どちらかと言えば、俺の方が朝は弱い。
大抵はシャルルの方が先に起きて朝の準備をしているのだけれど、たまに逆転する日がある。
鳴り出したアラームをすぐ止めて、ボーっとしたままベッドから這い出て洗面所へ向かう。
いくら眠かろうが時間は止まらないし、一限目の講義はなくならない。
とにかく起きなければと、冷たい水で顔を洗っているうちに頭もすっきりと動き出そうとする。
次にキッチンで冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをコップ一杯一気に飲むと、ぼんやりとした靄は消えていった。
「あれ?」
そこでやっとシャルルが起きていない事に気付く。
朝ご飯の匂いがなくて静かなキッチンは何となく冷たい。
それがあまり好きじゃなくて、リビングのカーテンを開けてテレビをつける。部屋は明るくなり、朝のニュースを読み上げるアナウンサーの声が響き始めた。
しんみりした気分を吹き飛ばして、今度は朝ごはんを作ることにする。
とはいえいつもはシャルルがご飯を用意してくれていることに甘えていたから簡単な物しか作る時間はない。
トースターに食パンを二枚放り込んで、フライパンでウインナーを焼きながら目玉焼きを作ったり、レタスをちぎって皿に乗せたり。
とりあえず慌ただしくも一通りできたが、シャルルは起きてこない。
シャルルの部屋をそっと覗く。
ベッドの上の山は静かなまま動く様子はない。
「シャルル―、朝だよー」
入り口で声をかけたくらいでは起きそうになく、部屋に入ってベッドの横に座り込む。
あまり見るチャンスのない寝顔は、やっぱり整っているけれどいつもより幼く見えて可愛い。
悪戯心が湧いて頬をつついてみると、嫌そうに眉を寄せながら顔を背けようとする。
「シャルルー。今日はお寝坊の日でいいの?」
「んー、ねぼう……」
寝言のような声で呟いたと思ったら、突然カッと目が開く。
「寝坊!?」
勢いよく跳ねるように体を起こすのには驚いた。
ぽかんと見ていると、シャルルは俺を見て時計を見て、そして状況を理解して肩を落とした。
「……おはよう」
いつもより少し起きるのが遅くなっただけで大きな失敗をしたかのように後悔しているシャルルに、基本的にこの時間に起きている俺はムッとしてしまう。
良いじゃないか。予定に遅れたわけでもないし、たまに寝過ごすくらい。
朝からそんなんじゃ一日面白くないだろう。
「おはよう!」
そう言って頬にキスを一つ。
今度はシャルルが驚いてぽかんと俺を見ている。さっきまでの後悔は吹き飛んだだろう。
「朝ごはん出来てるよ」
何でもない事のように言って部屋を出る。
パタンと扉を閉じると、部屋の中ではどたばたと大きな物音とどこかにぶつけたのかシャルルの苦痛の声が聞こえた。
とはいえ俺もシャルルが部屋を出るまでに赤くなった顔を戻しておかなければいけない。