互いの好きなものそれはスーパーで夕飯の買い物をしていた時の事だった。
「あ、ヤクルコ」
普段はいちご牛乳くらいしか見ない乳製品のコーナーに鎮座しているそれが今日は妙に気になってしまった。
「そういや冷蔵庫のヤクルコ切れてたような……」
買ってくか?
でもあいつが自分で買ってるかもしれないし、やめとくか…と思ったところでヤクルコと目が合った気がした。
いや、ヤクルコに目なんかないけど、今マジで目が合った気がするんだよ。
何このヤクルコ、お化けなの?
そんなにまでして俺に買って欲しいわけ?
「……しょーがねーなー」
と呟きながら俺はヤクルコをカゴに入れてレジへ向かった。
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「たでーまー」
家に帰ると出かけていた高杉の草履があった。
俺がブーツを脱いでる内に中から高杉が歩いてきた。
「おかえり」
こいつにそう言われるのは未だに慣れないというか、くすぐったい気持ちになる。
「お前、今日ヤクルコ買ってきたりしてる?」
「ヤクルコ? いや、買ってねェな」
「そ。じゃあはい」
そう言って袋から買ってきたヤクルコを取って差し出した。
「へェ、気が利くじゃねェか」
「なんかそれと目が合ったんだよ」
そのまま冷蔵庫に向かって買った物を袋から出しては収納する。
冷蔵庫の中を見ると、買った覚えのないいちご牛乳とプリンが入っていた。
「お、いちご牛乳とプリンじゃん。何、買ってきてくれたの?」
「俺もそれと目が合ったんだよ」
「そうなんだー。高杉君もスーパーに行くのね」
「スーパーじゃねェ。コンビニだ」
確かに、高杉が一人でスーパーにいる姿はあんま想像つかねェな。
「でもヤクルコよりそっち買っちゃったんだな」
「そりゃテメェもだろ」
ん?
言われてみれば、自分の好きなものじゃなくて互いの好きなものを買ってるなんて、おかしくね?
モヤモヤしながら買った物を全て冷蔵庫に入れた後、ふとカレンダーが目に入る。
今日は9月10日だな。
9月10日ってなんか引っかかるんだけど何だっけ。こいつの誕生日は先月終わったし、俺のは来月だし……
待てよ、こいつが先月で俺が来月って事は、今日はこいつと俺の真ん中誕生日?
「なあ、真ん中誕生日って何かあったっけ?」
「真ん中誕生日? 聞いた事ねェな」
「だよなー。考えてもわかんねーし、もう考えるのやーめた」
そう言いながらプリンとスプーンを持って居間へ行く高杉の背中を追った。
「もう食うのかそれ」
「買い物っていう労働してきたご褒美だよ」
「今日の夕飯はなんだ?」
「茄子が安くて良さそうだったから麻婆茄子」
楽しみだな、と言う高杉の言葉を聞きながら俺はプリンを食べる。
今日も平和な一日だった。
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大遅刻ですが真ん中誕生日のお話を…。。
真ん中なので、互いを意識して欲しいなと思ってこのような内容になりました。