つまみと酒ターミナルの一件から色んな事があったんだけど、俺も高杉もようやく平凡を取り戻して、互いの拠点を行き来できるようになった。まあ、高杉が万事屋に来る事の方が多いけどね。
今日は高杉の誕生日だ。
俺は誰もいない万事屋の台所で手動で生クリームを作っている。
「くっそー電動があれば! 電動があれば圧倒的に楽なのに!! 昨日買い出し行ったついでにどっかで借りてくれば良かったああーー」
それは昨日の出来事だった。
「凄い荷物だな、銀時」
背後からヅラに話しかけられる。
「んあ、ヅラか。そう、俺今忙しいからまたなー」
コイツに深堀されたら面倒だからそそくさと去ろうとしたものの、
「ふむ、明日は高杉の誕生日だからその為の買い出しか。なるほど」
だよねー
わかっちゃうよねー
「そうそう、だから俺忙しいの。お前に付き合ってる暇はないの。じゃーな」
「俺も一緒に祝おうではないか」
「多分アイツも嫌な顔するから来ない方がいいと思うけど」
ついでに手でシッシッとしておく。
「俺も銀時の食事が食いたい」
「そっちかよ! 祝う気ゼロじゃねーか!」
「あんなヤツを祝う気などあるものか馬鹿者」
「いや、最初に祝いたいって言ったのお前……」
そうやって俺が呆れても尚、勝手に喋り続けるヅラ。
「ケーキを作るのか?」
「そーだよ。一応甘さ控えめにするつもりだけど、ほとんど俺が食うだろうな」
「むしろお前好みのケーキを作ってやったらどうだ?」
「だってアイツ、甘いの嫌いじゃん」
オメーも知ってるだろうが、と不貞腐れた顔でヅラを見ると、ヅラはニヤと笑う。
「だからこそだ。今から未来の嫁の味に慣れてもらうんだぞ、銀時」
そう言って俺の肩をポンと叩き、ヅラは去って行った。そしてヅラの後ろにいたエリザベスが『式には呼べよ』という札を見せながら去って行った。
「うおおー! 嫁ってなんだコノヤローー!」
回想が終わった後、何とも言えない気持ちを少し立ってきた生クリームにぶつけた。
+++
夜になった。
約束の時間である22時を少し過ぎた頃、万事屋のインターホンが鳴った。玄関に映る影を見て躊躇なく開けると、いつも通りの高杉が立っていた。
「約束通りの時間だね。流石高杉くん」
「遅くなったら怒るのはテメェだろ」
「そりゃそうだ」
どうぞなども言わずに家の中を進むと、高杉も後ろを付いて来る。
「つまみと酒でいい?」
「あァ」
冷蔵庫に用意していたつまみと酒を持って居間に戻った。すると案の定高杉の眉間に皺がよる。
「おい、それのどこがつまみと酒だ」
「つまみ(ケーキ)と酒(シャンパン)だ」
返す言葉もないと言った表情をする高杉に心の中で笑う。
「オラ、食いやがれ。俺の手作りだからうめーぞ」
そう言いながら雑にフォークで刺した苺のケーキを無理やり押し付けると、渋々口を開ける高杉。
「甘ェ……」
「どーせ今までしょっぺーもんばっか食って生きてきたんだろ」
「テメェと違って年中甘い息吐き散らかしてねェんだよ」
そう言われた後、一呼吸置いてから口を開いた。
「だからこれからは毎日毎日甘いもんばっか食わせて甘党にしてやるから、覚悟しろよ馬鹿杉!」
少しムキになって言ったせいか、心臓がバクバクする。対して高杉は一瞬驚いた表情をしたものの、直後にはいつもの悪人面で笑った。
「ほう……それはつまり、毎日テメェの飯食わせるから覚悟しろって事か」
「ンな事言ってねーし! 都合の良い解釈すんじゃねー」
「明日は肉じゃがが食いてェ」
「あー肉じゃがね、検討するわ……じゃねーんだよ! ほんっとお前って独善的な勘違い野郎だな!」
俺にそう言われても余裕ある表情でシャンパンを飲む姿はムカつく程様になっていた。
そんなヤツでもまあ、好きになっちまったもんはしょーがねえよな。
「高杉」
「あ?」
無言でケーキに乗っていた『誕生日おめでとう』のチョコプレートを突き出す。
「ありがとよ」
高杉はそう言って嬉しそうにチョコレートを口に含んだ。
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2025年高杉誕生日のお話でした。
銀時の「つまみ(ケーキ)と酒(シャンパン)だ」はカッコもカッコの中身も声付きで脳内再生して下さいませ。
そして翌日は銀時が肉じゃがを作ります。健気ですね。