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    初めてシリーズ4

    天猪都内河川沿いで毎年行われている大規模な花火大会。
    そこには多くの人々が集まり、それぞれが屋台や、夜空に浮かぶ大輪の花火を楽しんでいる。非日常的な空間に、浮かれ騒ぐものも少なくない。
    もちろん、それは人も異端者も同じだ。
    本日、我々の業務は、そんな異端者共の存在が世に露呈する前に「処分」することである。

    浴衣や甚平などを着用する者も多い中で、我々のスーツ姿は恐らく異質なものかもしれない。しかし、それをあえて気にするものもいない。日が落ちかけているのにも関わらず、むわっとした熱気があたりを包んでいた。

    「手筈通り、このルートで見回りを開始します。それぞれ2人1組で行動するように。何か不振な点があれば、どんな事でも報告するように。では、解散。」

    入念な事前準備があったため、今回は簡潔な指示のみでそれは始まる。
    私は、バディである天龍川警部と共に行動を開始する。本来であれば、そろそろ現場からは離れる階級ではあるが、現場の方が私の性にあっていた。それに、未だに彼を付き合わせてしまっているかもしれない。
    なるべく人混みに紛れつつも、何かあった際にすぐ移動出来るような、絶妙な道選びに気を使う。

    暫く、無線を聴きながら歩き続ける。ふと、会場のアナウンスと共に、人々の視線が空に注がれ始める。そろそろ花火が上がる時間だ。

    「花火の爆発音とともに、行動を起こす場合もあります。念の為、注意をしてください。」

    「はい」

    我々は、プライベートでは恋人だが、今は仕事中、そこで役割を放棄したり、混同することはない。粛々と任務をこなすだけである。

    見物客とぶつからぬよう、道の端を歩いていると、ひゅるるる…という独特な音の後に、大きな爆発音。夜空が一気に明るくなり、大衆は歓声をあげる。
    ちらりとバディの顔を見ると、その端正な顔がカラフルな光を受けていた。任務に徹しつつも、つい、時が止まったのを感じた。そんな私を知ってか知らずか、彼は私の指示通り、周囲を警戒している様子だ。そう、今は仕事中である。
    自分の軟弱さを痛感し、彼から目を逸らし、足を進めた。


    □□□□□□


    「皆さん、お疲れ様でした。本日は、無事に一般人達の催事を守ることが出来ました。」

    その後、花火大会は恙無く閉会した。
    途中で酔っぱらいの喧嘩を仲裁したり、2匹ほど、浮かれた異端者を捕獲したりもあったが、ほぼ問題なく祭りは開催されたと言って良いだろう。

    警視庁の一般的な人員輸送車に紛れて置かれている、我々の乗ってきた車両の中で、最後の情報整理、今後の動きの確認をする。我々は、捕獲した異端者に関するものや、報告書などの書類仕事をしなければならない。夜も更けて来ており、まだ部下たちの報告で聞かねばならない部分もあるため、その仕事は明日に持ち越すこととした。

    「すなおさん、もしかして、花火がお好きですか?」

    帰りの車内に2人きりになると、彼が口を開いた。

    「…そういう訳では無いのですが…なぜですか?」

    「あー、そうなんですね。いえ、花火が始まった時に、真剣に見ていた気がして、好きなのかな、と」

    どうやら、私が彼に見惚れていたのは、しっかり見られていたらしい。しかし、私が見ていたものについてはバレていないようだ。

    「いえ、花火はたしかに珍しいですが…あの時、私は…貴方を見ていたのかと…思います…。仕事中に、良くなかったかもしれませんが…」

    そんなふうに白状すると、彼が少し照れたように微笑んだ。
    若干、気恥しい空気が車内に流れる。

    「…ちょっと、コンビニに寄っていいですか?」

    その沈黙を破ったのは彼の方だった。
    勿論、構いません、と答えると、車はするっとコンビニの前に止まった。私は、車に残り、少しの間彼を待つ。

    ものの数分で、彼は車内に戻る。
    そして、コンビニ袋で今買った物の中身をこちらに見せる。

    「花火大会の続き、しません?みんな同じこと考えてたみたいで、これしか売ってなかったですけど…」

    ピンクを基調としたその袋には「線香花火」と商品名が記載されている。所謂、手持ち花火、というものだ。

    「えぇ、良いですが…、それは…、どう、扱えばいいのでしょう…?」

    「もしかして、初めてですか?」

    「はい…そうですね」

    「じゃあ、やり方を教えますよ。火を付けるだけですけど。どっちが長く持つか、勝負しましょう」

    彼はそう言ってイタズラっぽく笑った。釣られて、私の口角も上がったように思う。


    □□□□□□


    その後、2人で、ベランダで線香花火に初めて火をつけた。

    紙が焦げ、中に入っている火薬に火がつくと、ジジッと音を鳴らしながら、それは球状に集まる。そしてパチッパチッとはじけ出し、火薬の匂いが淡く広がる。
    手元の光景に、夢中になる。それは彼も同じようだ。
    そして瞬く間にその球はポタリ、と灰皿のなかに落ちた。そのための灰皿か、と感心していると、彼がまたもう一本、こちらに手渡す。
    また、同じように美しい火花が散り始める。

    そんな光に照らされる、彼の笑顔にまた見惚れてしまったが、今回はバレていない、と思う。
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    SSS

    DOODLEセージとソフィア
    カラフルな旗が風に揺れ、空には誰かが手放してしまった風船が舞う。嘲笑うような花火の破裂音。誰もそんなものは気にも留めない。だって今日は年に一度の感謝祭!(タイトル)
    だって今日は年に一度の感謝祭!深い考え事の最中は周囲に目を向けられなくなる。僕の悪い癖だ。だがしかし、本日は非常に幸運。一通り思考が落ち着いた時、僕が存在していたのは、華やかな祭事の真っ只中であった。

    色とりどりの衣装を身に纏った踊り子が、美しい笑顔を街に振りまき、露店には選りすぐりの菓子や果物、軽食が並ぶ。道の端には酒を飲み陽気に騒ぐ者、何やら難しい顔をして話しこむ者、屈託無くはしゃぐ乙女達。

    ふと、一番近くの露店を覗く。恰幅の良い主人が

    「見ない顔だね、旅の人かい?おいしいよ!食べてきな!ほれ、味見して味見して!」

    とまくし立てながら揚げたばかりの商品を眼前に突き出す。手袋を外し、いただきますと一言。一口サイズのそれをぱくりと口に入れる。歯ごたえのあるサクサクの衣に、ふわふわとした魚介類の具の絶妙なバランス。程よい塩気の甘みにじわりと唾液が口に溢れる。脳内の情報が、これがクロケージャという料理だと告げた。一部の地方に伝わる、伝統的な祭事用の食べ物。
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