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    kai3years

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    kai3years

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    #光サン
    luminousAcid
    #ひろサン
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    彼も人なり、我も人なり 熟睡という水底みなそこに、覚醒という水面みなもを描くなら、ちょうど、それらの真ン中あたり。泳いでいるような浮遊感と、ベッドに沈んだ体の重さを、中途半端にどちらも味わう、あまり快くはない状況。そこで、ドアの鍵が回る、かちりという音を聞いた。

    「ん……?」

     身じろぐ。そうしようと思ってした訳ではなく、反射的なものである。不本意ながら、寝首を掻かれる理由には事欠かない身なもので、睡眠中の物音には、ずいぶん過敏になってしまった。闖入者も気付いたようで、小さな溜め息が聞こえる。
     起きたのが、お気に召さなかったか。それは、どういう理由からか。殺しにくいからか、あるいは、寝かせたままでいてやりたかったという気遣いか。
     もう一度、かちりと音がした。鍵を閉めている。偉い。そういえば自分は鍵を閉めて寝たろうか、とぼんやり思ったが、閉めて寝たから一度目の「かちり」があったのだ。考えるまでもなかった。
     さて。では、誰だ。この闖入者は。一介の冒険者にして救世の英雄、名と顔は広く知られているが、アパルトメントの部屋番号までは流石に伏せられている。
     脳のきちんとしたところでは「この部屋の鍵を持っているのはサンクレッドだけであり、鍵を使って入ってきた時点で賊である可能性は限りなく低い、サンクレッドが鍵をスられたというパターンもありえなくはないが、あの優秀な男がホイホイ盗みに遭うとも思えない、よって入ってきたのは高い確率でサンクレッドである」くらいの計算が為されているが、何分、半分は寝ているもので、実際には「サンクレッドか」という解だけしか出てこない。サンクレッドだろう。多分。睡眠中で粘つく口を動かし、声を発してみる。

    「おう……おかえり……?」
    「ああ……ただいま……」

     ほらやっぱりサンクレッドだ。サンクレッドの声したもん今。正直まともな聞き分けができたかどうかは怪しいが、サンクレッドだ。そうであれ。
     かわいい恋人のご帰還だ。況して、示し合わせもせずに、この部屋を二人して使うことは、たいへん珍しい。自分は冒険者ギルド提携の宿屋を利用する方が多いし、サンクレッドにはここ以外にも、幾つもセーフハウスがある。運命的な好機と言えよう。両手もろてを挙げて歓迎してやりたいところだが、どうにも目が開かない。掛け布を持ち上げてベッドの中に招き入れてやることもできない。せめてスペースを空けようと、シーツを蹴ってずり下がる。
     どさどさと、衣擦れというには重く、色気のない音がする。やがてのそりとベッドに入ってきた体は硬かった。男の体である。まずはよし。これなら万一、彼がサンクレッドではなかったとしても、最悪の事態は免れる。
     大きな溜め息が聞こえ、伸ばした腕が重くなった。頭を載せられているようだ。そういえばスペースを空けはしたが、枕は独占したままだった。ほとんど反射で抱き込むと、鼻先に乾いた髪が触れる。汗と、砂埃の臭い。馴染みの深い、疲れと、汚れの。自分にも染みついているものが、濃く纏わりついている。

    「すまん……起こした……」
    「……寝てる……」
    「起きてるだろ……」

     限りなく頭の悪い会話が、虚ろに交わされ、消えていく。サンクレッド自身もほとんど眠りの中にあるようで、抱き込んだ体との温度差に、ひやりとするようなことはなかった。

    「腹、減って……ないか……」
    「……眠い……」
    「そか……」

     飯を用意してやる行為、何と言ったか、頭に「ち」とか「り」とかの付いた気がするアレは、明日、起きてからでいいらしい。多分、これは、朗報である。頭の回転も、そろそろ止まる。

    「ゆっくり、寝ろよ……」
    「ん……」

     肯定だか否定だかわからない、頷きらしき声を最後に、寄り添わされた硬い体は、緊張を失った。規則正しくすうすうと繰り返される寝息を聞くと、こちらの体も瞬く間に、眠りの中へと戻っていく。
     きっと間近にあるはずの唇にキスをしたかったが、相変わらず目は開かないし、頭を動かすのもつらい。そもそも意識がもうたない。しっくりと腕に収まった体は、子供が抱きしめる縫いぐるみのよう、眠りという闇に対して、途方もなく力強い。

    (おやすみ)

     声も、もう、出なかった。明日。何もかも、明日だ。食事も、風呂も、たまたま二人ここに揃ったことを喜ぶのも、どうしてここに来たのか訊くのも、キスも、セックスも、全部。
     中途半端に水中を揺蕩っていた心身が、すとんと底に落ちていく。そこから先は夢も見ず、たっぷり六時間は眠った。
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