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    mdrm222utut

    @mdrm222utut

    微睡(まどろみ)と申します。
    東リべ文字書き
    🎍受中心の🌾🎍、🐶🎍、灰🎍
    無自覚愛され主人公 × 激重感情攻めに弱い

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    mdrm222utut

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    タケミっちに兄真一郎の姿を重ねた人外(鬼神)マイキーが激重感情を抱えて外堀から埋めて囲うまでのお話。

    ※内容重めです
    ※モブやタケミっちの架空の家族(両親と祖母)が登場します
    ※人を選ぶ内容のため、読まれる際はご注意下さい

    #東リべ
    #東京【腐】リベンジャーズ
    #マイ武
    #🌾🎍
    #二次創作
    secondaryCreation

    籠鳥檻猿 古い知人から干からびた小さな猿の前脚を譲り受けた。
    「猿の手」と呼ばれるそれには三つの願いを叶える事が出来るまじないがかけられており、譲り受けた老夫婦とその息子はまず手始めに家のローンの残債を支払うべく二百ポンドを授けて貰えるよう願ったが、その日は特に何も起こらなかった。
    ────しかし、この願いは思いも寄らない形で叶えられる事となる。
    翌日、息子が勤務中機械に巻き込まれて亡くなり、息子の勤める会社はこの件を公にしないで欲しいという理由で老夫婦に補償金二百ポンドを支払いたいと申し出てきたのだ。
    老夫婦は息子を埋葬した後もショックのあまり何が起きたのか分からず、十日経っても老母はすっかり生きる気力を失っていた。
    そんな折、「猿の手」の事を思い出した老母は「息子を生き返らせて欲しい」と願う。
    玄関扉からはノック音が聞こえ願いは叶ったと思われたものの、「きっと扉の向こうには自分達の知っている姿の息子がいるのではない」と悟った老父は、三つ目の願いを「猿の手」に囁いた。その直後ノック音は止み、扉を開けると人気のない静かな通りをただ街灯が照らすだけであった。
    W.W.ジェイコブズ著『猿の手』

    卍卍卍

    武道の両親は共働きで、小学校へ上がると夏休みは母方の祖母の家に預けられるようになった。
    祖母は一人暮らしで、田舎でよく見る昔ながらの平屋の大きな日本家屋に住んでいた。
    東京から車で三時間の小さな集落に祖母の家はあるため、武道の住む東京のように遊園地やショッピングモール、ゲームセンター、動物園といった娯楽・商業施設なんてものはなく、それどころか一緒に遊べる同世代の子どもさえいない限界集落っぷりを発揮していた。

    そのためやる事と言えば、川遊びか山に行って虫を捕まえに行く事か、気まぐれで祖母の耕す畑の手伝い、テレビゲーム 、東京よりも数日遅れで放送される子ども向け番組であるアニマル戦隊モウジュウジャーを観て一人モウジュウジャーごっこをする事くらい。
    要するに平成に生きる小学生にとっては娯楽という娯楽から隔離された「監獄」のような場所であった。

    卍卍卍

    武道にとって「監獄」であるこのド田舎に小学三年生の夏も例外なく両親によって預けられ、そこでの生活も残り一週間を切ろうとしていた頃、武道は子どもにとってのご褒美である夏の長期休暇がこんなにも苦痛だと感じているのは世界で自分一人であろうと悲劇の主人公になった気分だった。
    しかし、こんな「監獄」でも唯一の楽しみがあった。
    それは毎年夏の終わりにこの村の神社で執り行われる夏祭りだ。

    武道が小学一年生になってから毎年夏になれば祖母の家に預けられているため、この夏祭りに参加するのも今年で三度目になる。
    武道の住む東京都内は色んな居住形態や家庭事情があり、ご近所さんと協力して行う行事ごととは縁遠かった。
    「日本〇大祭り!」のような有名な祭りは都内で開催されるものもあるが、そういった類は参加者の多さや祭りへの本気度が高すぎて子どもが楽しめるようなものでなく、都内に住む子どもの武道には祭り自体あまり馴染みがなかった。
    一方、この村の夏祭りは、町内会主催のアットホームなものでキャラクターもののお面や手作りの輪投げなど子ども向けの出店が多く軒を連ね、武道でも楽しめるラインナップが豊富にあった。
    さらに夏祭りは祖母の家に預けられる最後の夜に行われるという事もあり、この「監獄」で過ごしてきた自分へのご褒美のように思え、娯楽に飢えた幼い武道にとっては最高の一日であった。

    卍卍卍

    トマトやピーマンなど畑で取れた野菜も苦手ながらに毎食鼻をつまみもって口に放り込み、遊びに行くところと言えば川か山かの二択の日々。
    カラカラに乾ききった武道の幼心にとってついに待ちに待った夏祭りという名のボーナスステージがやってきた。
    初めて祖母の家に預けられた時はまだ幼かった事もあり(今でも十分幼いが)、川遊びや東京にはない物珍しいもので多少は気を紛らわせる事は出来たものの、今年の夏休みはいよいよ限界を感じていた。
    友達もおらず、行く場所もやる事もこれといってない(宿題は手つかずだが)ため、武道のやる事と言えば大袈裟でも何でもなく夏祭りまであと何日かというカウントダウンだけであった。
    武道は翌日バタバタしないために東京へ帰る支度を午前中のうちに終わらせ、日が傾き始めた頃に祖母に連れられ夏祭りの会場である村で唯一の神社、武蔵神社へと向かった。
    祭り会場は、ずらーっとリンゴ飴や焼きそば、輪投げやおめんなど祭りならではの出店で賑わっていた。
    武道は会場について早速スーパーボールすくいをし、アニマル戦隊モウジュウジャーの中でも特に武道が大好きなライオンレッドのトレードマークである赤いマントをくじ引きで見事一発目に引き当てる事が出来てすっかり上機嫌だった。
    次は何をおねだりしようかときょろきょろ辺りを見回していると、祖母の家の近所に暮らすトメさんとばったり出くわした。
    トメさんには娘さんが一人いるらしいが、結婚を機に遠方へ引越し家族と一緒に住んでいるためあまり会えていないらしく、会えばおいしいお菓子をくれたり、「武道ちゃん」と呼んで武道を実の孫のように可愛がってくれた。

    「武道ちゃん、いいものたくさんもってるわね〜。おばあちゃまに買ってもらったの?」

    「うん」

    トメさんは、武道に「それはよかったわねえ」と上品ににっこりと微笑むと、武道の分からない話で祖母と盛り上がり始めた。
    二人は武道の存在も忘れ、話に花が咲いているため必然的にお祭りモードは一時中断となった。
    小学三年生の暴れ盛りの辞書には”じっとする”なんて言葉は載っていない。
    さらに夜と言えど茹だるような夏特有の暑さ、加えてやる事もなく手持ち無沙汰というダブルパンチに武道は目に見えてどんどん不機嫌になっていた。
    そんな武道にチャンスが訪れた。
    武道の左手を握っていた祖母の力が少し緩んだのだ。
    話が盛り上がっている事を確認し、祖母の手を気付かれないようにそっと離し、すぐに戻るつもりで二人の元を後にした。

    卍卍卍

    実は武道にはのんびり祖母に付き合っていられない理由があった。
    遡ること二年前、当時小学一年生の武道は夏祭りでスーパーボールすくいに挑戦した際に全くすくう事が出来ず、店の前で祖母の手をやくほど大泣きした事があった。
    そんな武道を見かねた店主のおじさんが「絶対に内緒だからな」とスーパーボールを上手にすくうコツを教えてくれて、次の年武道がリベンジしたところおじさんもうなるほどの腕前に成長していた。

    今年も武道は、祭りに到着して真っ先に三年前にコツを教えもらったおじさんのいるスーパーボールすくいの出店へと向かった。
    「よう坊主!久しぶりだな」と大きな手で武道の頭を撫で、「いっちょやってくか?」と言うおじさんからポイとアルミのボウルを受け取り、代金を支払った。
    ────結果は、これ以上にないものだった。
    武道は前年よりもさらに腕をあげ、

    「こんなに取られちまうとうちも商売上がったりだ!なかなかやるじゃねえか。今日の一等は坊主で決まりだな!!」

    とおじさんが座っていたパイプ椅子の下に置いてあるダンボール箱から徐に駄菓子の詰め合せを取り出し、「すごいぞ坊主!」と先程よりも強い力でごしごしっと武道の頭を撫でた。
    おかげで髪の毛はぐしゃぐしゃになったが、「一等賞ってことは”一番すごい”ってことだよね」とおじさんに褒めて貰えた事で武道は至極ご満悦だった。
    今の気分を損なわないうちにゆっくりご満悦タイムに浸りながら戦利品を見たかったので、武道は物静かで人通りの少ない場所を求めて歩き出した。

    卍卍卍

    この村には「兄弟山」と呼ばれる高低差のある連なる二つの山があり、祭りの会場となるのは高く山頂が平らな「兄山」、兄山に比べて低い山を「弟山」とこの村の人々は呼び、夏祭りの会場である神社の奥にはこの二つの山を繋ぐ森が広がっていた。
    祖母からは、なぜか「神社の奥の森」と兄山の対となる「弟山」には絶対に行ってはいけないと口酸っぱく言われていたため武道は行った事がなかった。

    武道は今、祖母の言いつけを破ろうと二つの山を繋ぐ森の入口の前に立っていた。

    「おばあちゃんもオレのことをわすれてトメさんとたのしそうにしてるんだし……ちょっとくらいいよね」

    武道は森の中に足を踏み入れた。

    祖母の言いつけを破ってしまった事でバレたらどうしようというドキドキ、好奇心、冒険心などの感情がごちゃまぜになり、少しハイになった武道は足早に森の中を進んで行った。

    卍卍卍

    歩き出して十五分ほど経った頃、薄暗い森を抜けると突如二本の大木が左右から高く伸び、その木と木の間を円を描くようにぽっかりと空いたちょっとした砂場が現れた。(砂場と言っても薄く砂が敷かれているだけで砂遊びは出来そうにないが)
    そこは先程までの整備の行き届いていない草木が生え放題の森の中と違い 草一本すらも見当たらず、左右から生える大木のうち向かって左の木のそばにある一本の街灯が日が暮れ始めているその場を照らしていた。

    がらりと景色が変わった事で、武道は森を抜けたのだと分かった。
    その場に誰もいない事に気が付いた武道は、いい考えを思いついた。
    街灯のすぐそばに生えている木の根っこが地面の上に飛び出して大きく張っているため、そこに座れば祖母がこの日のために武道に誂えてくれた甚平を汚す事なく目的を果たせて且つ、すぐに片付けて来た道を戻ればここに来た事が祖母にバレて怒られる事もないのではないか、と。
    武道がここに着くまですでに十五分程度要しているため武道がいなくなった事がバレている可能性は高くはあるが、祖母の言いつけを破って”ここ”に来た事さえバレなければそこまで怒られる事はないだろうと武道は踏んでいた。
    そうと決まれば早速、出来るだけ汚れていなさそうな木の根の部分に腰を下ろし、戦利品であるスーパーボールを街灯の下、一つずつ袋から取り出し地面に並べていった。
    頭上の街灯に照らされ、キラキラと光るスーパーボールを眺める事に夢中になっていると突如背後から

    『なにそれ』

    と声が聞こえた。
    自分以外の人間がいた気配を全く感じていなかったため武道は驚いて顔を上げると、自分と歳の変わらないであろう少年が自分の真正面に立ち、地面に並べられたスーパーボールをじっと覗き込んでいた。
    その少年は、甚平に草履の出で立ちで、髪はゴールドアッシュ、体型も小柄なため自分よりも幼く見えた。
    ただ、少年の持つ瞳がその幼い容姿には似つかわしくない深淵の闇を体言するかのような色を纏っており、どこか不思議な魅力を纏う美しい少年であった。

    武道は格好から見て、きっと自分と同じ夏祭りにきたのだと直感し、

    「これねスーパーボールっていうんだよ!おまつりでオレが一番たくさんとったんだー!」

    「一等賞の景品ももらったんだー!」と先程まで丁寧に一つ一つ地面に並べていたスーパーボールを持てるだけ両手にすくい上げ、少年の目の前に持っていき見せた。
    祖母の家の近所には武道と歳の近い子どもがおらず、それどころか大人といっても六十代オーバーの高齢者が村の人口の大半を占めていた。
    この村で子どもを見るのは、このド田舎に預けられて三年目の夏にしてなんと今日が初めての事だった。
    普段の武道は気の小さいところがあり、自分から見ず知らずの人間に無闇矢鱈に話しかけたりする方ではないのだが、久しぶりの自分と同じ歳くらいであろう子どもと喋れる嬉しさからか、知らない人が話しかけてきても返事をしたり関わらないようにという言いつけも忘れ返答していた。
    武道の掌中にあるスーパーボールを珍しそうにじっと見つめる少年の瞳は、近くで見ると前に学校の図書室で暇つぶしに手に取った岩石や鉱物の図鑑に載っていたものと同じ輝きを放ち、見れば見るほど瞳の中に吸い込まれていくような不思議な引力を感じた。
    少年がスーパーボールに特別興味があるようには見えないが、スーパーボールの事を知らないようだったので武道は、

    「ほしいの?じゃあ、すきなのあげる」

    「どれがいい?」と尋ねた。

    『さっきからずっとここで大事そうに見てたじゃん。しかもすげえたくさん取れたんだろ?おまえにとって大事なもんを今、会ったばっかのダチでもねぇ俺みたいなのにやっていいのかよ』

    武道はそのような言葉がその少年から返ってくるとは思わず、少し考えた。

    「うーん……たしかにたくさんとれて一番になれることはうれしいけど、ひとりじめするよりも数はへってもともだちと一緒にあそべる方がたのしいもん!」

    武道がこう思うのには理由があった。
    この夏休み中、三時のおやつを祖母はいつも準備してくれていたし、テレビも祖母はほとんど畑に出ており家にはいないため大好きなアニメも見放題だったし、テレビゲームも常にコントローラーを独り占めする事ができた。
    東京での生活だと、テレビばかり見ていると「勉強なさい」「頭が悪くなる」と親から口うるさく怒られるし、おやつも友達と分けて食べると満足に食べる事が出来た試しがないし、ゲームも家族や友達でするため順番が回ってくるまで暇でいつもコントローラーの取り合いをしていたのでこの状況にラッキーと喜んでいた。
    しかしそれは最初のうちだけだった。
    ポテチも大好きな戦隊モノもお気に入りのゲームもどんどん興味がなくなっていったのだ。
    独り占めできるのって最高だと初めのうちは思っていたが、今まで自分が好きだと思えていたものは、誰かと楽しい事、嬉しい事、好きな事を分かち合えるからこそ芽生えていた気持ちなのだと武道は気が付いた。
    だからこそスーパーボールがたくさん取れた事は嬉しくはあったが、目の前にいる名前も知らない少年にあげる事は少しも惜しくはなかったし、何だったら初めてこの場所で出来た自分と同じ歳くらいの”初めての友達”と一緒に遊びたいと心から思っていた。

    武道が発した後、少年の方を見ると先程までのポーカーフェイスが一転、鳩が豆鉄砲をくらったように目を見開いて

    『真一郎……』

    と呟き、数秒の間固まった後、少年は悲しいとも嬉しいとも取れない何とも言えない表情をし、俯いた。
    「オレ、”しんいちろう”じゃないよ。”しんいちろう”ってだれのこと?」と武道が尋ねようとしたら、武道よりも早く少年の口が開き、

    『じゃあ…これ頂戴』

    と聞こえるか聞こえないかの小さな声で、武道の掌中にある水色の中に銀色の細かいラメの入っている小さなスーパーボールを一つ指さした。
    それは、スーパーボールすくいの店主のおじさんが「あたり」といっていた「大きくて目や口の描かれた赤いボール」や「七色に光るボール」「イボイボとした形のボール」とは違い「あたり」と呼ばれるボールの周りにたくさん浮かんでいた何の変哲もないスーパーボールでサイズが小さい分、スーパーボールの醍醐味である弾力もあまり期待できないようなどちらかといえばハズレに分類されるものだ。

    「これでいいの?おっきいのもあるし、もっとキラキラしたのもあるしよかったらほしいのぜんぶあげるよ?」

    武道が少年に尋ねると

    『これがいい。......おまえと同じ色だから…』

    今まで俯いていた顔を上げそのボールを受け取ると、先程よりも柔らかい嬉しそうな表情しながら少年は答えた。

    「じゃあこのスーパーボールはオレとキミの”ともだちのしるし”だね!」

    と武道が言うと、少年は『そっか』と大事そうに掌中のスーパーボール見つめぎゅうっと握りしめていた。

    卍卍卍

    少年に名前を尋ねたところ、名前を万次郎といい、武道も自分の名前を伝えたところ『じゃあタケミっちだな』と至極当然だとでも言うように出会って早々生まれて九年間、誰にも呼ばれた事のない変なあだ名をつけられた。
    「いくつなの?」と武道が尋ねると『うーん…タケミっちよりは年上かな』となぜか濁すような口調で言われ、『俺の事は万次郎って呼んでいいからな!』とニコッと笑って言われたが、年上と聞いた手前「呼びすてはなぁ…」と少し気が引けて、「万次郎くん」と呼ぶ事にした。
    その事に万次郎は、半ば納得のいっていない様子だったが

    『まぁ、”今”はいいや』

    と最終的にはその呼び方を受け入れた。

    簡単な自己紹介の後、最近捕まえた手のひらサイズの大きなカブトムシの話、大好きなアニマル戦隊モウジュウジャーのライオンレッドが大活躍した話、ヒーローに憧れて最近腹筋と腕立て伏せを始めた事など、武道にとって誰かに聞いて欲しかったとっておきの話を万次郎に話した。
    その話を万次郎は中断する事なく時折、『カブトムシの飼い方知ってんの?』とか『モウジュウジャーって何?』とか『タケミっちのつけてるマントはそのライオンレッドってヤツがつけてんの?』など相づちや疑問を交えながら聞いてくれて、武道にとって最高の聞き相手だった。
    ふと、自分ばかりが話をして万次郎が先程からずっと聞き役に回ってくれている事に気が付いた武道は、

    「ごめん万次郎くん…オレばっか話して、おもしろくないよね」

    としょげながら言うと

    『タケミっちは話すたんびに表情がコロコロ変わって、見てて飽きねえしおもしれぇよ』

    と万次郎は歯を見せてニカッと笑った。
    年下である自分の話にもつまらなさそうにする事なく、優しく接してくれる万次郎に一人っ子の武道は、「お兄ちゃんがいればこんなかんじなのかなあ」と誰もが一度は憧れる兄の存在に思いを馳せた。

    卍卍卍

    そんな取り留めのない話をしていた時、

    『そういえばタケミっちはどこから来たの?』

    と万次郎に尋ねられた。
    武道は祖母と夏祭りに来ていた事を万次郎という友達が出来た事で浮かれて今の今まですっかり忘れていた。
    行き先も告げずに祖母の元を勝手に離れた事、そもそもここがどこかすら分からないという事態にこの時ようやく気が付いたのだ。
    祖母には「行ってはいけない」と言われた森に来てしまっているため、きっと祖母は武道が今どこにいるのか検討もつかないだろうし、武道自身もここがどこなのかも帰り道も分からないため、家に帰れないかもしれない事への恐怖が現実感を増して一気に押し寄せ、武道の瞳からはとめどなく涙が溢れ出した。

    『たけみっち、ここに来るまで誰かと一緒だった?』

    と万次郎に尋ねられ、武道は祖母と夏祭りに来た事、祖母が近所の人と喋りだしてつまらなくなり黙ってここまで来てしまった事、今ここがどこかすら分からないといった不安という不安を放流したダムの如く万次郎に全て吐きだした。
    それを聞いた万次郎は、

    『 』

    と何か呟くと、武道の瞳の中を覗き込むように顔を近づけた。
    涙を拭うのに目を擦ったせいで赤く腫れ始めている武道の瞳を見つめながら

    『なぁ、タケミっち。ばあちゃんに会いたい?』

    と尋ねた。
    その声に武道は、

    「ひぃいひっっくっひぃっゔぅっう」

    と泣きすぎてひっくひっくと痙攣しながらも首を大きく一回上下して返答した。

    『じゃあ、その願い”叶えて”やる』

    「ぼっゔっほどにぃ…?」

    『うん、ほんと。”今”は、ばあちゃんの元に返してやる。だからさぁ、タケミっち。お前、今日から俺のモン!!な』

    と小首を傾げながら万次郎が言った。

    万次郎の言葉に「これで帰れるんだ。よかったぁ」と武道は安心した。

    ────が、それもつかの間。
    そもそも万次郎が今、出会ったばかりの自分の祖母の事を知るはずがないという事に気が付き、武道の上がりかけていた気持ちは再び奈落へと急降下した。
    きっと自分が九歳にもなってびいびいと年甲斐もなく泣くから少しでも気を落ち着かせようとしてくれたんだ、と万次郎の優しさを感じた武道は自分は大丈夫だから万次郎だけでも祭り会場に行ってもらうよう伝える決意をした。

    ────その途端、

    「武道!!!」

    声のする方を見ると、ものすごい形相の祖母がこちらに向かって走ってきていた。
    勝手に祖母の手を離し、約束を破って森に来てしまった事を怒られると思いきや、よく見ると祖母の顔は怒りの色ではなく血の気を感じさせないほどに青ざめており、武道を見つけるやいなや武道の手を痛いほど握り、一言も発する事なく歩き始めた。
    万次郎にお礼を言わなきゃと祖母に強く手を引かれながらも万次郎のいるであろう後方を振り返ったところ、そこには誰もおらず万次郎がいた気配すらなかった。

    卍卍卍

    家に着いた途端、武道を向かい合わせの状態で座らせた祖母からなぜあそこにいたのか、何かおかしな事が起こらなかったかなど怒濤の質問タイムが幕開けた。
    普段、温厚な祖母からは想像もできないようなただならぬ雰囲気を子どもながらに感じ、武道は祖母と会った時たまたまあそこにいただけで特に変わった事はなかったと伝えた。
    万次郎とあの場所で出会い、友達が出来た事はタイミングを逃して言う事は出来なかった。
    「何もなかった」という武道の言葉を聞いて祖母は一つゆっくり呼吸し、整えてから

    「あのね、武道。武道の立っていたところに小さな祠があったの見なかったかい?」

    と武道の眉の動き一つでさえも逃さないと言わんばかりにじっと武道の顔を見つめながら尋ねた。
    武道があそこにいたのは涼しくて静かな場所だった、加えてスーパーボールを広げるのにちょうど良かったからと言うだけで記憶を辿っても祠なんて見た覚えはない。
    そもそもあの場所は、街灯が照らす範囲から少しでも外へ出ると辺りは何もなく暗かったため、自分の周りに何があったかなど知る由もなかった。

    「みなかったよ」

    武道の返事に対して、祖母は「そう」と言って話を続けた。

    「武道のいた場所には、暗くてよく見えなかったかもしれないけど小さな祠があるのよ。
    祠っていうのは神様が祀られている小さなお社の事で昔、おばあちゃんのおばあちゃん、それよりももっと昔からそこにあるものらしいの。
    その祠に祀られてるのは、心優しい神様なんてものじゃない。
    あそこには恐ろしい”鬼”、”鬼神様”がいるの。
    その昔、鬼がここの村人全員を素手で食い殺す恐ろしい出来事があって、その鬼を鎮めるために都から有名なお坊様が来て、祠を立てて封じ込めたそうなの。
    ただ、とても力の強い鬼だったから封じ込めた後も、その祠の周りでは物騒な事が色々と起きたらしくてね。
    おばあちゃんがまだ子どもだった頃「絶対にあの祠には近づいちゃいけないよ」
    って耳にタコが出来るほど親に言われて。
    この村の人たちは、みんなそう言われて育ったからあそこには絶対に近づかない。
    その鬼は恐ろしい反面、力の強い神様でもあるから村を守ってもらうために数年に一度、村の男衆総出で子どもや若い女性を攫って奉納していた事もあってね。
    その生贄を攫ってくる日は必ず夏の豊作を神様にお願いする夏祭りの日と決められていたの。
    今日武道も一緒に行ったでしょ?
    「祭り」っていう日常とは違って、みんなが浮かれた雰囲気の中だと”そういう事”をするのに何かと都合が良かったんでしょうね。
    今はそういった血腥い事はなくなったけれどその時、被害にあった人達の魂を供養しようと夏祭りは毎年行われているの」

    祖母は話している間も武道の目をじっと逸らすことなく、話を続けた。

    「その鬼の姿を見た者は誰もいない。
    連れ去られた人達は誰一人として村に戻って来ていないから。
    だからね、武道。絶対に”あそこ”には近づいちゃいけないよ」

    そう祖母は最後に告げ、数秒黙った後、

    「あーお腹空いたね。何食べよう?」

    先程の緊張した空気からいつもの穏やかな祖母に戻り、「武道の食べたがってた焼きそば買ってきたからね」と二人で分けて食べたが、武道にはその焼きそばの味があまり感じられなかった。
    幼い武道にはいまいち祖母の言っていた言葉の意味が理解出来ず、ただただ祖母が普段とは全く違う剣幕で迫ってきた事が、武道にはとても恐ろしかった。


    ──────────────────────


    武道が高校一年生になったある夏の日、祖母が亡くなった。

    祖母の家は、子どもにとって娯楽のない監獄のような場所だった上、あの夏祭りの日の人が変わったかのような祖母の記憶も追加された事で幼心に武道は、「来年もここに預けられる事は無理だ」と思った。

    七年前の夏祭りの翌日、祖母の家まで迎えに来た両親を見つけるなり、

    「宿題もするし、一人でちゃんと留守番もするからどーーうしても来年からおばあちゃん家には行きたくないっ!」

    とせがんでその年の夏休み以降は、祖母の元に預けられる事はなかった。
    後から分かった事だが、武道の両親も遊んでばかりで壊滅的な成績の息子に頭を悩ませており、翌年の夏休みは自宅付近にある塾の夏期講習に通わせようと思っていたらしい。
    武道がお願いしようがしまいがどちらにせよ、祖母の家に預けられるのはあの年が最後だった。(実際塾に”通う”だけで何も身につかず結果塾代をドブに捨てたようなものだったが)
    父親の運転する車に乗り込んで

    「毎日電話するから!」

    と祖母と別れ際に約束しその武道の言葉に嬉しそうに微笑んだ祖母だったが、夏休みが終わり学校が始まるとその約束は武道の頭からすっかり抜け結局、武道から祖母に一度も電話をかける事はなく約束は果たされなかった。
    あれから七年の月日が経ち、武道が高校一年生になったある夏の日、祖母の家の近所の人から母親宛に電話がかかってきて祖母が亡くなった事を武道は母親の口から聞かされた。
    祖母とまともな会話をしたのは、皮肉にもあの夏祭りのよく分からない説教が最後になってしまった。

    正直、武道の中ではあの夏祭りの事、ましてや祖母の事すらも忘れかけていた。
    明日から夏休みという登校最終日の朝にかかってきた祖母の訃報を知らせる電話によって、あっくんたちと海でナンパして水着姿のかわいい女の子との甘酸っぱい夏の思い出を作っちゃおうという計画は儚く散った。
    水着のかわいこちゃん(死語)とのホットな夏ではなく代わりに清流が流れて、大自然が広がり、おいしい空気に囲まれる修行僧のような夏休みが決定し、色んな意味で武道は泣いた。
    薄情な話ではあるが、「秋や冬ではなくなぜ、ビッグイベントの多い夏にあんな何もないところに行かなきゃいけねえんだよ」と武道は心の内で不平をこぼしたが、それくらいは許されたいところであった。

    卍卍卍

    両親と共に七年振り訪れた祖母の家は、玄関にある色の悪い溢れんばかりに伸びた手のようなサボテンの鉢植えや定刻になるとゴーンゴーンと時間の数だけ音を鳴らす壁掛け式の木製の時計などが、自分でも気が付かないうちにタイムスリップしたのではないかと思うほど変わらずそこにあり武道は衝撃を受けた。
    武道達が到着したあと、祖母の事を慕っていたという近所の人たちが挨拶に訪れた。
    いつも自分の事よりみんなの心配をしてくれる優しい人だったとか、料理が上手で家に訪れた人にはいつも大皿いっぱいにご馳走を振る舞ってくれたなど生前の祖母の姿を嬉しそうに武道達に語って聞かせてくれた。
    そんな祖母の思い出話でほっこりとした空気になった頃、そこにいた一人のおばあさんが祖母が亡くなった事が今でも信じられないとこぼした。
    祖母はどこも痛い箇所や調子の悪いところもなく、いつも笑顔で明るくみんなの元気の源だったらしい。
    シーンと静まり返った空気の中、思い出話もお開きとなった。

    医者から武道達が聞かされた祖母の死因は一酸化炭素中毒。
    ただ、祖母の家の火元は十年前に武道の母親が一人暮らしの祖母の身を案じてオール電化住宅に内装をリフォームしたためガスに繋がりそうなものはなく、煉炭やストーブなど発生源になりそうなものも祖母の家からは見つからなかった。
    自殺の線が濃厚だとされたが、結局手がかりは見つからず不審死として処理された。
    祖母の遺体は、両目を瞑っているものの眉間に皺が寄って顔が歪み、生前の穏やかな祖母からは見た事のない苦悶の表情をしていた。
    その表情から祖母の最期が苦しいものだったと感じざるを得ず、武道の母親はそんな祖母を見て

    「一人で苦しんだのね。相談してくれたら良かったのに。母さん……。ごめんなさい」

    と手で顔を覆って静かに泣いていた。

    卍卍卍

    葬儀は祖母の生前からの希望で、祖母の家で執り行われた。
    祖母の訃報を聞きつけて、近所の人達だけでなく
    祖母を慕っていたという人達が遠方からも沢山参列した。
    武道がぼーっと立っていると、

    「武道!ご焼香してもらう人達に並んで頂いて」

    と母親から言われ、しぶしぶ列の整備をしていたところに突然、

    「万の神のお怒りに触れて、呪い殺されたんだ!!!!!!」

    と武道の家族、参列者全員が吃驚するほどの大きな叫び声が聞こえた。
    声のするほうを見やると、体が枝のように細くやつれた髪もボサボサのおばあさんがそこには立っていた。

    「もう!お母さんやめて」

    と四十代くらいのおばさんがそのおばあさんの元にかけ寄り、おばあさんの手を引いて武道たちの元へ来て「すみません」と頭を下げた。
    よくよく聞くとそのおばあさんとは、武道を実の孫のように可愛がってくれたトメさんだった。
    昔は武道が遊びに行くと、村ではなかなか手に入らないケーキや外国の缶に入ったクッキーなどのおやつを用意してくれるような人で、農作業を生業にする村人の多い中、村で唯一の刺繍教室の先生をしていたトメさんはいつもぱりっと皺一つ無い白シャツとタイトなスカートを履き髪も後ろで綺麗にひとまとめに整えていて、そんなトメさんを見かける度に祖母は「トメさんはいつもオシャレね」と言っていた。
    そのトメさんが今では、山姥のように髪はボサボサで爪も伸び放題、身につけている服はところどころ破れ汚れており武道の記憶にあるトメさんとはまるで別人だった。
    頭を下げたおばさんはトメさんの娘さんだった。
    結婚を機にこの村から遠く離れた場所へ引っ越したため、なかなか会いに行く事が出来なかったそうだがトメさんが倒れた事をきっかけに介護をするため数ヶ月前に家族でこの村に引っ越してきたらしい。

    「昔は綺麗好きで優しい母親だったんです。認知症による被害妄想や思い込みが最近特にひどくなる一方でして… 。先程母の言った事は病人の戯言ですのでどうぞお気になさらないで下さい。このような場で無礼な振る舞いをしました事をどうかお許し下さい。申し訳ございません。」

    申し訳なさそうな様子の娘さんの目元には介護疲れからかくまがあり、トメさんの手を引いて去っていった。
    武道はトメさんの言った「万の神」や「お怒りに触れた」とはどういう事か少し引っかかったものの、娘さんの様子からこの話題を蒸し返すのは良くないと思い気にしない事にした。

    卍卍卍

    葬儀も終わり、武道はてっきり東京に帰れるものだと思っていたが、葬儀の後は遺品整理という大仕事が待ち受けていた。
    祖母は一人暮らしだった割に昔の人ならではの”もったいない精神”で、モノを捨てずに何でもとっておく性格だったらしく、整理をするのも一苦労した。
    祖母の家は、田舎の農村でよくみる平屋の大きな古民家で、祖母の後に住む人間もいないため遺品整理後は家を壊して更地にし、土地を売却する予定だ。
    この田舎は都心から片道三時間かかるドがつくほどの田舎で、行き来するだけでも一日を要するため、父親も母親も何度もここへ訪ねて整理せずにすむよう、この夏の間は長期休暇を取って集中的に整理に励んでいる。
    高校生活初めての夏休みをこのド田舎で、長年居座り続けている強靭なほこりと格闘しながら、右から左へモノをただただ箱の中に詰めていく作業を繰り返す毎日で終わらせたくなかった武道は、母親に「遊びに行きたい」と抗議したところ「近々この村の神社で夏祭りがあるから行ってくれば?」と提案された。
    それを聞いた武道は、「水着のかわいこちゃんは諦めたけど、浴衣美人もそれはそれでありじゃね?てか最高じゃん!」と人生初のガールフレンドをゲットすべく、夏祭りへ行く事を早々に決めた。

    卍卍卍

    夏祭り当日、「Good Looking Guy」とデカデカと書かれたTシャツに膝丈のカーキのカーゴパンツ、足元はどこのメーカーか分からないマジックテープのついた黒のサンダルと自分史上最高のオシャレ着をキメて夏祭りへと向かった。
    「遠距離恋愛かぁ~。会いに行くとなるとここって電車走ってんのか?」とまだ気配もない空想上の彼女に思いを馳せ、夏祭りの会場である村で唯一の神社、武蔵神社までの道を歩いていると、

    『       』

    声のした方を見やった。
    しかし、周りを見渡しても近くに人は居らず、気のせいかと思ったが少し間が空いてまた先程と同じ声が聞こえた。
    声は聞こえるものの、何を言っているのか分からない。
    何となくその声の持ち主の事が気になって、武道は声の聞こえた方へと歩き出した。

    あと少しで夏祭り会場の武蔵神社のある兄山に着くのだが、その兄山へと続く山道の手前の道を左に曲がる。
    すると山道が現れた。
    この山道は兄山の山道ではなく、兄山の対となる弟山に続く山道だ。
    弟山は、武蔵神社のある小高い兄山に比べ低い山で、祖母に「行ってはいけない」と昔に言われた記憶が何となく残っていた。
    「もう昔の話だし、行ったところで何かある訳ではないだろ」と祖母の忠告よりも声の持ち主への好奇心が優り、武道は臆する事なくその山道を進んで行った。

    山道へ入るとすぐに長い階段が現れた。
    その階段を上った先にある年季の入った存在感ある木製の鳥居をくぐり、ずんずんと奥へと進んで行った。
    こんなところには来た事がないはずなのに、なぜか道を知っているかのように自然と足が前へ前へと進む。
    時折聞こえてくる何を言っているのか分からない謎の声を辿りながら歩くこと数十分。
    突然足が止まった。
    そこは大木が武道に向かって左右に二本生え、その二本の木の間にはぽっかりと砂場のような空間があり、向かって左の木のたもとには古い木造の祠が建っている。
    まだ夕方のはずなのに辺りは少し暗く、夏の割には涼しい。
    武道はその景色に既視感を覚えたもののなぜだか分からず、「テレビか漫画で見たか?」と考えていると、

    『タケミっち』

    と背後から聞こえ、驚いた衝撃でばっ!と勢いよく振り返った。
    そこには甚平姿に草履を履き、ピンクブロンドの髪をポンパドールにした幼さの残る武道と同世代であろう青年が立っていた。

    『タケミっち、会いたかった』

    とその青年が言うのと同時に強い力で武道は抱擁された。
    『会いたかった』と言われたものの、武道にはその美しい青年を知る記憶もなく、失礼な話「どちら様ですか?」な状態であった。
    武道のあからさまに困惑する様子を見た青年は、自分が認識されていないと自覚したのか

    『薄情なヤツだなぁ。これで思い出せる?』

    と握っていた右手を武道の目の前に差し出した。
    手を広げるとそこには、小さな水色のスーパーボールがあり、光の加減で時折中に入っている銀色のラメがキラキラと光った。

    『なぁ、タケミっち』

    『これで思い出せた?』と深い黒翡翠の色をした青年の両の眼が武道の様子を確認するようにこちらをじっと見つめた時、武道は「あっ!」と声を上げた。
     彼の手に握られていたスーパーボールは七年前の夏祭りの日、この村で初めて出来た友達のしるしとして武道が万次郎にあげたものだった。

    「万次郎くんだよね…?お久しぶりっすね!!あの時、ありがとうって伝えたかったのに気がついたら姿がなくてお礼も言えなかったんで、急にどこ行っちゃったんだろうって思ってました。またこうして会えるなんてすごいっすね!あの時は本当にありがとうございました!!スーパーボールも大事にしてくれてて嬉しいっす。」

    と武道は七年振りの再会で興奮し、雲一つない夏空を宿したような紺碧色の大きな瞳を輝かせながら万次郎へお礼を伝えた。

    『急に消えた…?いなくなったのはタケミっちの方だろう?』

    まさかこんなところで再会できるとは思ってもおらず、嬉しい気持ちでいっぱいの武道だったが、万次郎は武道をキッと強く睨み、突き放すような鋭い言葉を放った。

    『次の日もその次の日も…。一週間後、一ヶ月後、一年後、あれからタケミっちの事ずっと待ってた。でもおまえがどこにいるのかも分かんねぇし。あの日から一向に姿を現さなかったのってさ。タケミっち、俺の事怖くなった?だから俺の元から逃げたの?』

    万次郎が話す度に辺り一帯の空気がどんどん重くなった。
    正直、武道はあの夏祭りの事を万次郎と再会するまですっかり忘れていた。
    そもそも武道はあの夏祭りの次の日東京へ帰る予定だった上、あの七年前の夏以降祖母の元へ訪ねる事もなく、何だったら祖母が亡くなるつい最近まで祖母の事すらも忘れていたくらいだ。
    そのためこの七年間、武道がこの村へ足を運ぶ事はなく万次郎にも会えなかった。
    あまり万次郎の言わんとしている事が分からないものの、きっと万次郎は自分を助けてたのにお礼も伝えず勝手に帰った無礼を怒っているんだと思った武道は、

    「万次郎くん、あの時はすみませんでした」

    と、とりあえずお礼を伝えず帰ってしまった事に対して謝った。

    『タケミっちは何に謝ってんの』

    『あのばあさんがたけみっちを隠したからおかしくなったんだ』

    『こんな事になるならあの時、無理矢理にでも俺のものにして繋いでおけばよかった』

    と万次郎は武道を映さない虚ろな瞳で、武道にはよく分からない事を矢継ぎ早に言い始めた。
    そんな万次郎の姿を見て武道は、万次郎の様子からこの七年間で辛い事があったのだと感じた。
    彼と再会した時、彼が纏っていた雰囲気があまりにも暗く重たいもので以前よりも瞳の中に宿る光がとても弱く、目の下にはかなり長く居座っていそうなくまもあり、以前よりもやつれた印象を受けたからだ。

    「元々オレここには住んでないんで会いに来れなかったんすよ。おばあちゃんが死んでこの夏の間はこっちにいる事になりそうっすけど。たまたま入った山の中でこうしてまた会えたんだからオレ達って運命の赤い糸で結ばれちゃってたりしませんか……ね……?」

    「頼むから笑ってくれ……!」我ながらくだらない冗談ではあるが、万次郎を和ます意味も込めて武道はあえて冗談めいた発言をした。
    きっと万次郎から『冗談言うな。まじくだんね。』とか『有り得ね〜』と返ってきて、何かしらこの空気が変わるだろうと思っての一言だった。
    しかし、万次郎の反応は違ったものだった。

    『じゃあさ、俺達の出会いはタケミっちの言うように”運命”って事?』

    万次郎の言葉に武道は「えっ!?そこ突っ込むとこじゃなくて!?!そこに食いつくのか!?」と内心思ったが、

    「運命かぁ~。でも、万次郎くんはここで初めてできた友達なんで、オレにとっては”特別な存在”っすね!」

    先程まで陰鬱とした雰囲気を放ち俯いていた万次郎の顔がばっ!と勢いよく上がった。
    万次郎は目を大きく見開き頬を赤く染め興奮した面持ちであった。
    武道は「自分の想像していた反応とは違うけど、万次郎の先程までのただならぬ雰囲気は収まったようだし、まぁいっか」とこの状況を楽観的に受け取った。

    卍卍卍

    ふと、武道は「万次郎との再会はここについてほんの数十分の間の出来事だったよな?」と頭上を見上げた。
    祭りに行くまでの道中はまだ夕方の十六時頃で日も高かったはずが、ここに着いて三十分も経っていないのにあたりは森の中という事もあってか夜を感じさせるような闇が広がり、一本しかない街灯にはすでに明かりが灯っていた。
    その街灯を見上げた時、「あそこには近づいちゃいけないよ。人を食う”鬼”がいるから」と祖母の声が武道の頭の中に響いた。
    高校一年生にもなって鬼が怖いわけではないが、この山は確かに異様な雰囲気だ。
    鬼は流石に出ないにしても、ここにずっといてはイノシシや熊などが襲ってくるかも分からないし、 慣れない山道を完全に日が沈んだ状況で歩いて帰路につける自信も武道にはなかった。

    「万次郎くん、申し訳ないっすけどそろそろ夏祭りに行って家に帰ろうかと思います。あんま遅くなると親からグチグチ言われるのもめんどくさいんで。良ければここから神社も近いし、まだ間に合うと思うんで七年前は一緒に行けなかった夏祭り、一緒に行きませんか?」

    と万次郎に尋ねた。
    万次郎は七年前同様、甚兵衛を着ているためきっと夏祭り目的であろうと武道はふんでおり、ここに万次郎がいるのはきっと神社のある山の入り口を間違えて道に迷っていたのだろうと察していた。
    武道が夏祭りに行く本来の目的は彼女をゲットすることで、実際かなり意気込んでいたがその目的は見送る事に決めた。
    七年振りに奇跡的に再会した恩人である万次郎を差し置いて、自分が女の子に走るなんて今度はどんな怒りを買うか分からないし、まず顔のいい万次郎を連れて女の子に声をかけたところで完全に女の子サイドからすれば鴨という名の自分が万次郎という葱どころか最高級すき焼き鍋一式セットを背負ってくる状態で、平凡顔の自分になんて振り向いてくれる可能性はゼロ、サマージャンボが当選するくらいの確率だろう、いやそれ以下かと自覚していたからだ。
    「グッバイ…俺の甘酸っぱい青春 オブ 高一の夏……」と自分の妄想で勝手に涙ぐむ武道だったが、なかなか返答のない万次郎の様子が気になり、チラッと見やった。
    万次郎からはてっきり「そうだな!せっかくだし覗きに行くか!」と昔のような笑顔で返ってくるかと思っていたが、万次郎は穏やかな表情でただ黙って佇んでいた。
    なぜ微笑しているのか分からずちょっと気味が悪いと思った武道であったが微笑する万次郎は美しく、「美形は無敵かよ」と内心ちぇっと舌打ちしていると万次郎の口から

    『タケミっちはこの山から”一生”出れねえから。ここでずっと俺と一緒』

    と本日一番の笑顔を添えて伝えられた。
    武道は、もしかすると万次郎なりの砕けたジョークかな?(かなり笑いのセンスには欠けるけど)と思い、できるだけ明るい声で、

    「いきなりこんな何も無い山奥でドッキリでも始める気っすか?オレがいくらチョロそうだからって『おまえも俺もここから出らんねえんだ』」

    返そうとしたが、万次郎は表情を崩すことなく、武道の言葉に被せて『ここから出られない』と繰り返した。
    そんな万次郎にどこか気味の悪さを感じながらも、武道は「そんなぶっ飛んだ子どもだましにだまされやしないし、さすがに来た道も覚えているしなぁ。もしかしたら俺を笑わせようとしてくれてるのか…?にしてもなぁ…。」とどう反応すればいいのかあからさまに困った。
    携帯電話も持ってきているので何かあった時は迎えに来てもらえるし、万次郎の言葉の意図が武道には正直全く分からない。

    「万次郎くん、さすがに俺もガキじゃないんでそんな冗だ『たけみっちはあのばあさんからここにある祠の話聞かなかった?ああ、──鬼の話って言えば分かる?』」

    万次郎は木のたもとにある古い祠を指さして尋ねてきた。
    武道は祖母との記憶、七年前の祖母に説教された異様で苦い記憶を辿った。
    当時は、人を殺した鬼の話を聞いて率直に怖いと思ったが、今では祖母が勝手に出歩いた武道の事を叱るためのしつけの一環で迷信だと理解していた。
    こういう話は大人が子どもをしつける時によく使う手段だ。
    例えば、「出された食事を残すともったいないお化けが出る」とか「夜に口笛を吹くと蛇が出る」とか。
    万次郎も祖母同様、鬼の話を親から耳にタコができるほど聞かされて育ったクチだなと

    「あぁ、あのこの村に伝わる迷信っすよね」

    と武道は返した。

    『いや、あれは迷信なんかじゃねぇよ』

    「いや~。だって鬼なんてさすがに俺も高校生ですし?ビビりませんよ〜〜。冗談キツいっす」

    『いや、だってその鬼ってさ、俺の事だから』

    先程までニコニコしてた万次郎の表情が急に全て抜け落ち、ただ深淵の闇を抱える両の眼だけは、武道を逃さまいとこちらをじっと見つめていた。
    いよいよ武道には訳が分からなかった。
    この七年の間でがらりと変わった万次郎、次には自身のことを鬼だと言い出す始末。
    武道は「鬼には角や牙が生えていて、でっかい金棒持って、虎柄のパンツしか服って呼べるものを身つけてないのに(某童謡より)万次郎くんの皮膚、青くも赤くもねえじゃん。服も着てるし何言ってんだよ」と先程から万次郎の理解出来ない発言が続いた事もあって武道は少し苛立ち始めていた。
    万次郎の見た目は、どこをどう見ても人間でしかなく鬼には全く見えない。
    だからきっと嘘に決まってると思った武道は、

    「そういうノリいりませんし、はやく夏祭り行かないとそろそろ終わっちゃいますよ」

    少し強めの口調で告げた。
    一緒に祭りに行こうという誘いをこんな子どもだましのくだらない嘘をついてまで自分とは行きたくないのかと。
    怒りと悲しさが入り交じった感情で、万次郎を突き放すような言い方をした。

    『だから行けねぇんだって』

    と小さな声で気だるそうにぼそっと言葉を吐いた万次郎の声が耳に入り、

    「じゃあここで待っててもらっていいんで!適当にやきそばとかリンゴ飴とか買って戻ってきます」

    万次郎の態度に「なんなんだよ!行きたくなきゃそう言えばいいだろ!」と苛立ちがピークを迎えて武道は来た道を戻った。









    ──────────────のはずだった。

    ”はずだった”というのは武道は今、絶賛道に迷っているからだ。
    来た道を戻るだけで絶対に道はあっているはずなのに、なぜか一向に周りの景色が変わらないのだ。
    何だったら山に入る前に上ったはずの階段やくぐった鳥居すらも見えてこない。
    さらに携帯電話で時間を確認しようとしたらまさかの圏外表示。
    ずーーーーーっと暗い森を、体感で言えば一時間ほど歩いただろうかという頃に、なぜか万次郎のいる元いた場所へ戻ってきてしまった。

    「えっ………なんで…あれ?……」

    『だからいったじゃん。タケミっちはここから出られない。一生ずっと俺と一緒だって』

    困惑する武道に万次郎は「ほらな?」と武道が祭りに行けない事をさも当たり前の事だとでも言うように返した。

    「いや、そんなのおかしいっすよ。オレ、やっぱ道に迷ったのか…な……。もっかい行ってき『ここから出れねぇからって、お前に苦労はさせねぇよ。欲しいものは俺が全部与えてやれるし、願いもできる限り聞き入れてやるから』」

    先程から万次郎との会話がどこか噛み合わず、この異常事態も相まって武道はますます万次郎の事が分からなくなった。
    武道がここから出られない事を確信した物言いをする万次郎に対して最初は苛立ちを抱えていたが、ここまで言い切るという事は万次郎は何か原因を知っているのかも知れないと武道は思った。
    実際に数十分の距離を一時間近く歩いて迷うという事も通常では考えにくい。
    武道に『ここから出られない』と言い切る万次郎であればこの辺の地理に詳しいんじゃないかとふと思った。
    あの時、祖母と会えたのはきっと万次郎のおかげだと信じていた武道は烏滸がましくはあるが、七年前のあの時の様に万次郎ならきっと自分に救いの手を差し伸べてくれるに違いないと心のどこかで確信していた。

    「万次郎くん、家まで帰る道教えてくれませんか?」

    本当は一緒に祭りにと思っていたが万次郎の都合もあるだろうし、とりあえず家までの道を教えて貰って良ければ万次郎を家に招いて一緒に晩ご飯をと思った。
    しかし万次郎から返ってきた言葉は武道の期待とは全く違うものだった。

    『それは無理。だって七年も俺に会いに来なかったじゃん。あと、ここに来るまでに長い階段あったろ?その階段を上った先に鳥居があったの覚えてる?』

    確かにここに来るまでの山道を入ってすぐ、長い階段を登った。
    登った先には年季の入った木製の鳥居があった事も覚えている。
    この二つは先程武道が夏祭り会場に行こうとした際に目印として探していたものでもあったため、「覚えてるっすよ」と武道が答えると

    『あの鳥居は”あっちの世界”と”こっちの世界”の境界になってんだ。くぐってきた時点でおまえの意思とは関係なくもう家にも帰れねぇし、祭りにも行けねえよ。』

    「………?えっ?鳥居をくぐると帰れない?」「”あっちの世界”と”こっちの世界”って何だ?」と十六年間まともに使ってこなかった武道の小さな脳みその許容範囲を大幅に超える万次郎の発言に武道の脳内はついにショートした。
    今起きていることは現実なのかさえも分からなくなってきて、ただ常識では考えられないこの状況に体は震え、喉もカラカラで毛穴からはブワッと嫌な汗が吹き出した。
    そんな様子の武道を見た万次郎は

    『俺なんかに優しくしなけりゃ良かったのにな』

    とどこか寂しげな眼差しでこぼすように言った。
    夏祭りに行って、あわよくば人生で初めての彼女をゲットして、夏休みが終わればだるいながらもまたいつもの日常生活が始まり、あっくんたちと夏休み中誰も脱童貞していないか確認し合って、ゲーセンに行ったり、いつも通り山岸やマコトのバカな事に付き合わされたりするものだとほんの数分前まで信じて疑う事はなかった。
    「この山から出られない」なんて嘘のような話だが、万次郎が武道をからかっているようには思えない。
    ただ万次郎がこの状況で慌てたり、悲しむ事がなく落ち着いている事が武道には疑問だった。
    万次郎と再会した時にも感じたが、万次郎はこの七年で変わった。
    成長期だとか思春期といった類のものではなく、武道の目には七年前にはなかった大きな闇が万次郎を飲む込もうとしているように見えた。
    万次郎にとってこの七年間、山に閉じ込められる今の状況よりも辛い出来事があったのだとしたら。
    この七年間自分は毎日何も考えずに平々凡々と過ごしてきたけれど、万次郎は食事も睡眠もまともに取れないほど苦しい時間を過ごしていたのかもしれないと想像すると急に感情が込み上げ、その勢いで武道は万次郎の両肩を強くつかんで叫んだ。

    「この七年で何があったんだよ!!昔はもっと笑ってくれたし、万次郎くんの事お兄ちゃんみたいにも思えて…!万次郎くんがあの時助けてくれてなかったら今のオレはいねえんだよ!!力も弱いし、頭も悪くて逃げてばっかのオレだけど今度はオレが絶っ対ェ助けるから!!
    ……オレの母親料理得意じゃないんです。でもカレーだけは絶品で。今日家出る時、今晩カレーだから晩飯までには戻って来いって母親に言われたんです。ここで出来た初めての友達で恩人の万次郎くんを家に連れて帰ったらきっとうちの両親も死んだおばあちゃんも喜ぶと思います。
    誰かと食事を共にする事って温かい気持ちになって不思議と元気が出てくるんすよ。万次郎くんきっとご飯まともに食べれてないでしょ。
    だから一緒にカレー食べて、風呂に入って、万次郎くんのこの七年間の話聞かせてくれませんか?七年前はオレの一方的な話に付き合ってもらいましたけど、今度はオレが万次郎くんの話を聞く番です。助けて欲しい時に助けてって言う事は恥ずかしい事じゃないんすから!ねっ?」

    万次郎は七年前、武道の話に耳を傾けていた時のように優しい表情をしていた。

    『タケミっちは変わんねえな。こんな時でもてめえの心配よりも俺の心配すんだもん。ちったあオレの事責めれば気も楽になんのに。でもそんなタケミっちだから…。俺はおまえがいなきゃ、タケミっちじゃなきゃダメなんだ。他には何にもいらねえ。

    だから…おやすみ、武道』

    万次郎がそう言うと武道は急な眠気に襲われ、体が支えきれないほどに脱力し、意識も遠のいてそのまま目を閉じた。
    意識が落ちる寸前、武道は

    『これでようやく俺だけのタケミっちだ』

    と安心しきった万次郎の声が聞こえたように思えたが、穴に落ちたように意識は眠りの世界に移っていった。
    武道の体をまるで薄いガラス細工に触るかのように優しく横に抱きかかえて万次郎は歩き出す。
    自分がどこかへ運ばれている事を知る由もない武道は七年前の夏祭りの後、祖母に説教された時の夢を見ていた。

    「その鬼の姿を見た者は誰もいない。
    連れ去られた人達は誰一人として村に戻って来ていないから。
    だからね、武道。絶対に”あそこ”には近づいちゃいけないよ」

    「どっかで見た事あると思ったらこの場所は七年前万次郎くんと出会った場所だったのか」と武道は夢の中でようやく気が付いた。
    武道の記憶では祖母の説教はここまでだったが、加えてその夢の中で祖母の話には続きがある事を思い出した。

    「その昔、働き者のお百姓さんがいて、そのお百姓さんの娘さんが重い病にかかってしまって、どのお医者様に見せても原因も治療法も分からなかった。
    そこでお百姓さんは、藁にも縋る思いで武道がいた鬼神様を祀る祠までいって「お願いです!自分の持っているものは何でも捧げるますからどうか娘をお救い下さい」と願ったの。するとその願いが届いたからか娘さんの病気は治った。
    でも、娘さんの病気が良くなるのとは逆にお百姓さんはどんどん様子がおかしくなっていったらしくてね。
    ある時、気が触れたように「殺される、おれは殺されるんだ」と村中徘徊するお百姓さんの姿が見られて、そんな事があった数日後、そのお百姓さんは練炭による一酸化炭素中毒で自ら命を絶ったの。
    最初は娘さんも元気になった矢先になんで自殺なんかしたんだと村人達は思っていたけれど、あまりの突然の出来事にもしかすると自殺ではなく鬼神様に娘さんの病気を治してもらう対価が”お百姓さん自身の命”だったんじゃなかろうかと村人達は噂するようになった。
    命を引き換えにすれば願いを叶えてもらえると思った村人は、夏祭りに生贄を捧げて村の繁栄を鬼神様にお祈りするようになったの。
    この村では鬼神様のことを万の神と呼んで崇めているけどね、”神様”なんて生易しいものじゃないの。あれは化け物。心なんてものはなく、ただ人々を貶めてその生き血に飢えている欲深い化け物なのよ。
    だから武道、絶対にあの祠に近づいちゃいけないよ。」


    ────願いを「叶える」には、相手がその「願い」に見合うと看做す「対価」を要する ────


    あの日から武道の姿を見たものは誰もいない。
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    ❤💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖🌋
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    mdrm222utut

    DONE最終決戦後、大団円を迎えた未来で唯一、六本木のカリスマである灰谷兄弟だけが暗い社会に身を落としていた。”全員が”救われていない未来に「まだオレの【リベンジ】は終わっていない」と灰谷兄弟を救うべくタケミっちくんがもう一度タイムリープしたことで、本来は存在しなかったはずの思いそれぞれに生まれるif軸。
    やさしいヒヤシンス【お読み頂く際の注意事項】

    ※原作の内容とのズレや捏造箇所が多くありますので、そちらをご了承の上お読み頂きますようお願い致します。
    ※原作では登場しない灰谷兄弟が飼っている猫や設定自体もif軸になりますのでなんでも許せる方向けです。
    ※後半の方にぬるい流血表現がありますが、死ネタではございません。

    上記内容をご確認の上、お読み頂きますようお願い致します。


    ーーーーーーーーーー


    ヒヤシンスという花の名は、二人の神々から愛された一人の少年の逸話からつけられたとされている。
    その少年の名はヒュアキントスと言い、二人の神のうち一人を太陽神アポロン、もう一人を西風の神ゼピュロスと言った。
    ヒュアキントスは、移り気なゼピュロスよりも誠実で自分に対して真っ直ぐな愛情を向けてくれるアポロンに心惹かれ、やがて二人は恋仲となる。
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    DONE生まれてこの方、恋をしたことがない梵天軸の竜胆くんが廃線間近の弱小鉄道会社で駅員さんとして働くタケミっちくんに恋をしてこじらせる話。

    ※梵天竜胆くん×一般人(駅員)タケミっちくんパロ作です。
    ※本作はNotタイムリープものになります。

    ワンデイ竜武BDドロライでTwitterにてタグ参加させて頂いた作品です。
    主催者様並びに、楽しい企画を計画・実施して下さった皆様、ありがとうございました。
    HAVE A GOOD DAY! 今日のオレはとことんツイていない。
    まず手始めに、今日の仕事場が都内から離れたド田舎だという時点ですでにオレは運命の女神に見放されていた。
    普段は兄貴とセットでの仕事が多いが、今日は兄貴ご指名の別件があり、珍しくオレ一人での仕事だった。
    朝起きると兄貴はすでに家を出ていたようで、兄貴の目がないことでハイになったオレは、お飾りと化したコーヒーメーカーを引っ張り出して、朝から淹れたてのコーヒーを飲んで最高の朝を迎えようと一人張り切った。
    ……結論から言う。慣れないことを仕事前にやるもんじゃない。
    いくらスイッチを押しても一向に一滴たりともコーヒーが滴り落ちてこないため、故障を疑ったオレはコーヒーメーカーの内部を確認した。
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