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    ぎの根

    書きかけポイ用

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    ぎの根

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    祟りや小話。短いのふたつ。

    「射手よ」
    「何ですか、印殿」
     射手が手を止めてくりんと振り向いた。その正面に座っている棒術使いは、まだ忙しなく手を動かしている。ふたりの間に積まれているのは、無数の藁人形だった。
     そのひとつを手に取り、態とらしくため息を吐く。
    「これは何だ」
    「何って、藁人形ですよ」
    「ほう。ずいぶんと不恰好だが?」
     印術使いの手にした藁人形は、形こそきちんと人形になっているものの、手足の先から藁がびよんびよんと飛び出していた。積まれているなかから探り出した、恐らく作業を初めてすぐに作られたと思しきものは、手足の先もきれいに揃っている。今持っているものとは大違いだ。
    「何故お前の作る人形は安定しないのだ。もう少し丁寧に作れないのか」
     真面目にやれば、手先の器用な男の作る人形は立派なものなのだ。だがしかし、この射手は恐ろしく厭きっぽい性格だったが為に、作業の始めと終わりではまるで別人が作ったかのように出来の差が激しい。
    「えー、これでも丁寧に作ってるんですよ?」
     それに、と射手が目の前にいる棒術使いの方を指差す。
    「あいつよりマシでしょ?」
     射手の声に、まだ作業していた棒術使いがぎくりと体を強張らせた。確かに、射手はまだマシな方だった。ため息を吐きながら、作りかけのものを持ったまま固まっている棒術使いの手元を覗き込む。作っているのはふたりとも同じ藁人形のはずなのだが、棒術使いの手の中にあるのは、ばらばらになった不揃いの藁の束だった。端がいくつかに分けて束ねられているのは、人形を形作る為だろうが、束ねたはずのところも綻びだらけで崩れている上、揃えられていない藁があちこちから好き勝手に飛び出していた。そう、棒術使いは手先が恐ろしく不器用な男だった。
    「もう少しどうにかならないのか」
     思わずそう溢すと、棒術使いはがっくりと肩を落として俯いてしまった。
    「そもそも何故ひとつも端が揃っていないのだ」
    「おれもほんとそれが不思議なんですよねー、なあ」
     あまりの不揃い具合に不思議がると、射手も頷きながら首を傾げた。棒術使いは声もなく、居心地が悪そうにますます身を縮めてしまった。もう一度ため息を吐きながら、その手から不恰好な人形を奪い取る。ぐちゃぐちゃのまま束ねられた箇所を解し、端を揃え直して束ね直していく。
    「こうやって揃えていけば、自ずと整っていくものだぞ」
     印術使いの手の中で、とても人形に見えなかった藁の束があっという間に立派な藁人形へと姿を変えた。それを見て、射手が見事だと手を叩いた。
    「さっすが印殿、お上手ですね」
    「当たり前だ。どれだけ作ってきたと思っている」
     ふん、と心なしか傲慢に振る舞ってしまったところで、しまったと棒術使いへと目を遣ると、棒術使いはふたりに背を向けて遠ざかり、隅に丸まって踞っていた。その背中が、完全にいじけている。
    「ありゃ」
     印術使いの視線を追ってそれに気づいた射手も、呆れたように乾いた笑い声を漏らした。面倒だ。げっそりとため息を吐くと、小さくなっている背中がひくりと震えた。その背中から目を逸らし、頭の上で両手を組んで伸びをしている射手を見る。
    「おい」
    「何ですか」
    「あいつをどうにかしてくれ」
    「えー」
     頭に組んだ両手を載せながら、射手が億劫そうに声を漏らす。仕方がない、買収してやるしかないだろうと、眉間を指先で揉みながら頷く。
    「残りは私がやる」
    「もう一声」
    「明日は休みにしてやる」
    「やった! あ、ついでにボーナスも下さいよ」
    「調子に乗りすぎるなよ」
     ため息混じりの反論を承諾とみなしたのか、射手はお任せあれ、と頷くとスキップしそうな軽い足取りで小さくなっている棒術使いへと近づいていった。棒術使いの腕を掴んで引き起こそうとしては振り払われるが、射手は諦めずに絡んでいる。まあ任せておけば大丈夫だろうとふたりを放っておくことにして、残りの藁人形を作るべくその場に座り込んだ。
     
    ===


    「印殿~」
    「何かね」
     欄干から遠い水面を覗き込んだまま射手に答えると、反対側から棒術使いが手元を覗き込んできた。
    「釣りをするなら、釣糸もなけれぱ意味がないのでは?」
     印術使いが川に向けている竿から、本来水面に向けて伸びているはずの釣糸は、竿とまとめて手のなかにあった。つまり、竿を川に向けているだけで、糸を伸ばしてはいないのだ。
    「ああ、釣糸はない方が良いのだ」
     ふっと笑うと、ふたりが不思議そうに首を傾げた。
    「よく見ろ」
     顎で竿の先を見ろと促すと、ふたりは両側から欄干に手をついて竿の先を見ようと身を乗り出した。竿から伸びた釣糸は、たしかに川へと向かうことなく印術使いの手のなかにある。しかし、釣糸とは別に、竿の先から垂らしているものがあった。それは蜘蛛の糸のように丈夫で細い、幽界の糸だ。目に見えない程細いそれが一本、釣竿の先から垂れている。ようやくそれに気づいたのか、棒術使いがはっとしたように呟いた。
    「これは、蜘蛛の?」
    「ああ。これでないと釣れないのだ」
     まだ見つけられないのか、しきりと顔を動かして竿の先を窺っている射手にくつくつと笑いながら答えると、諦めたように身を引いた射手が、腕を組みながらまた首を傾げた。
    「何を釣るんです?」
     棒術使いも、不思議そうに印術使いを見ている。
    「まあ待て、もう釣れても良い頃合いだ」
     ふふ、と笑うだけに留めると、ふたりは揃って暗い川面へと顔を向けた。そのとき、ひくりと竿の先が微かに揺れた。
    「かかったな」
     小さな呟きに、ふたりが待ちきれないとばかりにまた欄干から身を乗り出した。糸が切れないよう、慎重に竿を引く。暫しの後に引き上げた細い糸の先には、黒い靄がぐるぐると渦巻いていた。
    「これは」
    「念、ですか?」
     恨みや怖れ、この世に溢れる怨念の端くれが、幽界の糸で釣れるのだ。
    「ああ。こうして釣れるのは小さなものだが、呼び水にはじゅうぶん使えるからな」
     糸に手を伸ばし、釣り上げたばかりの念を捕らえて用意していた藁人形のなかに封じ込める。これが核となり、祟りを為す穢れを集める。大事な商売道具だ。
     完成したそれを、棒術使いに渡してやる。棒術使いは興味深そうに藁人形を眺めると、それを射手に手渡した。
    「なるほど、こうやって使うのか」
    「まあ他にもやり様はあるが、せっかく釣りができるからな」
     棒術使いが、ふうん、と頷いた。
    「釣り、好きなんです?」
    「いいや」
    「えっ?」
     両手で藁人形を握り締めたまま、射手が顔を上げた。何をそう驚くことがあるのか。
    「魚は生臭いからな、釣りは好きではない」
     触りたくない、とぼやくと、何故かふたりがわあわあと喚き始めた。
    「ええ!?魚なら食べれるのに!」
    「念は食べられないでしょ!」
     どうせなら普通の釣りをしようと言い出すふたりに、こいつらそんなに魚が好きだったのか、等と考えながら黙々と竿を片付けた。
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    ぎの根

    DOODLE現代AUオメガバコントのコトゥ仁できてるルート。中の人のあれでとちくるったから書いたったん。ひたすら甘い。「甘い、な」
     散々貪られた仁は息も絶え絶えだと言うのに、平然とした顔でコトゥンが呟く。ソファに座っていた体からはすっかり力が抜け落ちていて、支えになっていたコトゥンの体が離れた途端にずるずると座面に倒れ込んでしまった。震える手を持ち上げて、べとついている口許を手の甲でぐいと拭う。味わっていたはずのチョコの味もすっかり薄れて消えてしまった。
    「あたり、まえ、だ」
     むう、と唇を尖らせてコトゥンを睨む。
     たしかに最後に残ったひとつをコトゥンの承諾なしに食べたのは、仁の落ち度だ。とは言えテーブルに置かれた高級そうなチョコレートの箱に興味を示した仁に、貰い物だから食べても良いと告げたのもコトゥンなのだから、仁は悪くない、はずだ。
     しかしコトゥンは仁が食べたと知った途端、いきなり仁に口付けて口のなかのチョコを奪ったのだ。重ねられた口のなかでチョコがすっかり溶けてなくなってもコトゥンに解放されることはなく、唇から舌、喉までも余すところなくしつこく舐めつくされた。抗議しようにも唇は塞がれていたし、コトゥンの大きな手に顎を掴まれた上に後頭部も掴まれてのし掛かられては、身動ぐことすらできなかった。 1775

    ぎの根

    DOODLEコントのコトゥ仁と伯父上。できた報告。短いよ。志村はぽかんと口を開けたまま、見事に固まっていた。
    「伯父上?」
     どうしたんです、と仁が声をかけても、志村は何の反応も見せない。コトゥンは目を瞬かせる仁の肩に手を載せてため息を吐いた。
    「仁、だから俺が話すと言っただろう」
    「だって、他に言い様がないだろ」
     振り向いた仁がコトゥンを見て不満そうに眉を寄せて唇を尖らせる。
     志村にコトゥンと番ったことを話すと決めたのは、仁だ。どうせ番を持ったことはすぐにばれるのだから、自分から話したい。番って早々にそう告げた仁にもちろんコトゥンも同意したが、志村には仁ではなくコトゥンが話す、という条件を付けた、はずだった。が、しかし。ふたりで志村の家を訪れ、志村を前に並んでソファに座った途端、仁はいきなりコトゥンと番になったと告げたのだ。
     腰を下ろしたところで仁の言を聞いた志村は、そのまま石と化した。目に入れても痛くないほど可愛がっている甥に、いきなり前世で敵だった男と番ったと告げられたのだ、さぞかし衝撃だっただろう。さすがに志村の心情を思いやり、重々しいため息を吐く
    「いきなり俺が仁の番だと聞かされる志村のことも考えてやれ」
     コトゥンから聞かさ 1461