ノーカウント「この辺りの敵はあらかた片付いたか」
そう言いながら刀を鞘に納める。
拠点へ帰ろうと足を向けた時、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「高杉さん!」
「どうした? お前は銀時の隊の奴か?」
「銀時さんが、天人に連れて行かれてしまいました……」
その瞬間、辺りがどよめく。
「あの銀時さんが?」
「信じられねえ、どんな天人だよ……」
どよめきを止めるべく、俺は息を吸い込む。
「落ち着け。おい、詳しく聞かせろ」
あいつが黙って連れて行かれるわけねぇんだよ。
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詳しく聞かされた結果、隊の奴らを見逃す代わりに自分が人質になったんだと。
「状況はわかった。俺が行くからお前達は拠点に戻れ」
「高杉さん、お一人で大丈夫ですか?」
「拠点に戻ったら桂や坂本に伝えろ。それがお前達の仕事だ」
そう言うと隊のヤツらは承知しましたと言って去って行った。変に人連れてって人質を増やすのも面倒だからってのは伏せて正解だったな。
「さて、と」
それに、敵の目的は白夜叉と鬼兵隊総督の首らしいからなァ。自ら行ってやった方が向こうも喜ぶだろうよ。黙って斬られてやる気もねェが。
そう思いながら俺は敵の拠点へ向かった。
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敵の拠点にはあっさり辿り着いた。
不自然な程誰もおらず、慎重に歩を進める。まるで誘導されているようだ。
広い場所に入った途端、柵が閉められた。閉じ込められたようだ。
前から天人が二人出てくる。一人はもう一人を誘導していた。その誘導されている人物が銀時だった。
様子を伺うと、銀時は抵抗する事もなく、黙って後ろを歩いている。抵抗する機会を伺っているのだろうか。
「来たな高杉」
「言われた通りにしたまでだ」
「今の白夜叉の状態、お前にわかるか?」
「何をした?」
「さぁな。俺は高杉を殺せと言っただけだ」
すると銀時が刀を抜いて向かってきた。
明らかに俺を狙っていたのですかさず刀を抜いて刃を合わせる。その時間近で見た表情は目に力がなく、ただ俺を殺す為に動いている、いや、動かされているようだった。
こいつと手合わせは何度もした事はあるが、殺し合いはした事がない。俺を殺す気でいるこいつと、助けようとしている俺、どちらの気が強いかと言われれば前者だ。
「っ、銀時……目を、覚ませ!」
そんな俺の声は届いていないようだった。
何を盛られたか知らねェが、こいつの意識を戻さねば殺される。なら、手荒だが弱らせるしかない。そしてこいつを弱らせるには、殺し合うしかない。
俺は意を決して刀を振った。
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打ち合い続けてどれくらい経っただろうか。
俺の傷も増えているが、銀時にも同じくらいの傷をがある。
だが、天人の奴らが俺らの戦いを黙って見ているはずがねェんだ。いつ何が起こるか……
その時だった、目の前に閃光弾のような物が撃たれる。続けて砲撃音がした。だがどこから飛んでくるかわからず、防御をするしかなかった。
「……?」
痛みが来ず、おかしいと思った俺は目を開く。
すると刀を振り終えた銀時の背中が見えた。
砲弾を真っ二つに切り落としたらしく、左右に散って爆発していた。
「テメェら戦いの邪魔するなんざ、わかってんだろうな?」
さっきまで俺の声すら届いてなかったのに天人にそんな口叩くなんざ……こいつ、途中で意識を取り戻していやがったか?
「こいつは俺の獲物だ。邪魔すんならまずはテメェらから叩っ斬ってやる!」
銀時は意識のあるはっきりした口調でそう言い放ち、敵に向かって行った。
その後は二人で天人達を全滅させ、残っていた砲弾を使って拠点ごと潰してやった。
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その夜。
本気で打ち合った結果、互いに傷だらけになった俺と銀時は隣同士で床に伏せていた。
「おい銀時、俺と打ち合ってた時はいつから意識取り戻したんだ?」
「あー……打ち合い始めて数分後くらい?」
「へェ」
「いやだってさ、急に辞めたら奴らに怪しまれるだろ? だから何か起こるまで機会を伺ってたんだよ」
「何言い訳してんだ。別に何も言ってねェだろ」
「あ、まあ、そう、だね……」
しどろもどろに話す銀時が可笑しくて少し笑えてきた。笑うのも痛ェから控えめに笑う。
「ふ……何盛られたんだか知らねぇが、やっぱりテメェはつえぇな」
「そんな傷付けられたのに何で笑えるんだよ、お前」
「真剣でテメェと本気で打ち合う機会なんざあまりなかったからな、なかなか楽しかったぜ。ま、今日は途中で奴らに邪魔されたからノーカンだがな」
本当にそう思ってるからそう言ったものの、銀時の表情は冴えない。
「……何を気にしてんだ」
「気にするさ。意識がなかったからとは言え、仲間を自ら傷付けちまったんだから……」
こいつにそんな事を言われるなんて思いもしなかったので、一瞬目を見開いた。
「銀時……」
「俺はお前がいなくなったらすげー悲しむから……もっと自分を大切にしろよ」
泣きそうな声でそう言われ、抱きしめてやりたかったが、体中負傷しているので腕を伸ばして銀色のふわふわした髪に触れる。
「そうだな、気をつける」
しばらく静寂な空気が流れたが、銀時の体が小刻みに揺れる。
「……おい、今度は何笑ってんだ?」
「互いにガラにもねぇ事言ってんなって思ったら笑えてきた」
「笑うのも痛ェだろ、やめとけ」
「っ、いてて……」
「もう寝るぞ」
そう言って俺は銀時に背を向け、寝る体勢を取る。
「高杉」
目を閉じた所で名を呼ばれた。
「その、なんだ、さっきのは嘘じゃ、ねぇから」
「……あぁ」
「おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
挨拶をした後再び目を閉じると、疲労のせいかすぐに眠りについた。
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攘夷時代の二人。
好き合ってはいるけれどハッキリ伝えてないので付き合ってはいない。戦中でそれどころじゃないだろうってのもありますが……
二人が十代なのは美味しいですよね。戦中ではあるけれど妄想が広がって膨らみます。