良い米で炊く飯は甘い今日は銀時の家である万事屋に行く日だった。
昼過ぎに携帯で『これから向かう』とメッセージを送信してから万事屋に着くまでに返信はない。どうせ寝てるか漫画でも読んでいるかしているのだろうと思い、返信の有無は気にしていなかった。
しかしあいつの好きそうな菓子を手土産に万事屋の呼び鈴を押しても反応なし。流石に首を傾げる。
「まだ寝てんのか? 鍵は……かかってねェな」
不用心だな、と溜息を吐いた後中に入る。
「おい銀時、いねェのか?」
そう言いながら広間に行くも、誰もいない。
片っ端から部屋見てくしかねェなと思った時、隣の部屋から俺を呼ぶ弱々しい声が聞こえてきた。声のする部屋を開けると熱があるらしく、顔の赤い銀時が布団からいつも以上にぼんやりした表情で俺を見ている。
「そういや、今はまさに季節の変わり目だったな」
「相変わらずどうでもいい事覚えてんのな……」
喋るのも辛そうだったからもう喋んなと告げて布団を掛け直してやる。ついでに額のタオルも側に置かれていた桶の水で濯いで付け直す。
「飯は?」
「食ってねえ」
「薬も?」
「この家にそんな物あるわけねーだろ……」
「風邪薬ぐらいは常備しておけ。仕方ねェな、買ってくるから待ってろ。他に欲しいモンは?」
「いちご牛乳……と、米も」
「米もねェのか。どんな生活してんだお前……」
こいつがいなきゃこの地は救われなかったんだから、米くらい問屋に言えば喜んで運んでくれそうだが……ま、こいつがそんな事頼むわけねェか。
「あ、米買うなら定春も連れてけよ。荷物持ちになるから……」
そう言われて側にいたでかい犬、定春と目が合う。
米運ぶくらい大した事でもないが……こいつも主人を助けたい気持ちがある、か。
「わかった。行くぞ」
定春の頬を撫でてやると、ひと鳴きした後着いてきた。
+++
定春を連れて歩くのは目立つ。
途中巡回中の狗共にも遭遇したが、事情を話したら「万事屋に安静にしてろって言っとけ」と告げて去っていった。
まずは薬局で風邪薬を買い、スーパーでいちご牛乳とヤクルコを取った後に米を見たが、どうせ買うなら……と思い、行きに通った米屋で買う事にした。
「っ、いらっしゃいませ」
挨拶の前、俺を見た店主が一瞬目を見開いた気がするが気にしない事にする。
「この店で一番良い米を10キロくれ」
あの家で10キロなんざすぐ終わっちまうかと思ったが、とりあえずで買ってやるんだから十分だろう。
「こちらかこちらになりますね。どんな米を希望ですか?」
「甘みのある米が良いな」
「でしたらこちらですね。炊くと味のあるご飯になりますよ」
「じゃあそれにする。いくらだ?」
「七千円です」
財布から七千円を出してトレーに入れる。
「ありがとうございます。……あの、あなたは鬼兵隊の総督様でいらっしゃいますか?」
テロリストでなく、総督と呼ばれたのは意外だった。
「……あァ」
「その、攘夷戦争の頃……息子が、世話になったようでして」
だから俺を見て目を見開いたのか。そして俺はこの店主に刺されても受け止めなければならないな。
「そうか……すまなかった」
「とんでもない! 息子は帰らぬ人となりましたが、息子からの文にはあなた様の事がたくさん書かれていて、良い方々に出会えたのだなと思っておりました」
「文に?」
「ええ。息子は自らあの戦争に行く事を決め、あなたの隊に入った。そんな彼の成長した姿が文から感じられて親としては嬉しかった。そして息子はあなたが今を生きていてくれて幸せだと思っているはずです」
その後、涙を浮かべてありがとうございましたと頭を下げられた。
+++
買い物を終えて万事屋に着いた。
米を運んでくれた定春に礼を言い、皿にドッグフードと水を盛ってやる。
そして寝ている銀時の部屋に行くと、ぼんやりした表情と目が合った。
「おかえり」
「あァ。お粥なら食えるか?」
「うん。全然食ってないから流石に腹減った……」
「わかった。これ飲んで待ってろ」
そう言いながらスーパーの袋からいちご牛乳とストローを側に置き、台所へ向かった。
冷蔵庫を見たら昨日で期限が切れている卵があったのでといてお粥に入れてやる。期限切れでも熱加えりゃ平気だろ。少し味をつけて食い易くしてやったら完成だ。
できたお粥を梅干しを置いた小皿と共に盆に乗せて銀時の部屋に持って行く。
「熱いから気を付けろよ」
銀時がお粥を食べる姿を眺める。
「この米、美味いね。いいヤツ買ったの?」
「あァ。たまたま寄った店だが、息子が攘夷戦争に行って鬼兵隊で世話になったらしい」
「えっ、それってお前んとこにいたって事?」
「そうだ」
「源外のじーさんのとこもだし、この街から意外といるんだな」
「そうだな……」
視線を銀時の布団に向けながらそう返事をする。
「何よ、元気ないじゃん。お前までそんなんじゃ定春が可哀想だろ」
「別に、色々考えてるだけだ」
「店主に何か言われたの?」
「ありがとうございましたって頭下げられた」
「へっ、なら心配いらねぇな。墓参りに行くなら風邪治ったら付き合うぜ」
墓参り、か。
「そうだな、頼む」
そう返事をすると、梅干しまで食い終えた銀時と目が合う。その穏やかな表情につられながら盆を受け取った。
+++
食器を片付けた後、薬を飲んで安静にしている銀時に問う。
「銀時、米が毎週届いたら迷惑か?」
「えっ、全然迷惑じゃないけどどういう事?」
「うちと、お前の家の分をあの米屋に送ってもらおうかと思ってな。金なら俺が出す」
そう言うとなるほどね、と言った銀時が穏やかに笑う。
「お前がそうしてやりたいなら構わないよ」
「分かった。近い内に店主に伝えておく。届く日が決まったら連絡入れる」
それから桶の水を取り替えに行き、濯いだタオルを銀時の額に付け直してやる。
「さて、俺ァそろそろ帰る」
「うん、色々ありがとな。それと約束果たせなくてすまねェ」
そう、今日は二人でその辺をぶらつこうと緩い約束をしていた。
「今日の約束ならいつでも果たせる。だからさっさとソレ治せ」
「そうだな。治ったら連絡入れるわ」
「お粥はまだ鍋にあるから腹が減ったら食え。茶菓子も買ってきたから皆で食いな。あと冷蔵庫にヤクルコ入れといたからそれも飲めよ」
「えっ、ヤクルコも買ったの? てかヤクルコって風邪にもいいわけ?」
「最近のヤクルコはストレスや睡眠にも良いらしい」
「それ風邪とは関係なくない? まあいいや、貰っとくわ」
そう言って寝に入る銀時を見た後部屋を出ると、定春が俺を見ていたので頬をひと撫でして玄関に向かった。
「わんっ!」
履き物を履いている時に着いてきた定春が鳴いた。銀時の事は任せろ、とでも言っているのだろう。
「銀時の事、頼む」
そう言った後万事屋の玄関に手をかけた。
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最初に頭の中で描いていたものとは違う内容になりました。なんだかお米が中心の話になってしまったのでタイトルもアレで。
でも書きたいものが書けたので満足。高杉に定春を連れて歩いて欲しかった、など。
JOY3は定春に顔食われるの体験済みだから高杉も……と思ったけど、なぜか高杉だけはされなくて三人から文句言われるのも面白いかな。
余談
美味しくてやや高級なお米の相場、5キロで3500円と見て10キロで7000円にしました。
良いお米のご飯は艶と甘みがあって美味しいです。