揶揄うのも程々に「高杉、昼飯ラーメンにしようぜ」
午前の仕事終わり、銀時にそう言われた。
「構わねェが、珍しいな」
「知り合いがラーメン屋やっててさ。まだ行った事ないだろ?」
「この街に来てからラーメン屋は行ってねェ」
「じゃあ決まり。後ろ乗れよ」
そう言いながら銀時はヘルメットを投げ渡す。
それを受け取って頭につけた後、原付の後ろに乗った。
そして走る事約十分。
看板に『北斗心軒』と書かれたラーメン屋に着いた。銀時は慣れた足取りで戸を開けて暖簾をくぐる。
「いらっしゃい! あら、銀さん」
そう言うのはカウンター越しに立つ店主と思われし女。外見はなかなかの美人で、ラーメン屋をやっているようには見えない。
それよりも俺はカウンターの端に目が行った。
「……ヅラじゃねェか」
その人物を見ながらそう言うも、いつもの台詞が飛んで来ず、罰の悪そうな表情をしたヅラと目が合う。しかしこんな所で松下村塾の塾生が揃うなんてなァ。
「高杉、ヅラはほっといてこっち来いよ」
銀時に呼ばれて隣に座る。座った直後に水が置かれた。
「お客さんは初めてだよね? 銀さんとあの人の友達?」
そんな甘っちょろい関係じゃねぇんだが、世間から見りゃ俺達はそういうもんなんだろう。
「まァ、そんなところだ」
何か反論されると思っていたが、店内という事もあってか、銀時もヅラも何も言わない。
それを良い事に品書きをざっと見る。しかしこの店には初めて来たんだ。醤油ラーメンを食っておくのが間違いないと思った。
「高杉何にする?」
「醤油ラーメン」
「ん、じゃあ醤油ラーメン二つ頼む」
「はいよ」
ラーメンが出てくるまでの時間、銀時に気になる事を問う。
「ここはお前もヅラも贔屓してる店なのか?」
「ま、そんなところだ。ヅラは俺よりも通ってんじゃね?……別の意味でな」
そう言う銀時の表情で俺は察した。
別の意味……へェ。
「銀時、聞こえておるぞ。そいつに余計な事を言うでない」
「ふぅん、別の意味ねェ」
ニヤと笑いながらヅラを見る。
いつも涼しい顔をしているが、今のように少し焦ったヅラの表情はなかなか珍しい。
そんな話をしている内に醤油ラーメンが出てきた。
「はい、お待ち」
見た目は素朴な醤油ラーメンだ。
変わり種よりも素朴な方が好きな客はたくさんいるだろう。俺もそうだ。
「お、今日はチャーシュー多くない?」
「ご新規さんを連れてきてくれたからサービスだよ」
銀時と店主のやり取りを聞きながら口角を上げ、割り箸を割った。
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昼食のラーメンを食い終え、店の外に出た俺は銀時に話しかける。
「あれがヅラの好きな女か?」
「あ、わかった?」
原付を走らせてしまうと話せなくなるから乗る前に話す。
「俺にそれを見せたかったんじゃねェのかよ」
「お前に幾松……あ、あの店主は幾松って言うんだけど、あいつのラーメン食わせたかったってのが一番の目的で、ヅラの事は二の次だ。もしヅラがいたら揶揄うついでにお前に教えてやろうと思ってたけど、やっぱり今日もいやがったなぁ」
「毎日来てんのか、あいつ?」
「多分ね。俺行くと大抵いるもん」
へぇ、あのヅラがねぇ……
「ま、いいじゃねェか。くっついたら祝ってやろうぜ」
俺達がこうしてんのも、あいつのおかげってところもなくもない。
幼い頃からずっと一緒にいたんだ。そいつが幸せになってくれたら嬉しい。悪ガキだの言われてた俺らにもそんな気持ちくらいはあるさ。
それは多分、銀時も同じ気持ちだろう。
「そーだね。あいつが好きな奴と一緒になってくれたら嬉しいよな」
なんて思ってたら口に出してくれやがった。
「そう思ってんなら、あんま揶揄ってやんな」
そう言いながらヘルメットをつけて原付の後ろに乗る。
「あ、そういや幾松んちの実家、有名な反物屋だぜ。今度行ってみる? 知り合いだって言えば割引してくれるかもしんねーよ?」
「ふ、そいつは今度行ってみるしかねぇなァ」
そんな会話の後、原付は発進した。
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アニメのヅラと幾松さんの回、初期も後期のも好きだからよく見ます。
全てが終わったらくっつくのかな?
うーん、どうなんでしょう。そこらへんも色々想像できますね。