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    直輝と那音、10年前のことを小説なんて高尚なものではなくて、妄想を文字で詳細に説明したもの。
    左甲斐直輝(兄、スタイリスト)
    左甲斐那音(弟、家出してろくでもない組織で働いている)

    #東異審
    eastInterrogation

    左甲斐兄弟が喧嘩した話 2002年夏。14歳の那音は、東京へ向かう各停電車に揺られていた。ボックス席の対面の座席に、行儀など知ったことかと脚を載せ、険しい表情で窓の外を睨んでいた。窓の外に見えるのは夏の太陽とそれを受けて鮮やかに煌めく深緑。時々、何かに反射した光が那音の目に刺さる。それでも少年は窓の外を睨んでいた。生来意地っ張りなこの子どもは、備え付けのカーテンを下ろすことすら「負け」だと認識しているようで、ソレが活躍する機会は無さそうだ。ただただ窓の外をキッと睨み続ける。

     那音は不機嫌だった。数時間前に、母親から夏休みの課題はやったのかと問いかけたことがきっかけであった。夏休み終盤に差し掛かるこの時期、どこの家庭でもよく見られるその問いかけ、課題を済ませてしまえと促す言葉、それらが思春期、反抗期真っ盛りの那音にとって気に入らなかった。末の息子が乱暴に返事をすれば、母親も呆れた様に乱暴に返す。他の兄弟も面白がって参加してくる。その全てに那音はイラついていた。その後、大喧嘩に発展し、衝動的に家を出て、今に至る。思い返してみれば本当に下らない。しかしそこで引き下がれないのがこの少年なのだから救えない。

     家出少年はポケットを探る。そこにはキーホルダーも付いていない、むき出しの銀色の鍵が一つ。使われた形跡はほとんど無い。東京に住む長男が「念の為に」と実家に置いていった鍵だ。今晩の宿候補。ここ数年は仕事が忙しいらしくまともに顔を合わせていないが、優しい兄のことだ、突然押し掛けた弟にも食べ物と寝る場所くらいは提供してくれるだろう。

     ボタン式でドアを開閉する電車から、停車駅全てでドアが開く電車に乗り換え、数分後にまた違う色の電車に乗り換える。景色はビルが立ち並ぶ大都会の地上とその地下と交互に変わっていく。それを2度ほど繰り返し、カラフルな電光掲示板が示す目的地で降りる。そこからは徒歩10分ほど歩けば到着する・・・はずだ。はず、というのは、兄が引っ越してから1度もその家に足を踏み入れたことが無いためだ。今はケータイに住所を入れて地図をたどる以外にたどり着く方法は無い。そういえば、引っ越す頃の兄はシェアハウスするとか言ってたような・・・。どのような人物が兄と暮らしているのだろう。お人好しな兄に人を見る目があるかと言われれば疑問だが、これまでの交友関係を思い返してみれば、弟たちにも気さくに接してくれる人が多かったように思える。しかし、追い返されたら・・・。そこまで考えて、那音はゆっくりと頭を上げた。目的地だ。

     4階建てで、四角で、灰色で。マンション名がもう少し控えめであったら見逃してしまいそうな、都会の隙間にすぽんと押し込められたような建物。ここに兄は住んでいるらしい。こざっぱりとしたエントランスからエレベーターで3階へ。3階に着いたら、細長い廊下の一番端へ。もう1度ケータイの画面を見る。兄から送られてきた荷物の宛先の写真と、部屋の番号を見比べる。ここだ。確かにここだ。確信を持って、インターホンを鳴らす。反応がない。少し間を置いてもう1度。やはり反応がない。念の為、確かにこの住所から荷物が来たのだと確認をする。全く見知らぬ人の家だったら・・・間違えていたら・・・と思うとどことなく気恥しい。しかし反応がないことには正しいかどうかも調べる術はない。何も書いてない表札を睨みつけながら、那音はポケットから鍵を取り出す。そっと差し込んでひねってみると、呆気なくカチリと硬質な音を立てて鍵が開いた。なんだ、簡単だ、ここが兄貴の家だ、安堵し、そっと扉を開けた。

     そっと中の様子を伺うと、電気のついた明るい玄関、そしてその先に伸びる廊下とドアが見えた。そしておそらく一番奥の部屋からだろうか、話し声のようなものが聞こえる。誰もいないと踏んでいた那音が訝しげに耳をそばだてた。そのとき、話し声は怒声になり、何か大きなものが壁か家具にぶつかる鈍い音が聞こえた。そして、一瞬だけ奥の部屋のドアに嵌め込まれた磨りガラスの向こうに浮かんだシルエットが、たしかに、たしかに兄のように見えたのだ。

    (喧嘩か・・・!?・・・強盗・・・!?)

    ふと頭に浮かんだ想像に、体中が冷たくなる。だが、体の芯は興奮に昂ってくるのが分かった。そしてまた怒声、殴り、殴られるもののシルエット。荒い声。間違いない。兄が暴行されている。

     それがわかった瞬間、靴も脱がずに那音は玄関から転がるように部屋に入り込んだ。とにかく助けねば、兄を、あの優しい兄を。頭はそれで一杯だったように思う。半ば強引にドアを開け、二人の人間が目に映る。二人とも突然乱入してきた自分をぽかんと見ている。一人は間違えることなどない、自分の実の兄。もう一人はその兄に覆いかぶさり、押さえつけ、拳を振りかざす見知らぬ男。すぐさま見知らぬ男を敵と認識し、間に割って入る。なにか叫んでいるような気がするが内容は頭に入ってこない。ただ夢中で男にタックルを食らわせる。不意をつかれた男は、兄の上からゆかに転げ落ちる。この隙に兄と逃げようと、一瞬兄に目をやった瞬間だった。大きな衝撃、硬いものに顔面が打たれる衝撃、少し遅れて肩から床に叩きつけられる。目の前の見知らぬ足が自分の腹を思い切り蹴りあげ、息が詰まる、と同時にたいしてものが入っていない胃から酸っぱいものがこみ上げてきた。体がついていかないまま、次の衝撃に身構える。次の衝撃は来た。しかし、それは自分の想像するものと違った。大きなものが自分を包み込み、それ越しに蹴られる衝撃が伝わってくる。兄が自分を庇っているのだと気づくのに、時間はかからなかった。

     ぎゅうと硬い胸に顔を押し付けられ、今まで聞いたことのないような大声で、「やめろ、やめてくれ」と兄が叫んでいるのがわかった。

    「弟なんだ、たのむから、たのむからこの子だけは」

    兄の懇願も虚しく、ヒステリックに何かを叫び、兄を攻撃する見知らぬ男。兄の肩越しから改めて見てみると、結構な大男であった。恐怖がこみ上げてきた。膝が震え、兄にすがり付く。それに答えるように、兄の大きな逞しい腕に力が入る。もう頭の中は真っ白だった。

     随分長い間兄にすがり付いているような気がした。突然の浮遊感。兄が自分を抱えて立ち上がったのだ。そしてそのまま廊下に出て、玄関のドアを抜ける。ちらりと奴が追いかけてくるのが見えた。捕まる。そう思うと奴から目が離せなかった。しかし、一瞬のうちに、やつが視界から消えた。兄が玄関のドアを閉めたのだ。

    「那音!とにかく、今は、逃げて!・・・そこに、スグそこにファミレスがあるから、そこにいなさい!」

    ぜぇぜぇと必死でドアを押さえながら兄ができる限り声を抑えて指示を出す。自分は頷いて、震える足で其の場から離れることしか出来なかった。急いで廊下の端のエレベーターに乗り込む。運良く、先ほど自分が使ったまま、エレベーターはそこにあった。ほぼ扉が閉まると同時に、兄がまたあの男に家の中に引きずり込まれるのが見えた。

     エレベーターが1階につき、転がる様に表へ出る。ふらふらとエントランスを出て辺りを見回すと、一軒だけ明るい店が見えた。恐らくそこが指定されたファミレスなのだろう。店内に入るとメインカラーのオレンジが妙に目に刺さる。自分に気づいた店員が、「何名様ですか?」と訝しげに問うが、人差し指を立てて答えるのが精一杯だった。ひとまず案内された2人用の席にどかりと座り、大きく息を吐く。出された水を一気に飲み干すと、どっと疲れていくのがわかった。

     あれは何だったのか、兄とあの男の関係は?なぜあの男は兄を襲ったのか。あの温厚な兄に何があったのか。もしや、そこに付け込まれてヤバイことに巻き込まれているのでは?ぐるぐると答えの出ない問答を頭の中で繰り返していると、妙に冷静になってくる。ひとまず何か頼まないと、と思い、ドリンクバーとポテトを注文した。思いつくのがその二つしか無かったからだ。

    時計の進みが随分遅く感じた。ポテトが目の前にあったが食べる気もしなかった。揚げられて固くなった部位を粉にする作業にも飽きたし、もうそんな場所は残ってない。ただ冷めて萎びたものがあるだけだ。口の中が切れているのか、炭酸も染みるし、結局ウーロン茶だけ飲みつつけて、そろそろ2時間が経とうとしている。落ち着きなく何度もトイレに立とうと、時の流れは変わらない。

     もう1度、兄の家に乗り込んだ方が良いのでは?もしこれで兄が来なかったら?いや、怒り狂った相手を宥めるのに時間がかかることは自分もよく分かっている。でも・・・そう思って席を立とうかと思案し、入口のドアを見つめている。ドアが開く、直輝が入ってきた。兄を見たことで、先程まで収まっていたハズの心臓の音が再び喧しくなる。直輝がこちらに気づき、近づいてくる。席の目の前に立つ。自分を見て、ほっとしたような顔になる。

    「待たせちゃってごめんね。行こうか。」

    申し訳なさそうに謝る兄。自分の知ってる兄だった。黙って頷き、兄のあとをついて行く。直樹はいつの間にか持っていた会計表をレジに出していた。

     会計後、店を出ると、二人は並んで黙って歩きだす。どこへ連れてかれるんだろう。家とは逆方面に歩き出した直輝に、那音はなんとなく聴けないでいた。久しぶりにちゃんと見た兄は、やはり身長は人より大きかったし、Tシャツ越しにも鍛えてることが分かる体つきをしていた。しかしその顔は疲弊しきっているのがよくわかる。こんなに疲れた顔の兄を見るのは初めてだ。

     数分後、公園に着く。都会の公園らしく、コンクリートの中に突然現れる緑。ランニングコースなのだろうか、メインの広場から、細い道がいくつか緑の中に入り込んでいた。その中の一つの道に進むと、こじんまりとした緑に囲まれた場所にベンチと自動販売機が並ぶスペースがある。兄はその自動販売機の前に立つと、「コーヒー買うけど、なにか飲む?」。黙って首を横に降る。電子的な操作音と、ガコンという音が、セミの鳴き声がうるさいこの場所で妙に響く。

     兄はコーヒーを買うと、ベンチに座った。お前も座れ、という視線を感じ、自分も同じベンチの端っこに腰掛ける。兄はコーヒーをひと口飲んで、ため息をつくと、口を開いた。

    「・・・まず何から話していいのか、さっきからずっと考えてるんだけど纏まらなくて・・・。」

    両手で持ったコーヒーの缶を落ち着きなく握り直す。

    「・・・本当に、さっきはごめんね。まだ、何処か痛いところはある?ぱっと見、平気みたいに見えるけど、痛むところはある?我慢してない?」

    その問に、あぁ、自分は殴られたんだと思い出した。

    「・・・別に、口の中切れただけ・・・」

    ここで始めて出した声は、自分で思う以上に震えていた。その震えを察したのか、兄がこちらに手を伸ばす。その大きな手が肩に触れる。いつもの自分だったら振りほどいていただろう。しかし、それが今日ばかりは出来なかった。そのまま引き寄せられて、兄の肩が自分の頬に触れる。何だか、今までデカかった兄が小さく感じて、涙が出てきた。兄貴に抱きしめられて、めそめそ泣いて、最高にかっこ悪い。兄は、自分が落ち着くまで頭をくしゃくしゃと撫でていた。

     涙がある程度落ち着いた所で、今度は那音がぐいっと直輝を引き剥がし、声を出した。

    「あいつ、誰だよ」

    袖でゴシゴシと涙を拭いながら、やっとの聴けた。あの男は誰なのか、何なのか。すると直輝が、視線を逸らしながら答えづらそうに口を開ける。

    「あー・・・、彼は、なんというか、その・・・。ルームシェアしてるって事は言ったよな・・・?」

    頷いて知ってる、という意を示すと、兄はまたため息を付いて、こちらに視線を向け、言葉を続ける。

    「実は・・・ずっと言ってなかったんだけど・・・、僕は、その、所謂、・・・ゲイ、だ・・・。同性愛者ってやつ・・・。」

    最後は消え入りそうな声になっていたが、確かに聞こえた。同時に耳を疑った。そして自分の問いが、なぜそこに繋がったのか、意図が掴めなかった。

    「こんなこと突然言われて、驚いただろうけど、ずっといえなくて・・・!それで、そう、あの、さっきの彼は・・・僕の、恋人なんだ・・・」

    明らかに驚いた顔をした那音に、弁解するように早口になる直輝。突然のカミングアウトに頭がついて行かない那音。

    「・・・は?どういう・・・、兄貴が、ホモで?あいつは、兄貴の、彼氏?」

    ホモ、という単語を聞いた直輝が、一瞬だけ傷ついたように表情が歪んだのがわかった。しかし、今はそんなことを気に出来るほど那音は大人では無い。

    「で?兄貴はアイツになんで・・・なんで殴られてんだよ?」

    弟が捲し立てるように質問する。直輝は、ぽつりぽつりと考えながら話し出す。

    「その・・・彼は少し、不安定なところがあって・・・。普段は優しいんだ。でも、どうしようも無くなることがあるみたいで・・・。もちろん彼だってやってはいけないことだと、分かってるんだよ。さっきのだって、突然知らない男が家に入ってきて気が動転してたって言ってた。ちゃんと話したら分かってくれたし、お前に謝ってたよ・・・。勿論、暴力はダメだ、でも、だから、彼も苦しんでるんだよ・・・。」

    「だからって兄貴は殴られ続けてんのかよ!?」

    勢いにまかせて立ち上がり、思いっきり怒鳴ってしまった。

    「そういう訳じゃ・・・」

    「じゃあどういう訳だ!?お前、全然連絡とれねーと思ったら、ホモの彼氏に殴られてんのバレたくねーからか!?ふざけんなよ!?」

     那音は自分の頭に血が登っていくことがわかった。兄がこんな状況でいることを、おそらく家族の誰もが知らない。兄の恋愛対象についても、知らない。なんなら、家ではお見合いを用意した方がいいか、などと言っているレベルである。同性愛者も、DV被害者も、ドラマやニュースで見るだけの、遠い存在だと思っていたのに。

    「・・・ごめんね、那音、本当に、本当にごめんね・・・」

    那音は、ただ俯いて謝り、どんどん小さくなっていく兄をみて、ますますイラついた。昔から兄のこういう所が嫌いだった。

    「謝りゃどうにかなんのかよ」

    つい、傷つけるような言葉が口から出てくる、しかし、兄はいくら傷つけられても、こちらを傷つけることは無い。全部自分が悪いのだと、背負いこもうとするのだ。

    「ほんと、そうだよね・・・でも、俺がちゃんと言わないから、那音に怖い思いさせて・・・兄貴なのに・・・護ってやれなくて・・・、でも、どうしようも無くて・・・」

    兄が上を向いて、自分を見上げる、涙ぐんでいるのがわかった。

    「でも、そんな、何も出来ないのに、こんなこと言うのはおかしいけど・・・たのむ、頼むから、このことは母さんや、父さん、他の弟には・・・」

    言わないでくれ、という言葉がこのあとに続くのだろう。しかし、その言葉が飛び出す前に、那音は衝動的に、兄の胸ぐらを掴む。殴ってやろうかと拳を振り上げる。その瞬間、兄は、怯え、恐怖、覚悟、恐らくそんな顔をしていた。そして次の瞬間、腕で顔を覆い、ガタガタと震えだす。元々暴力は苦手な、温厚を人間の形に固めたような兄だ。しかし、それにしても、この反応に、那音はたじろいだ。暴力は苦手とは言っても、弟達の殴り合いの喧嘩には毅然と割って入っていたし、その時にだって逆切れされ、殴られそうになっても、ここまで怯えることなんてなかった。しかも、こんなにわかりやすく怯えていても、こちらを振り解こうともしない。逃げようともしない。引っ張った首元から見える肌には、紫色の斑点がちらりと見えた。

     兄は、知らないあいだに、とんでもなく変わってしまったのだと那音は思い知らされた。今目の前にいるのは、いつも笑っていて、優しく、甘く、頼りがいがあって、背中のでっかい兄貴ではない。ただ、恋人からの暴力を誰にも相談せずに耐え続ける、小さな、とんでもなく小さな人間だった。

     那音は、振り上げた拳を、手のひらに爪が食い込むくらいに握り、下ろし、兄の胸元から手を離す。殴られるのを今か今かと待ち構えていた兄が、手を離され、キョトンとし、安堵した表情になった事すら、那音にとっては不快だった。 そんな顔はもう見たくない。那音はさっさと踵を返して、兄に背を向ける。

    「那音、待って!」

    そんな弟を、兄は呼び止める。もう関わりたくなかった。

    「てめぇがホモだろーが、殴られっぱなしのチキン野郎だろうがもう関係ねーよ、誰にも言わねーから、俺に一生関わんじゃねぇ!!キモイんだよ!!!」

    地面に吐き捨てる様に叫んで、走り出す。

     それからどうやって家に帰ったのかはあまり覚えてない。夜遅くに家に帰ると、あまりにいつも通りの日常が繰り広げられていて目眩がした。庭に繋がれた愛犬は尻尾を降りながら吠えてくるし、母は、へそを曲げて出ていった末っ子に文句を言いながらも、一人分の夕飯を取っておいてくれた。父は遅くまで出歩くんじゃないと注意するが、帰ってきた自分をみて安堵の表情を浮かべていた。兄たちはお前が居ないあいだにアイス食べ終わった、などとどうでもいい報告をしてくる始末だ。

     家族はみんな、兄の状況を何も知らない。自分の知ってしまった兄と、周りが知っている兄のギャップが埋まらない。恐ろしい秘密を抱えてしまった。誰かに言えば楽になる、そう思うも、誰にも言えない。自分の中で整理ができない。そんなことで悶々としているうちに、夏休みが終わり、学校が始まる。

     その後も滞りなく流れる日常。なんとなく、居心地が悪くて、家に居着かなくなっていった。バカな奴らとバカをしているあいだは、家族のことなんて考えなくてよかった。気が楽だった。
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