ミニモフと真ん中誕生日俺は長椅子で仰向けになって寝ていた。
ジャンプ読むのに満足して目ェ閉じたら寝落ちてたんだよ。そしたらなんか顔の辺りにふにふにする感触がしてさあ。定春の肉球にしては小せェし……って目を開けたら、なんか目の前に白いモフモフと紫のモフモフがいるんだけど。目が合ったら『よォ!』というような勢いで白モフが片手を上げた。
「……だれ?」
と尋ねても喋れないらしく、身振り手振りで説明しているようだった。
「全然わかんねーけど、白いのは俺の着流しみてーな前掛けしてるし、紫のは高杉のみてーのだし……そういう事?」
すると『ああそうだ!』と言いたそうな表情で2匹は肩を組んでこっちを見てきた。
「俺、アイツと肩組んだりしねーし」
すると少し考えたモフモフ達は互いにぎゅっと抱き合いながらこっちを見てきた。
「そんなに抱き合わねーし」
すると今度は……
「もっ、もういいから! わかった、オメーらは俺達の魂が入ったモフモフ達って事だな」
こくりと頷くモフモフ達。
「それで、何しに来たわけ? 迷子にでもなったの?」
すると白モフが歩き出した。ついてこいって事か?
辿り着いた先は冷蔵庫。開けろと訴えるので開けてやると、開封済みで残り少ないいちご牛乳を取り出して飲み始める。
「おいコラ、何勝手に飲んでんだ!」
小せーくせに飲みっぷりは良く、あっという間にいちご牛乳のパックは空になってしまい、白モフの口の周りにはいちご牛乳が付いてピンク色になっていた。すると紫モフが俺の着流しを使って白モフの口を拭いている。
「あっ、テメー! 人の着流しで拭いてんじゃねーよ!」
と言う頃には拭き終わっていて、着流しには点々とピンク色の染みが付いていた。
モフモフ好きなヅラが見たら微笑ましい光景だと思うが、俺からしたらただただ腹が立つだけだった。
「オメーらいい加減にしねーと、こっから摘み出すからなァァァ」
漫画にしたらゴゴゴ…という背景が出来そうな表情と声でそう言うと、白モフは怯えて紫モフの背後に下がり、紫モフは特に表情を変える事もなくじっと俺を見ている。
すると玄関の開く音が聞こえた。白モフが即座に反応し、玄関に向かって行く。
「何だこいつは、まさか銀時……じゃねェよなァ」
高杉がうちに来たらしく、白モフを見た高杉がそう呟いていた。白モフを追いかけて玄関に向かおうとしたが、面白そうなのでそのまま様子を見る事にした。
白モフが身振り手振りで高杉に状況を説明している。その小さな体からはハートが出ているように見えた。
「なるほど、その真ん中誕生日ってのを祝いに来たってわけか」
って、あんなちんちくりんの身振り手振りで伝わるんかい!
「何でお前そいつの言葉わかんだよォォー!」
様子をうかがおうとしたけど、思わず前に出てツッコミを入れちまった。
「銀時、そこにいたのか」
俺の勢いに驚いた白モフがいそいそと高杉の肩に乗った。その直後、背後からドス黒いオーラを感じて振り返ると、紫モフのオーラだった。
なんかこのオーラ感じた事あるんだよなあ。例えば街中で顔見知りのオッちゃんと喋ってる時に高杉から出るヤツ……ああ、なるほど、
「紫モフ、お前ほんとに高杉なんだな」
ちょっと可愛く思えて側にいる頭を撫でてやる。するとドス黒いオーラがすん、と消えた。
「高杉、その白いヤツは俺の魂が、こっちの紫のヤツはお前の魂が入ってるみてーだ。俺が昼寝して起きたら一緒にいたからどうやってここに来たかは知らねーけど」
そう言いながら紫モフを白モフに近付けると喜んでいるようだった。紫モフが身振り手振りで高杉に説明している。
「白いのが腹減ってるらしいが冷蔵庫にろくなモンがねェ、何か買ってこい、って言ってるぞ」
「白モフはさっき俺のいちご牛乳飲んだだろーが! あと高杉は何で言葉通じるんだよ!」
はあ、俺1人じゃツッコミしきれねーよ……
誰か助けてぇ……300円、あげるから……
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結構モフモフ達を連れて街を歩く事になった。
……腹が減っている白モフの為に。
「で、モフモフは何とかを祝いに来たんじゃねーの?」
甘味処の団子を食いながらそう尋ねる。
同じく団子に夢中な白モフは置いといて、紫モフの方を見た。身振り手振りで説明しているようだけどやっぱり俺には通じない。
「俺とお前の真ん中誕生日だとよ」
「真ん中誕生日だあ…? あー、高杉が8月10日で俺が10月10日だから、その真ん中の9月10日って事か」
確かに今日は9月10日だった。
「でもよー、今おめーらは俺達に祝われてない? 団子食って茶ァ飲んでるし」
俺の言葉を無視して団子と茶を飲み続けるモフモフ達。
「無視すんなコラァ」
「ククッ……まァなんだ、その真ん中誕生日とやらを気付かせる為に来たんだろ、こいつらは」
「あー、確かにこいつらいなかったらそんなの気付かねーまま1日が終わっただろうな」
「そういう事だ。この後ケーキでも買いに行くか」
ケーキと聞いて心が跳ねた。
「えっ、ケーキ! 高杉くんが買ってくれるの?」
そう言うと高杉は笑い出した。
「白いのと同じ反応だぞ、銀時」
白モフが団子を咥えたまま目をキラキラさせて高杉を見ている。
「あ……」
「俺はケーキよりも銀時の料理の方が嬉しいがな。紫の、お前もそうだろう?」
それはつまりケーキ買ってやるからお前は飯作れって事だよね。
で、紫のはコクリと頷いている。
「……へーへー、この後行きますか、買い出し」
+++
食材を買って作ったのはさんまの塩焼き。
魚屋通ったら目立つ所に置かれててこれだ!と思ったし、高杉も異論なしだった。
「いやー、やっぱり季節の物は良いもんだね」
「この大根おろしはこいつらが作ってたぞ」
「えっ、そうなの?」
そう尋ねると、モフモフ達は頷いた。
こんなちんちくりんのどこにそんな力があるんだと思ったけど、俺と高杉の魂が入ってるならできるかと思い、考える事をやめた。
「ありがとな。それじゃ、いただきますか」
皆でいただきますをして食べ始める。
「ん、さんまうっまい!」
「あァ、うまいな」
モフモフ達にもさんまの身や食後のケーキを差し出してやると、頬張った後の表情が幸せそうで思わず笑っちまった。
どこからどうやってここに来たのかわからないモフモフ達だが、家族が増えたような感じがして嬉しい気持ちになった。
……ある光景を見るまでは。
「っておい、また俺の着流しで白モフの口拭くのやめろ!」
俺は本日2度目の、何が悪いんだ?な紫モフの表情を見た。
+++
翌朝。
真ん中誕生日だからと言って何をするわけでもなく、食事をして普通に寝た俺と高杉。
嗅ぎ慣れた紫煙の匂いがして目が覚めた。窓の側には煙管を吹かす高杉がいる。寝起きのまま高杉に近付いた。
「おはよう」
「あァ、おはよう」
「モフモフ達は?」
「そこだ」
指差された先には机に並んで座っているモフモフ達がいるが、触っても反応がない。
「これ、ただのモフモフになったわけ?」
「そのようだ」
そう、だだのぬいぐるみになったようだ。そんな状況に寂しさを覚えつつ、頭を撫でてやる。
「また誕生日になったら魂が宿るのかね」
「さァな。だが、そうだったらいいな」
モフモフ達が来た昨日はいちご牛乳を勝手に飲まれるし、着流しは汚されるしで振り回されたけれど、楽しかった。だから俺も高杉の言葉には同感だ。
「朝飯、何にする?」
「和食なら何でも」
「ご飯とみそ汁でいい?」
「あァ」
返事を聞いた俺は片手を上げて返事をし、洗面所へ向かった。
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ミニモフ達に真ん中誕生日をお祝いされる高銀でした。
お祝いというか、2人がミニモフに振り回されていただけなような気もしますが、私は書きながら全力でお祝いしていました。
銀さん器用だから、次回魂が宿った時の為にカバンや白モフの口を拭くタオルを作ってあげていたりして……
とにかくミニモフが可愛くて、Xで流れてくる画像やイラストを見てほっこりしちゃいます。皆さまいつも癒しをありがとうございます。