「シャルルはカッコ良いからね、そりゃ女子もほっとかないって」
教室の隅、窓際の一番後ろとそのひとつ前の席。
振り向いてそう言う笑顔が好きだ。
いいなーと漏らす無邪気な感想に気にしないように適当な返事をする。
好きな相手に、他人からの好意を羨ましがられるのがこんなに苦しいなんて知らなかったんだ。
自分も同じようなことを他人にしてきたのかもしれない。
でもその俺を好きだった相手というのが思いつかず、具体的な顔は浮かばなかった。
そもそも俺のアンタへの感情ぐらい重いものが他にあるんだろうか。
楽しそうに話す横顔が好きだ。
声は聞こえているけれど内容は頭の中を右から左に抜けていく。
気持ちのいい晴れた日の草原に吹く風のような声。
聞いていると気分が良くなってくる。
うん、うんと話を理解できないまま適当な返事をしていると、驚いたように身を乗り出して顔を近づけて来た。
「マジで!?」
何に返事をしたのか分からないが、きらきら輝く目で見ている。
その空を映したような目が好きだ。
「シャルル好きな人いたんだ!」
自分がその相手だなんて欠片も思ってないであろう純粋な驚きの表情に息が詰まりそうになる。
失敗したと後悔したところでどうにもならない。
気にはしているようでもそれ以上聞いてこない事だけが救いだ。
とにかく笑ってごまかしていると、輝いていた目が少しずつ光を失っていく。
すっかり落ち着いたころには笑顔も力なくなって俯いてしまった。
「え、なんだ?調子悪いのか?」
そう聞けば、小さく首を振ってこちらを見る。
ぎこちなく笑顔を作り直して、ぽつりとつぶやいた。
「シャルルといる時間好きだったのに、その人にとられちゃうのかとおもうとなんか寂しくなっちゃって」
ごめんねと謝るのを聞きながら、だったらそう思う理由をもっと考えて俺に向けてくれよと、カッコ悪い事を考えて泣きたくなった。