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    初めてシリーズ5

    天猪(付き合う前)秋の夜長とは言うが、私にとっての夜は、季節関係なく長い。
    家に帰れば、食事を取り、風呂に入って、少し仕事を片付けてから、定刻になるとベッドに入る。ベッドに入ったからといって眠れる訳では無い。ただ、この体は不眠不休には耐えられない造りであるから、仕方なく横になっているだけだ。何も変わらない日々の中で、夜が最も無駄な時間である。

    薄いカーテンは、外の灯りをうっすらと通し、目が慣れていくにつれて見慣れた天井照明の形をはっきりと見せる。それが私にとってのいつも通りの夜。


    しかし、今夜はそんな夜とは程遠い夜になりそうだ。
    彼と身体の関係になってから、時々、我が家で夕食を共にすることがある(彼は食についての問題を抱えているため、本当にごく稀ではあるが)。今日は少し食事を取れる様子だった為、私が食事を提供した。私が調理した物が、彼の形の良い唇を通り、あの白い歯ですり潰され、飲み込まれる。一連の作業を見ることも好ましい。その細い体を支えられることに喜びを感じている自分がいる。
    食事の後は、少し話をして、大抵はセックスをする。彼の食と性の欲を満たせるなんて、私には過ぎた役割であると思う。なのに、最近はこの役割を、道具として満たせているのか、不安になることがあった。

    セックスなど、ただの性欲処理である。その処理を任されることは、彼以外にも過去に何度もあった。それなりにこなしては来たはずだ。しかし、彼とのセックスは、今までとどこか違う。彼といると、自分を制御出来なくなる感覚があった。
    まず、快楽に飲み込まれてしまう。彼とのセックスで、初めて感じたこの快楽は、私には大きな壁だった。普段は道具として徹することが出来るのに、彼とは、そうはいかない。だから、普段よりも「終わり」には気を使う。どんなに離れがたくとも、快を求めても、彼の1回を確認したら、すぐに終わる。これが私の決めたルールである。彼とのキスも酷い中毒性があるため、離れるのには大きな決断が必要だ。
    つぎに、彼と会った後、別れた時の尋常ではない虚しさである。ただ、いつもの状態に戻っただけ。それなのに、突然、この世にひとりぼっちになってしまったような、酷い気持ちになる。彼と離れた後に、この状態に必ず陥る。そのため、余計に離れがたくなるのである。
    そんなことを、彼に知られてはならない。私は、あくまで道具として接したいと思っている。彼にとって都合の悪い存在にはなりたくない。でなければ、この関係を望んですら貰えない。

    だから、今日も自分のルールを守り、彼に役立てるように、彼の顔を伺いながら、奉仕をする。快の中にある彼は、言いようのない妖艶さがある。そんな彼を間近で見られるなんて、私には過ぎた役割なのかもしれない。

    そんなことを考えていたら、あっという間に彼との時間は終わってしまう。しかし、今日は幸運にも、彼が家に泊まることとなった。今日は、一人ぼっちには、ならなくて済む、とほっとしている自分勝手さに、私は私を殺してやりたくなる。

    この、狭くて何も無い家に泊まるというのも、おかしな話だとは思う。しかし、あえて、身の程も弁えず「今日は泊まっていきますか?」と聞いてしまう自分は、頭がおかしい。

    そして、今、私の目の前には健やかに眠る彼がいる。すやすや、と表現するのにピッタリの表情を浮かべた彼が眼前にいる。長いまつ毛、ゆるく結ばれた唇、規則正しい寝息、それを特等席で眺められる、素晴らしい夜だ。秋は、夜が長いらしい。しかし、明けない夜はない。もっと長くてもいいのだ、明けなくて良いのだ、さらりと揺れる彼の透き通った髪を、彼が起きないくらいの軽さで撫でながら、そんなことを、思ってしまった。
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    DOODLEセージとソフィア
    カラフルな旗が風に揺れ、空には誰かが手放してしまった風船が舞う。嘲笑うような花火の破裂音。誰もそんなものは気にも留めない。だって今日は年に一度の感謝祭!(タイトル)
    だって今日は年に一度の感謝祭!深い考え事の最中は周囲に目を向けられなくなる。僕の悪い癖だ。だがしかし、本日は非常に幸運。一通り思考が落ち着いた時、僕が存在していたのは、華やかな祭事の真っ只中であった。

    色とりどりの衣装を身に纏った踊り子が、美しい笑顔を街に振りまき、露店には選りすぐりの菓子や果物、軽食が並ぶ。道の端には酒を飲み陽気に騒ぐ者、何やら難しい顔をして話しこむ者、屈託無くはしゃぐ乙女達。

    ふと、一番近くの露店を覗く。恰幅の良い主人が

    「見ない顔だね、旅の人かい?おいしいよ!食べてきな!ほれ、味見して味見して!」

    とまくし立てながら揚げたばかりの商品を眼前に突き出す。手袋を外し、いただきますと一言。一口サイズのそれをぱくりと口に入れる。歯ごたえのあるサクサクの衣に、ふわふわとした魚介類の具の絶妙なバランス。程よい塩気の甘みにじわりと唾液が口に溢れる。脳内の情報が、これがクロケージャという料理だと告げた。一部の地方に伝わる、伝統的な祭事用の食べ物。
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