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    ぎの根

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    POIPOI 87

    ぎの根

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    蜘蛛の糸時空のあきけ。猫で癒されるならケケにはもっと癒されるだろ、というだけの話。いちゃついてるだけ。

     皆外にいたからか、助けたときにはふわふわに見えてもごわついていた毛が、猫借亭にいるうちにきれいになってふわふわになっている。つまり、ここにいる猫たちは、とても触り心地が良いのだ。
    「あー、癒される」
     にゃーん、と喉を鳴らした猫が身を捩って腹を見せてくれたので、すかさず誘いに乗って背中よりもいっそう柔らかい腹の毛に手を突っ込む。
    「ふわふわだね」
     存分に撫でさせてもらった上、冷たい肉球に捕らえられた指先をかぷりと優しく噛まれるサービスを受けるに至っては、顔が緩むのを抑えようがなかった。浮わついた気分とともに、からだの方もポカポカと暖かくなってくる。消耗した体力が、食べなくても回復していく。
    「何でそんなので回復できるんだよ」
    「だってかわいいもん」
     不満げな声を漏らしたKKが、右手から湧き出てぐるぐると渦を巻く。そうっと猫の方を向いた黒い靄は、小さな声でシャッと吠えられ、慌てて暁人の手のなかに引っ込んだ。思わず笑うと、KKがクソッと悪態を吐いた。
    「かわいくねえ」
    「かわいいよ、ねえ」
     敢えてKKが引っ込んだばかりの右手で猫の頭を撫でると、猫はまたニャアと鳴いて嬉しそうに喉を鳴らした。
    「どこがだよ」
     なんだよこの振動、とKKはまだぶつぶつ言っている。
    「回復したいなら食えばいいだろ」
    「お腹空いてないし、ここにいるときくらい癒しも必要だよ」
    「癒し、ねえ」
     撫でられながら、そうだよ、とばかりに暁人の手に頭を擦り付けてきた猫とは対照的に、KKは不満そうだ。猫や犬を撫でる心地好さを知らないなんてもったいない。これ以上の癒しなんて、と考えたところでふと思いついた。
    「そうだね、KKに触れたら、そっちの方が癒しになるかもね」
     KKを撫でてもKKに撫でられても、幸せだろうなあ、なんて、冗談めかして呟くと、KKは猫に触れていることを忘れたかのように一瞬ぶわっと右手から溢れだし、すぐにまたしゅっと引っ込んだ。
    「KK?」
     猫から手を離して、手のひらに浮かんだ亀裂を覗き込むと、亀裂の向こう側がゆらゆらと揺れていた。
    「おれには触れねえだろが」
    「うん、だから触れたら良かったな、てこと」
     苦々しいKKの声に頷いて微笑む。
     暁人から引き剥がされたKKの姿を見ることはできても、手を伸ばせば触れることなくKKをからだの内側に吸収してしまう。ほんとうに、触れたら良かったのに。
     にゃーん、と呼ばれて猫を見ると、撫でていたのとは別の猫が数珠を咥えて座っていた。差し出した右手に、ぽとんと数珠が落とされる。
    「くれるの? ありがとう」
    (お礼だよ。これ、そっちに着けてみて)
    「こっち?」
     いつもふたりだから寂しくないね、と言っていた猫に促され、受け取った数珠を右手首にはめると、びりっと衝撃が右腕にはしり、ぶわりと手のひらの亀裂から黒い靄となったKKが噴き出した。
    「え?」
     KKと引き離されるときと同じ、右半身が引き剥がされるような感覚。ずるりと体の内側から何かが抜け出て、右半分の視界に霞みがかかる。
    「KK!」
     掴まえようとした靄が、握り締めた手のなかで散る。だめだ、離された。
     またか。この祟り場では、階を降りる際にKKと引き離されていることがある。しかし、安全地帯であるはずの猫借亭でまで離されるなんて。
     思わず舌打ちをしながら目の前を睨み付けると、呆然としたKKがそこに立っていた。離されたんじゃ、なかったのか。ほっと安堵の息を吐き、KKに手を伸ばそうとしたところで気づいた。暁人から分離したようだが、いつもと違ってKKの体は透けてはいないし、宙に浮かんでもいない。もしかして、実体化しているのか。
    「え、KK?」
    「あ?」
     驚きながら声をかけると、KKは目を丸くして暁人を見た。右の足先が、確かめるようにとんとんと床を叩いている。もしかして。宙で止めていた手をおずおずと伸ばすと、KKも暁人に向けて手を差し出してきた。指先が触れ、手のひらが重なる。ぎゅっと握り締めると、同じくらいの力で握り返された。乾いた、硬い手のひら。筋張った肌の下に感じる、骨の感触。何より、温かい。
    「さわれる」
    「ああ、そうみたいだな」
     思わずKKの顔を見つめると、KKはひょいと眉を上げて口の端を釣り上げた。いつものように、皮肉の滲んだ表情。けれど、その耳は真っ赤になっている。暁人の視線を感じたのか、表情はそのままに、KKの目だけがうろうろと泳ぐ。どうやら照れている、らしい。にんまりと顔が緩むのを抑えられない。
    「かわいい」
    「何だって?」
     KKが剣呑な目で睨んでくるけれど、そのくらいでは怯まない。だって、KKに触れられるのだ。感触を確かめるように、握り締めたKKの手をぎゅっと掴む。
    「さわれる、ね」
     呟いた声が馬鹿みたいに浮かれているのが自分でもわかったけれど、どうにもならなかった。いつものようにからかわれるかと思ったが、KKは何も言わず、ただふっと微笑んだ。
    「ああ」
     繋いだ手の甲が、指先で撫でられる。慈しむようなその感触と優しい笑みに、今度は暁人が照れる番だった。ぐあ、と一気に血が上る。顔が熱い。KKは暁人を見てきょとんと瞬くと、また元のように意地の悪い笑みを浮かべた。警戒する間もなく、繋いだ手がぐいっと引っ張られる。
    「わっ!?」
    「触ったら癒しになるんだろ?」
    「え」
     体を包む温もりと、耳許で響いた、KKの声。ぱちりと瞬いた目の前には、逞しい肩。KKに、抱き締められている。認識した途端、体がびくりと硬直した。だって、KKが。いや、いつも体のなかにいるのだから、距離的にはいつもと同じはず、だけれど。始めての感触に頭と気持ちが追いつかない。癒しどころか、頭が爆発して気絶しそう。抱き返すこともできない手を宙に彷徨わせながらの声は、情けなくひっくり返っていた。
    「けっ、けーけー」
    「ん? 何だ、やっぱりやめとくか?」
     巻き付けられた腕の力が緩められる気配に慌てて、思い切りKKに抱きつく。
    「やっ、やめない」
    「ふん」
     KKはいーけどよ、と笑いながら、またぎゅっと抱きしめてくれた。頭も体も温かくて、ふわふわする。目の前の肩に顎を載せると、数珠をくれた猫と目があった。
    (よかったね)
     にゃあと鳴く猫に微笑んで頷きながら、微かに煙草の匂いのするKKの首筋に顔を埋める。
    「おい、くすぐってえ」
     文句を言いつつも暁人を引き離そうとはしないKKの温かさに、涙が出そうだった。
     
     
     
     
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