男の気持ちが分かったというか、なんというか。」
    「…おい、それはどう言う事だ。」
    「貴方が一番分かっているのでは?」
    「でも血の繋がりで言えば、先生が男性でも私達のお母様とも言えますわね?」
    「フッ。ベレトお母様、な。」
    「…止めてくれ。フレンならともかく、セテスに言われると鳥肌が立つ。」

     青い顔で腕をさするベレトの行動に、眉を顰めたセテスが距離を詰める。叱責を受ける際に見慣れた翠が目に入らぬ様、そろりと視線を逸らした。
    「ベレト。前々から思っていたが、君は私に対して失礼ではないか?」
    「そんな事はありませんよ、セテス殿。私は生きとし生ける全ての者の味方です。」
    「…陛下…」
    「それくらい、仲が良いと言う事ですわ!ね、お兄様!!」
    「あ、」
     気が付けば纏めて君とておいた荷物をセテスに持ち去られ、フレンの手元には着慣れた黒の外套と、自分の手には金鹿のブレスレットだけが残されていた。

    「何をぼうっとしている、さっさと旅の支度をするぞ。」
    「お父様はお魚とお肉、持っていくなら何方の乾物が良いと思います?」
    「そうだな…今回の旅は若い荷物持ちが居るんだから、店で魚の乾物を沢山仕入れて行こうか。」
    「まっ!素敵ですわね!!」
    去りゆく二人の背中を呆然と見つめながら、ポツリと思わず独りごちた。
    「…敵わないな。」

     ジェラルトにソティス、そして金鹿の生徒達。ずっと大切にしたいと願っていた思い出が一つまた一つと減っていく事を恐ろしく思い、その悲しさに耐え兼ねた自分の体が動かなくなる前にと全ての始まりとなったこのガルグマクに場に置いていくつもりだった。
     全て無くして心も体も身軽になれば、風が無くとも自分は昔の様に一人でまた歩いていけるだとそう信じていたのだ。
    (君の言っていた通り、自身で思っていたよりずっと自分は弱かったみたいだよ。きょうだい。)
     おもむろに腕を上げて光の元へとかざす。糸が切れては修復を繰り返していたブレスレットは、不恰好でもあの頃の大切な思い出を表す様で気が付けば口元に笑みが浮かんでいた。

    (ソティス、胸を張って君ともう一度会えるその日まで。もう少しだけこの力を貸していてくれるか。)
     胸元にそっと手を当てたまま腰に携えた天帝の剣に触れると、ドクンドクンと聞こえない筈の拍動が返事をする様に音を立てている様に感じられた。
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