結局、あの日以来マスターは俯くことが増えてしまった。
あの輝く瞳が見られない事、それを為朝は至極残念だと感じる。
何故だろうかと考え始めるとエラーを繰り返した果てに強制終了に至ってしまい、未だ答えは出ない。
けれど残念だと感じていることは間違いないようだ。見たいと感じていることも。
感じていることは分かるが、何故そう感じるのかが分からない。分からないけれど、そう感じている。
考え始めるとまたエラーを吐き出しそうになった。
そうなる前に、為朝の手がほぼ無意識に伸びて、先を歩くマスターの肩を掴んだ。
「え?」
驚きに声を上げ、振り返るように為朝を見るマスターの瞳はいつもと同じだが、違う。この目ではない。
肩を掴んだまま何も言えずにいると、マスターは心配そうに為朝に声をかけるが、返事がないと分かるとまた俯いてしまう。
こうして俯かれると身長差もあり全く顔が見えなくなる。
笑っているのか泣いているのか、悲しんでいるのか喜んでいるのか、傷ついているのか。
表情から得られる情報は多い。それが無くなり、分からなくなるのが嫌なのだろうか。
分からないのならば、分かるようにすれば良い。
「マスター」
「何?って、えっ!?」
返事も待たずマスターの背と足を支えて抱き上げた。
これならばマスターが俯いていようとも顔が見え、表情も分かる。
マスターは驚きに戸惑いながら為朝に視線を返す。
何かに怯えたようにあちこちに動く焦点の定まらない目、これも違う。
「マスター」
まるで乞うようだと思った。
その声にマスターの目がぴたりと為朝を見て止まる。
一呼吸、後に。
「為朝」
そう花がほころぶように微笑んで名を呼んだ目に、これだと感じた。エラーもない。
自分の中で淀み溜まっていたものな流れていく。
「ああ、そうだ、マスター」
私はそれが欲しかったのだ。
その声にマスターは頬を染めて、より嬉しそうに微笑んだ。