気付いたのは少し気合を入れた夕飯の準備をしていた時。
シャルルはリビングのソファに座りキッチン側に背を向けながら取り込んだ洗濯物をたたんでいる。
その雰囲気に何となくくすぐったさと幸福感を覚えながら照れ隠しのように何度か鍋をかき混ぜて火を止めた後、次は何をしたらよかっただろうかと考えていると、シャルルが何か言っているのが聞こえて来た。
はっきり聞こえず聞き返そうと思ったけれど、どうも自分に話しかけているのではなさそうで、電話でもしてるのかなとこっそり聞き耳を立ててみる。
「お前も頑張ってんなぁ、えらいぞ!」
誰かを褒めているらしくやっぱり電話かと思ったけれど、両手で洗濯物を持っているし、シャルル以外の声は聞こえない。
不思議に思っているとシャルルの視線の先にはロボット型掃除機があるのに気付いた。
その動きを追いながら「しっかり綺麗になってる」「毎日よくやってるな」と楽しそうに褒める声が聞こえる。
これは掃除機を褒めているのだろうか。
料理をするのも忘れてぽかんとシャルルの様子を眺めていると、やっぱりただの独り言ではなく掃除機を褒めているらしい。
シャルルにとっては機械の動作も褒めるものなのかと思うと胸に温かなものが込み上げてきてふっと笑いが零れそうになる。
思わず感情のままに出てきそうになった言葉を飲み込んでシャルルの様子を眺めてしまった。
そうして掃除機が一通りの掃除を終えてホームへ戻るのを見届けて「しっかり休んで、またよろしくな!」と言った声でやっと我に返る。
慌てて料理の続きを始める。
冷蔵庫から冷やしていたサラダを取り出しているとシャルルがこちらを向いた。
「こっち終わったけど、何か手伝えるかい?」
ソファの背もたれに腕を乗せてそう聞いてくる彼にさっきのようすを思い出してにやけそうになる口元や目元をなんとか誤魔化し、「あとちょっとだから大丈夫だよ」と伝える。
けれどシャルルは納得せず、「じゃ、テーブル拭いて箸とか出しておくな」と動き始めた。
こういう自分でできる事を見つけてやってくれるのはとても嬉しいのだけれど、今は少しだけ大人しく座ってテレビを見ていて欲しいと思う。
一人で落ち着く時間が欲しいのだ。
そうでなければ、この後の食事の最中に思わず「カワイイ」と口を滑らせてしまいそうだった。