オレンジは信頼、絆薔薇の花を渡すのは愛の告白らしい。
教えてくれた庭師は「坊ちゃんならオレンジがきっといい」と刺抜きをしたオレンジの薔薇をくれた。
うちで働く人はみんないい人ばかりだけれど、ちょっと子供扱いが過ぎると思う。
「リツカ」
くるりと振り向いた青い目に射抜かれ、どきどきと胸が大きく跳ねる。
いつも通りにと思っても、呼吸は早くなるし、顔は熱くて、背中側に隠した指先も震えそうになる。
言おうと口を開いて何を言おうとしたのか分からなくなって慌てて閉じて、それじゃダメだと何か言おうとしてやっぱり何を言ったらいいのか分からなくなってまた口を閉じるのを何度か繰り返した。
リツカは呼び止めたのになかなか話を切り出さない俺を不審に思って、「どうしたんですか?」と言いながら近づいてくる。
一歩、一歩、近づいてくるのをやけにゆっくりに感じながら心臓の音を聞く。
リツカがかがんで顔を覗き込もうとより一層近づいたところで、心臓が爆発するんじゃないかと思うほど大きな音がして隠していた手を前に伸ばした。
「……薔薇?」
反射で突き出した手には隠し持っていたオレンジの薔薇があったのを、言われて思い出す。
元よりこれを渡す為に来たのだ。
「リ、ツカに、あげる!」
声は裏返っておかしな発音になったし、顔は鏡を見なくたって分かるくらいに真っ赤だ。
いつも通りに、冷静に、なんて少しも実行できてない。
でも。
「ありがとうございます」
そう言って手を重ねる様にその薔薇を受け取ってくれた立香の笑顔は今まで見た中で一番きれいだった。
ポカンと見惚れてしまって、心臓の音がうるさくて立香がお礼を言ってくれているのが良く聞こえない。
だけど、あの綺麗な笑顔で喜んでくれている事だけはよくわかる。
嬉しい筈なのにぎゅうと締め付けられるくらいに苦しい胸に、なんだか泣きそうになった。