本当の自分瞼の裏に光を感じ、目を開ける。
徐々にノイズが薄れ、脳に血が巡って行く。
「えーっと…」
俺の1日はいつもここから始まる。
「今日はこれから楽しい事がある?」
…いや、無い。
「じゃあ、昨日は楽しかった?」
…そんな気がする。
「それは何故?」
…思い出せない。
2つの自分を離れさせて行く。
視界に映る世界が徐々に明瞭になり、感じていたノイズも無視出来る程度まで落ち着いた。
…俺、やっぱ昨日なんもしてねーじゃん。
上体を起こすと2つの自分は完全に離れ、そして、自分で無くなった自分は消滅した。
ベッドから足を下ろして座る姿勢になる。
ハッキリとは覚えていないが、昨日もこうしていたような気がする。
日々複雑化して行く社会に順応出来ず、ただいたずらに時間を過ごすだけの自分。
そんな自分が堪らなく嫌いだった。
時計の短針は頂点にある。
外の気配からして昼の12時だろう。
もう誰も何も言わない、期待なんかされない。
それはそれで気が楽だったのは否定しないが、とても客観的に自分を見ようとは思えない。
過去を振り返ると、どれもこれも嫌な記憶ばかりだ。
楽しかった思い出もあったのかもしれないが、全て不快な記憶で塗りつぶされてしまって思い出せない。
世界の解像度が高くなればなるほど、何もかも嫌になってくる。
座った姿勢から身体に力が入らず、倒れるのに身を任せ、再び横になった。
徐々にノイズに包まれて行く。
全身の力が抜け、やがて、2つ目の自分が新たなる世界へと歩みを進め始めた。