贅沢街はすっかりクリスマス一色。クリスマス商戦で溢れ、夜はイルミネーションが輝いている。
迫ったクリスマスは1週間後で、何故かこの日が誕生日で。仏教用語にもあるくらいこんなにも"因果"と言う単語が似合うのは自分くらいなんじゃなんて思ってしまった。クリスマスが誕生日。誕生日だけど嬉しかった事って昔はなくて。多分初めて嬉しいと思ったのは、中2の時だったかも知れない。
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彼女は目の前で、グレーの毛糸を編んでいる。"初めての編み物"と記された雑誌と睨めっこしながら。そう言えば、11月に入った頃からがずっとしている。
「えーと…ここがこうなって……」
「…」
所々解れてるけれど、そんなのお構い無し。まずは進めている、そんな感じ。マグカップのココアはすっかり冷めてしまって。でも雑誌との睨めっこは集中している。
「あー、なんで?ズレちゃうよー」
「休憩すれば?」
「無理だよ時間ないもん!うえーんもっと早くやれば良かったよー」
何故こうもたかが編み物に必死になるのか。ズレが出るのは、当然解れがあるからじゃないのかとか、編み込んだ場所が間違ってるからじゃないのかとか、正直ツッコミたい所は満載。多分突っ込んだら怒るだろうから、言わないけど。
「これ、何?」
「何って見れば分かるでしょマフラーだよ!」
「マフラー…ね」
「これは練習よ!うー初心者向けの買ったんだけどなぁ…」
練習、時間ない、早めに、総合からして誰かにやるためのなんだろうけど、こんなペースで間に合うんだろうか?
「まだ半分の長さもないじゃん…」
「分かってるわよそんなの!」
雑誌は図解まで付いてるのに何故分からないんだろうって言いたいけれど、言ったら最期になるかもしれない。
「もぉーワンニャーいたらなぁー!教えてもらえそうだったなぁ!せめてあとひと月くらいまで居て欲しかったな」
おにぎり持って救助船助けて、元の両親へ帰せたのは10月くらい。カレンダーはそれからひと月経っている。
誰かあげるつもりの手編み。誰に?
「ソレ、誰にあげるの?」
ボロっと出してしまった。
「えっ…」
「…あ、いや…」
何故か、醜い気持ちになってしまった。こういうのをヤキモチって言うんだろうな。
「…それ、出来たらおれに頂戴」
「えっ」
「おれが、欲しい」
「彷徨?」
「だっておまえは、おれの……」
ガキみたいだ。
「悪い、忘れろ」
「これ、彷徨に、だよ?」
「…え」
「で、でもまだ、暫くかかるから。く、クリスマスまでには頑張る!だから、待ってて!」
そう言って出来上がって来たのは、まだまだ詰めが甘くて、とても外で巻けやしないもの。大粒の滴を零しながら「今度リベンジする!」って言ってたけど、無理に引き取った。初めてくれたプレゼントだったから。
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今年も、その日まであと、1週間。
「彷徨、ごめーん参考書借りていい?」
「参考書?何の?」
「数Ⅲ!もーやだ意味分からない~」
本棚から勝手に出してと言った後、未夢が叫んだ。
「彷徨、来週暇でしょ?ね、クリスマス何が欲しい?」
「はぁ?何急に…」
「ほら、彷徨だって19になるんだよ欲しいものなんか山ほど思いつくじゃない?」
と言うかあと1週間なのに何欲しいってそれ今聞くのか?
「山ほどな程の欲はないんですけど」
「無欲だなぁ。わたしが叶えられる範囲で叶えます!」
「じゃあマフラー」
「マフラー?」
「グレーの」
「グレーのマフラー?そんなんでいいの?」
「だってリベンジもらってないし」
そう言えばあからさまに慌てた。
「い、1週間で出来る訳ないじゃない!」
「バァカ作れって言ってないじゃん!クリスマスグレーのマフラー頂戴」
「…わ、わかった選んでおきます」
コイツから貰えるものは何でも貰いたいから、無欲ではないんだよな。絶対分かってないだろうけれど。
「未夢は何か欲しいのある?おれ何にも考えてなかったからさ」
「うーん…それ1週間前に言う?」
「それはおまえもだろ…」
あぁ、確かにって納得してる。
「でも、わたし彷徨がくれるものなら何でもいいよ!全て全力でいただきます」
「じゃあ、デート、行く?」
「えっ、珍しい彷徨が連れてってくれるの」
「おまえなぁ…誘う予定だったんだよこれでも」
「えーどこに連れてってくれるの?楽しみ~!」
あんまり嬉しそうにするから、こちらも自然と笑えてしまうから不思議なものだ。
「クリスマス、と言うか彷徨の誕生日なのに何かわたし贅沢だなぁ」
(おれも贅沢してるようなもんだ)
何の因果かクリスマス生まれ。それまで楽しかった事はなかったけれど、お世辞にも上手ではないグレーの毛糸マフラーを貰ったあの日から、ずっと贅沢してる気がするんだ。