「マスター、なあ、マスター」
遠くから小さく聞こえていた声が徐々に近づいてきてはっきりと聞こえるようになる。
シャルルの声だ。そう気づくと、水中から浮かび上がるような感覚を覚えて、ぱっと目が覚めた。
何度かぱちぱちとまばたきしていると、ひょこっとシャルルの姿が視界に入ってくる。
「……シャルル?」
「起きたかい、マスター?」
「うん。……えっと」
ゆっくりと体を起こしながら時計を見れば深夜の2時過ぎを指していて、寝起きの頭はろくに回らず、何でこんな時間に起こされたのか分からなくてぽかんと呆けてシャルルを見てしまった。
シャルルはそんな俺の手を引いてベッドから連れ出すと、そのまま部屋を出て行く。
「どこ行くの?」
誰もいない廊下は薄暗くて静かだ。俺とシャルルの足音だけがはっきりと響いている。
行き先が分からずこのままついて行っていいのか不安になってくる。
「こっちこっち」
何も分からないまま、しばらく歩いてたどり着いたのは食堂。こそこそと中に入って行くとシャルルは調理場に入って食材を置いている棚を探し始めた。
後ろからそっと覗けば、缶詰や乾物にレトルトパウチなどの保存食が詰まっている。
その中から取り出したのはカルデア製のカップラーメン。
誰が作ったのかは知らないけれど、いつからか購買で販売されるようになり、非常食としても採用されたそれを2つシャルルは両手に持ってこっちを見た。
「え?カップ麺食べたかったの?」
「マスターが前に言ってただろ、夜中にこっそり食べるのは別格だって」
「そりゃ言ったけど」
「ちょうどいいタイミングだったんだ。試そうぜ!」
悪戯っ子のような笑顔で言われると、なんだかだんだんと楽しくなってくる。
珍しい誘いに応えないのももったいない。
「仕方ないなぁ」
そう言いながら薄暗いキッチンの中、こっそりとポットを探し始めた。
さっきまで見ていた悪夢の事はすっかり忘れてしまった。