自販機の苺冷たい空気が肌を刺すこの季節。
用を済ませ、今の家である万事屋に帰る途中の事だった。
視線の先に珍しい物が見えて近づいてみる。
それは自販機。
ただの自販機ではなく、果物や野菜が入ったロッカー式の自販機だった。
内容を見ると、五段ある内の上から三段は苺で敷き詰められ、残りの二段は蜜柑や葉物野菜が入っている。
最近テレビを見ながら銀時が苺は今が旬だと言っていた。この自販機の内容を見る限りそうなんだろう。
銀時の顔が浮かんだなら買ってくかと思い、苺をじっくり見る。品定めだ。
どれも実は赤くて艶があり、ヘタも緑で新鮮である事がわかる。そして上段の方が値段が高い。大きさが違うからだろう。
ま、大きけりゃ文句もねェだろう。
そう思い、書かれた値段を気にする事なく上段の苺を買った。
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「ただいま」
鍵が開いていたから誰かいるだろうと思い、挨拶しながら玄関を開ける。すると銀時が迎えてくれた。
「おけーり……って、苺買ってきたの?」
「あァ。お前、好きだろ」
履き物を脱ぎながら苺を銀時に渡す。
銀時は冷蔵庫へ苺を入れに、俺は手洗いを済ませてから長椅子の部屋に向かう。
煙管に火を着けて一服していると、向かいの椅子に座る銀時が口を開いた。
「お前がスーパーに寄るなんて珍しいね」
「あれはスーパーのじゃねェ。自販機のだ」
「自販機?」
「さっきたまたま見つけてな。美味そうだから買ってきた」
「へぇ、じゃあ早速少し食べるか。お前も食う?」
「俺は一つでいい。あとはお前が食いな」
そう言うと銀時は台所へ向かい、苺を乗せた皿を持って戻ってきた。
「すげー美味そう。いただきまーす」
口に入れた瞬間、嬉しそうな銀時の顔が更に緩んだ。苺を味わって飲み込んだ後、嬉しいをこえて幸せそうな表情のまま俺を見る。
「うっっま! 何この苺、すっげー甘い」
「そいつは良かった」
「また買ってきてって言うかいくらしたのこれ?」
「確か九百円だったか」
「え、そんなにしたの!? でも確かにこの内容じゃそれくらいするよねー、店で買ったらもっと高いだろうから九百円じゃ安いかも」
百貨店で買うような苺だとか銀時は騒いでいるが、値段なんかどうだっていいんだよ。
「銀時」
「何?」
「テメェが喜ぶなら九百円なんて安いもんだ。気に入ったならまた買ってきてやる」
そう言ってやると、銀時は頬を赤くする。
「……今度は一緒に買いに行こうぜ。その自販機の場所、知りてぇし」
「あァ、そうしよう」
そう返事をした後、苺を一つ取って食べた。
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銀時が喜ぶなら安いもんだと言ってる高杉が書きたかった。
実際うちの近所にこの自販機があるので、リアルネタです。年明けくらいから販売されるそこの苺がとても美味しくて毎年楽しみにしています。
値段もスーパーの物より高いけど、某有名フルーツ店のケーキに乗ってる苺より美味しいと思うので、そう考えると安いと思っています。
自販機のイメージができないという方はロッカー式自販機で検索してみて下さい。