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    しろきち

    @s_rsk2040y

    YGO新参、5dsのジャックロ・ブル遊、zexalの三兄弟すき。

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    しろきち

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    アークライト兄弟の話(144話まで視聴)

    #三兄弟
    threeBrothers

     濃いめに淹れた紅茶と温めたカップ。シュガーポットとバターたっぷりのビスケットは、少しでもエネルギーを摂ってほしいという願いだと、今の兄は気づくだろうか。
     Ⅲは深呼吸を一つしてから重い扉をノックした。


    「お体に障りますよ」とか「無理をしないでください」とか、言葉にできる立場ではない。
     ボクがもっと、Ⅳ兄さまやカイトのように一人で立てるほど強ければ、きっと結果は変わっていただろうから。遊馬に投げつけた心ない言葉は自分に言いたかったことなのかもしれないと気づいたのは、三人で家に帰ってきてからだ。
     Ⅳ兄さまは相変わらず少し不機嫌で、けれどもV兄さまにつっかかる頻度が減った。V兄さまはまったくいつも通りだ。家長として厳格に、兄として優しく、必要があればⅣ兄さまをたしなめる。
     変わったことといえば研究室にこもってすることくらいで、それまで未来のために使っていた時間を過去にも少し割くようになっていた。モニターにはオービタル7のカメラから転送されていたカイトの最後のデュエルが映し出され、兄さまの横顔を青く照らしている。劣化しないデータが兄さまを削っているように見えて、ボクはデスクの隙間にトレイを押し込んだ。
    「兄さま、お砂糖はどのくらい?」
    「ああ……入れなくていい」
     要望を無視してスプーン三杯を溶かして渡すと、兄さまは特に咎めることもなくカップに口をつけた。
    「ちゃんとお菓子も食べてくださいね。ボクもさっきお先にいただいたんですけど、すごくおいしかったですよ」
    「それは楽しみだ」
     本当に? モニターの映像はやや乱れ、オービタル7のエネルギーが尽きかけていることを知らせる警告が入っている。兄さまには三枚並んだビスケットのことなんて見えていないし、カップから湯気が立たなくなっていることも気づいていない。
     遊馬は帰ってきた。カイトは帰ってこなかった。V兄さまも共に行っていれば、みんな帰ってきただろう。兄さまはカイトの計画を聞いて実行のために力を貸した──シャトルの開発と、バリアンの足止めに。どちらもこなせないボクとは雲泥の差だ。
     情けなくて、過去に戻ってどうにかできないかと唇を噛む。目の前に映し出された恐ろしいドラゴンのように、時を操れたら。けれどもデュエル前に戻る程度ではまったく足りず、少なくとも家族が再び会えた頃、遊馬に出会えた頃くらいまで遡る必要があるだろう。夢想にも程がある。
    「兄さま」
     それではボクは、兄さまのために何ができるのか? ちっぽけで兄の手を放せず、背中を押してあげられなかったボクは。
     声が震えないように、モニターの音声に掻き消されないように、兄さまにもらった紋章の腕輪をきつく握る。
    「迎えに行きますか?」
     こんな手のかかる弟から解放してあげたい。それがボクができる、大好きな兄への精一杯だ。
     珍しく、毅然とした即答がなく、首肯を見逃しただろうかと横顔を窺う。けれどもボクに見えたのは青色の両目で、次いで少し強めに頭を撫でられた。
    「お前が一人でやれると言い張っても、仮にその力があっても、私はここに残っただろう」
    「……それでは」
    「私はカイトを育てきった。いつまでも師匠面をするものではないし、私の大切なものはカイトだけではないからね」
     なにより、と柔和に目を細めて言う。お前たちが守ってくれたものを、私にも守らせてくれ。
     堪えていた息が漏れた。
     父さまばかりを追いかけていた眼差しに、いま自分が映っている。きっとここにはⅣ兄さまも、遊馬も、その仲間たちも映ることができる。父さまが、カイトにすげ変わったわけではない。
    「だから迎えには行かない。それに、彼が守ったものも見届けなくてはな」
    「……遊馬?」
     彼に何があったのか、と尋ねるのと同時にせわしない足音が聞こえてきた。ボクたち以外にこの広い家にいるのは一人だけだ。
    「おい、何か……何してんだ?」
     ボクたちと揃いの腕輪を光らせたⅣ兄さまが、ノックもなしに駆け込んでくる。問いかけの矛先は点灯の理由から目の前のボクとV兄さまの状況に変わり、嫌なものを見たかのように大きな傷ごと顔を歪める。
    「……それ終わったら呼べよ」
    「Ⅳ兄さまも撫でてもらいませんか、久しぶりに」
    「そうだな。ここに並べ、撫でてやろう。ついでにお菓子も食べるといい」
    「ぜってーごめんだ!」
     V兄さまはボクの頭を最後にポンと軽く叩いてから、冷めた紅茶を一口、それからビスケットを一枚取った。残り二枚になった皿をボクとⅣ兄さまに差し出す。モニターの青白い光に照らされているわりに、さっきよりずっとおいしそうだ。
    「兄さま。また今度、デュエルを教えてください。勝てるようになりたいんです。遊馬にも、Ⅳ兄さまにも」
    「……そうか。遊馬は手強いぞ」
    「兄貴、オレが抜けてんだが」
    「お前はチャンピオンになってからあぐらをかいていただろう。これからもⅢに負けないとは言い切れんな」
    「オレだって成長してんだよ。兄貴とも対等に闘えるくらいにな!」
    「勝てるって言葉にできないところがⅣ兄さまですよねー」
     ファンが見れば卒倒しそうな顔で詰め寄ってくる兄をかわし、ボクはV兄さまについて部屋を出た。


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