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    Lac

    @Sirius_0726

    レトソティの絵と文章の練習中。

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    Lac

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    各ルートのベレトとソティスの日常話詰め。
    1.アスク王国で菓子作りをする、気まぐれな魔女ソティスと従者の悪魔ベレトのとある収穫祭での話。

    湯気ごしの幸福「甘い香りに誘われて来てみれば、今回は随分と凝った菓子を作っておるようじゃな?」
    「ああ、これはパンプキンパイの底に仕込む林檎のコンポートだよ。南瓜と林檎は相性が良いのだと、食堂に居た料理上手な青年に教えられて。」
    「それは良い事じゃな。どれ、わしも手伝おう。」

     頭ひとつ分低い所にある緑の髪の少女、ソティスが自信満々な様子で隣へと並び立つ。ベレトは予備の腰エプロンを手渡しながらも、手慣れたソティスの様子に小さく首を傾げていた。

    「焼き菓子の作り方を知っているのか?」
    「どれだけわしが、おぬしの側で手順を見てきたと思う。先日焼いていたアップルパイの応用じゃろ?」
    「それもそうか、ありがとうソティス。」
    「なに、報酬として一切れは貰うがのう。」

     タルト生地用にと潰していたクッキーの残りを一枚口に運ぶと、カラカラと楽しげにソティスが笑った。



     ベレトが父親の傭兵団に所属していた頃、食事作り要員として野菜の皮むきや肉の下処理に駆り出されていた事が多々ある。しかし食事とは体を動かす為の必要最低限の行為であり、同年代の他者よりもずっと感情の変化に疎い青年にとってはそれ以上の感情が表れる事も無かった。

     しかし士官学校の教師となり、生徒達と親睦を深める為に始めた茶会で初めての壁にぶつかってしまった。普段から耐久性と安価な値段から愛用していた鉄の剣よりもずっと高い、商人が持ってくる趣向品の値段だ。
     必要最低限の金銭以外は団長であるジェラルトに預けていた為、茶葉を購入する事は出来ても貴族の子女等に出せる様な茶菓子を用意する余裕はとても無かった。
     悩んだ末に食堂の料理長に相談した所、茶菓子は他で購入するよりも自分で作った方が安く済むと言われ、書庫で借りたレシピ本を読みながら隣であれこれ指示をするソティスと共に初めて作った菓子が、少し焦げた形の不恰好なクッキーだったのだ。

     ひと段落を終え備え付けの椅子にベレトが座ると、ソティスは緑の目を輝かせてオーブンの中身を覗き込んでいた。

    「おお、中々良い出来ではないか。完成が楽しみじゃな!」
    「焼き上がったら、菓子に合う茶葉も用意しよう。ベルガモットティー、カミツレの花茶、東方の着香茶、セイロスティー…どれが良いか。」

     タルト生地へ均等に並べられた林檎と南瓜の焼ける香ばしい香りに、嬉しそうな声が上がる。
    (あの頃に比べれば、自分もソティスも菓子作りの腕が多少はマシになったのではないだろうか。)



    「折角の収穫祭じゃ、竜人の皆も招いて茶会を開くのも良いのではないか?前に焼き菓子をやった赤紫髪の娘がおったろう。」
    「ああ、確かファと言ったか。」

     頭に竜人の少女が思い浮かぶ。以前、腹を空かせていると言うので茶会で余った焼き菓子の小袋を渡した所、瞳を輝かせて"イドゥンお姉ちゃんと一緒に食べるね、美味しいお菓子をありがとうお兄ちゃん!"と向日葵の花が咲く様な明るい笑顔でお礼を言われた事を覚えている。
    「うん、そうしようか。」


    「しかしこの特務機関とやらで渡された支度金を、まず食材で消費するとはおぬしらしいのう。」
    「ソティスこそ、このアスクに来てから随分と食欲がある様だが体に異常は無いのか?」
    「そう心配せずとも問題ない。この仮初の体を維持するのに、人より多く食物を必要とするだけじゃ。」
    「そうか。」
    「食べる事は生きる事じゃ。何より、食べるならば美味い物を沢山食べたくなるのは自然の道理じゃろうて。なあ?」
     そう同意を求める様に伸ばされた小さな手に、余りのクッキーをまた一つ乗せる。生きる為にする食事ではなく、楽しむ為に行う茶会。それらをベレトに教えてくれたのは、他でも無いこの不思議な少女と生徒達だった。

    チーン
    食堂の自慢らしい魔道式オーブンが、パンプキンパイの焼き上がりを告げる音を鳴らす。置き場を確保して借りたミトンを掴み上げると、横でニコニコと楽しげに笑うソティスと目があった。
    「…何かあった?」
    「いや。なんとも、良い顔をしておるなと思っただけじゃよ。それよりも早くオーブンから出さねば折角のパイが焦げてしまうぞ。」
    「?そうか。」

     取り出したパイの粗熱を覚ます間に、アスク王国の王女だと名乗る少女から貰った包装用の小包を手元に置く。色とりどりの色彩から赤と青と黄色と紫色の線が入ったそれを選び出すベレトの口元には、優しい笑みが浮かんでいた。
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