トナカイと七面鳥「ちゅんたぁ!ちゅんたぁ!」
夜中、隣で寝ていた人が突然喚いた。
「どうしました?」
うなされて、泣いている。俺を呼んでいる?探している?
「ちゅん、ちゅんた…」
ぐす。嗚咽が漏れる。
「高人さん。俺はここです。大丈夫。もう大丈夫だから。」
薄目を開けてこちらを認識したのを確認し、抱き起こした。背中をさすってあげると、両手で背中を掴んで、胸に顔を埋めた。
「よかった。ちゅんた。よかった。」
「怖い夢を見た」
漸く泣き止んだ人に、人肌に温めたホットミルクを手渡すと、両手でカップを包み持ちミルクの波をじっと眺めてから、ゆっくりと口に運んだ。一口飲んで、ほぅと息をつく。
「七面鳥だったんだ」
はい?
「俺とお前は、七面鳥で、お前は先に売られていった」
はあ。
「俺は『待ってろよ俺が必ず買い戻してやるからな』って言って」
うん。
「街頭で、モノマネとかやって日銭を稼いで」
はい。
「目標達成したんだけど、もうお前はオーブンの中にいて…」
じわ。思い出したのかまた涙が滲んだ。
大きな瞳からポロポロ、宝石みたいな雫が溢れる。
俺を思って泣いてくれているのが、この人を悲しみから救いたいとは思うけれど、ずっと見ていたい程には嬉しかった。
「大丈夫です。俺はここにいますから」
溢れた涙を舐め取った。潤んだ瞳が、まだ不安げに見上げてくる。
「じゃあ、こうしましょう」
『別の動物になって、俺と楽しい思い出を作りませんか?』
高人さんは、きょとんとした表情で、こくと頷いた。
「で、ナンダコレは?」
「高人さん!なんですか!その可愛さは!」
自作のトナカイパーカーを身に着けた高人さんの予想以上の可愛さに、思わず叫んでしまった。太腿が半分程露出した裾が気になるらしくらしく、両足を擦り合わせ、手で引っ張っている。
「フードちゃんとかぶって!写真、いいですよね⁉ ツリーの前でお願い致します。あ、後ろ姿!尻尾を撮りたいので、見返りお願いできますか⁉」
俺はサンタになった。お揃いのトナカイも作ってあるのだが、二人同じ動物じゃあ、また嫌な夢になるかもしれないから。
気分を変えたかったのか、高人さんはいつになく素直に撮影に付き合ってくれて、コレクションが沢山増えた。我ながら良く撮れたツーショット写真は、リビングに飾ったら怒られるだろうか?
「次は、四つん這いになって…」
そこで遂に、
「いい加減にしろ」
と叩かれた。元気は戻ったようだ。よかった。
「もう着替える」
ぷんすか拗ねる愛しい人の手首を掴んで引き寄せた。
「待って」
腰に手を回し、ぐっと抱き締める。
「脱ぐのは一緒に…」
赤い顔で見上げてくるその眼にOKのサインを見た。
明日のディナーに用意したターキーは、焼いてもいいだろうか?
End.