Give 'em Hell「悪いな、親友」
かなり飲んだという男はソファの上でだらしなく横たわり、部屋の主からグラスを受け取って、諦めたように笑った。
ところで、こんどはどんなやつとつきあってるんだっけ?ジェイビー・マチャドはさりげなく聞く。
「どんなやつ」は清潔に切りそろえられたストロベリイ・ブロンドと濃い緑の瞳を持つ物凄い美男子で、バーの立ち並ぶ道筋の一角にある瀟洒なカフェレストランで週に三回、朝と夜にアルバイトをしている。笑顔と声が良いとかいう彼目当ての客は引きも切らず、店は彼を手放そうとしない。ところが当の本人は実家に帰って家業を継ぐために来月いっぱいで仕事を辞めるとかで店はこれまでの三倍くらい混んでいる。なにしろ人気メニューのバナナ・スプリットを出すときに脚付きのグラスを絶妙の角度で置くことができるし、気絶するほど美味しいカフェラテを繊細なラテアート付きで用意することのできる数少ない凄腕のギャルソンだとか、なんとか。
ジェイビーはこれらの情報を、目の前の男とはさして仲が良いとも思われない不死鳥〈経由〉で手に入れていたが、酔っぱらいはごく簡単にさあな?とだけ言って会話を打ち切った。
「――かなりいい男だって聞いたけど」
水を向けると、べつにいい男ってかんじでもないけどな、とうつくしい死神はつまらなさそうに言った。
「じゃあお前のいういい男ってどんなのなんだ」
「ルースタ―」
意地悪い気持ちになっての発問に、ちょっとだけ眉を蹙めてジェイク・セレシンは即答した。あいついい男だろ?顔も体も心も、すみずみまで。ちょっとノロマなところはある。でもそんなことは気にならない。ブラッドリー・ブラッドショーは世界の掟だ。
「へえ?」
「なんだよ?」
ふと吐き出した息で、目の前のグラスが曇る。いつのまにやらそんな仲になってたとは、さすが最速の男だな。俺も鼻が高いよ。
「何言ってるんだ?」
切り返しは鼻で笑われた。だいたい俺たちはもういい大人だからな。お前はあのお高いブラッドショー大尉がしがない運び屋なんかを相手にすると思っているのか?お馬鹿さんだな、俺のジェイ。
「誰がお馬鹿さんだよ、オレのジェイ」
もう一度すばやく溜息をついて、ついでにふらつく肩のあたりをやさしく押しながら馬鹿はお前だとコヨーテは思った。それこそ何年も、あれだけべったり絡んでいるくせに。ノロマが聞いて踊りだすぞ。
横暴だなコヨーテ、会議にかけられたいのか?潤んだ瞳で睨みあげてくる迷惑な親友に白いクッションを投げつけて、よき親友は大きく息をついた。おまえらなんか、まとめて地獄に堕ちてしまえばいい。